ドールハウス
人間の世界に来て早一週間、いろんなことがありました。
まずは僕らの住んでいる家から紹介です。
僕らはとあるお店の一番奥のドールハウスに住んでいます。
僕らのいる一角にはドールハウスが僕の家を含め5件あります。
僕らはその中で一番奥の緑の屋根のドールハウスに住んでいます。
(以下、僕らの住んでいるドールハウスを家あるいはうちと表現します)
僕らの家は人間の頃に住んでいた家と遜色ありません。
だから村に住んでいた頃よりも凄い快適です。
僕らの住んでいる5軒の家にはそれぞれ男女ペアで住んでいます。
赤い屋根には炎の精霊、
青い屋根には水の精霊、
黄色い屋根には雷の精霊、
白い屋根には氷の精霊がそれぞれ住んでいます。
みんなそれぞれ優しくて気さくな方々です。
この人たちと一緒にしばらく暮らすことになります。
さて、僕らはあるお方に使役することになっています。
ここではご主人様と表現しておきます。
そのお方は女勇者イザルラと申します。
ご主人様はこの世界では名の知れた勇者なのだそうです。
いわゆる有名人です。
しかしここ最近は魔物が暴れることもあまりなく勇者の出番があまりありません。
勇者としての収入があまりないのです。
(と言っても年に何回か大きな仕事があるそうです)
そこで副業が大事になります。
ご主人様はドールハウスショップを何軒か経営なさっているそうです。
では僕らの住んでいる家も含めてドールハウスはどこから仕入れているのでしょうか。
聞いてみるとご主人様は作っておられないとのこと。
しかしこのお店はハンドメイドのお店、では誰が作っているのか。
答えは簡単でした。
ご主人様は結婚しておられます。
つまりご主人様の旦那様が作っておられるのです。
ご主人様の旦那様の名前はゴーディ、一応本職は勇者ですがこの世界ではミニチュア職人として名の知られたお方です。
ちなみにご主人様曰く勇者としての実力は下っ端以下だそうです。(ちょっとかわいそう)
しかし、ミニチュア職人としての腕はまさに凄く僕らが住んでいる家は人間の時に住んでた家と寸分違わないものすごい出来です。
ちなみに僕らの大きさは一般的な小学1年生の身長の12分の1です。
つまり、家の大きさもぴったし12分の1になっています。
玄関から応接間、寝室、その他各部屋、照明まで忠実に再現されている。
ご丁寧に僕らが使うことのない台所や風呂場、トイレも忠実に再現しています。
(僕ら精霊は飲食はしないし、体は常に清潔が保たれているので入浴は必要ありません)
でもそれが嬉しいのです。
人間だった前世の記憶がまざまざとよみがえってきます。
家の中にいる限り自分が人間だったことが再認識できます。
ものすごい快適です。
(もちろん家の外に一歩でも出ると現実が帰ってきますが)
人間の世界に来て改めていろいろと思うことがあります。
一番最初に思ったのは人間がめちゃめちゃ大きく見えると言うこと。
僕らが小さくなっているからなのですが、お店に来る子供や赤ちゃんがめちゃめちゃ大きく見える。
僕にとっては巨人の世界に舞い降りたように見終える。
そして人間は僕らより生きるのに必死だ。
何よりお金を稼がなければその日を暮らしていけない。
人間は飲食をしなければいけませんし、その他にもいろいろとお金がかかります。
だからご主人様も必死で働く。
それ故に僕らの相手をする時間があまりないのだ。
僕らはとにかく暇だ。
最初のうちは先輩の精霊方にいろんな話を聞いた。
確かに面白いのだが一週間もするとだんだん飽きてきた。
どの精霊の人たちも凄い体験をしているのだがさすがに一週間もすると飽きてくる。
だから僕らはいろんな所へ探検をした。
とにかく今一番飽きないのがご主人様の旦那様がいる工房だ。
ご主人様の旦那様がいろんなものを作っている。
素材から完成するまでの過程がとにかく面白いのだ。
そして完成品は緻密で正確なのだ。
形だけなら食品サンプルも作ることが出来る。(もちろんミニチュアだが)
僕は工房に来る度にいろんなものを注文する。
それを嫌な顔をせず快く受けてくれる。
僕らの注文品は無償で提供しなければいけないのに。
今日はふかふかのソファーを注文。
仕事の合間を縫ってふかふかのソファーを作ってくれた。
とにかくこの人は手際が良い。
手先も器用だ。
ちなみに普通の人には僕ら精霊は見ることが出来ない。
かなりの熟練の勇者にしか僕らを見ることが出来ないらしい。
ご主人様の旦那様ははっきりいって下級勇者、しかし僕らを認識することが出来るし会話をすることも出来る。
その理由はご主人様にあるそうだ。
ご主人様はあまりにも能力の高い上級勇者、常に精霊が群がっていたそうだ。
そして旦那様はご主人様の常に近くにいました。
その影響でだんだんと精霊を認識することが出来るようになったそうです。
このことはかなり珍しいことで周りには内緒なのだそうです。
まだ人間の世界にに来て一週間、まだまだ知らないことばかり。
これからどんな生活が待っているのだろうか凄く楽しみです。
(今回は仰々しくご主人様、ご主人様の旦那様とお呼びしましたが次回からはそれぞれイザルラ、ゴーディと呼びため口で書きます)




