炎の精霊
僕らは「風の国」を旅立った。
この国では長い時間の滞在となったが非常に有意義な時間を過ごしたと思う。
リャカヤとの仲も厳しい修行のおかげで大分進展したように思う。
さて、旅立つ時にヴィンダーから8人の精霊を使役している人間の話を聞いた。
その人物は精霊にもかなりの信頼が置かれている人物らしい。
今分かっていることはその人物が女性であること。
そしてその人物が現役の勇者であること。
ただそれだけだ。
とりあえずその人物がいるという都に向かって進んでいる。
ヴィンダーが
「都に行くには山をいくつも超えなければならない。
しかしそなたらは羽を持っている。
空を飛べば一日もしないうちに付くだろう」
と言われた。
しかし、僕は高所恐怖症だ。
ディクシア先生のおかげである程度は治っていたが、「風の卵」での経験で今はどんなことをされても空を飛びたくない。
リャカヤも僕と同意見だ。
それくらい「風の卵」での経験がきつかったのだ。
僕らは歩きを選択した。
それからまず僕らがしたことはとりあえず眠ることだ。
何しろ10年以上寝ていないのだ。
だから一ヶ月間眠り続けた。
そして僕らは今、山の中にいます。
そう、人間のいる世界に向かって進んでいるのだ。
もう山をいくつも超えて3日目という所だ。
一ヶ月間眠る続けたおかげか旅立ってから眠気を襲うことは未だにない。
改めて気づいたことだが精霊の眼というのは非常に便利だ。
夜も昼と同じぐらいに視界が良好だ。
冗談ではなく本当に昼と夜の違いが分からないのだ。
周りの動物の気配、鳥の鳴き声、虫の鳴く声からどうやら今は夜らしい。
経験則から時間帯を割り出すほかない。
とりあえず夜道をリャカヤと楽しく進んでいると、どこからか
「おい、ちょっと待ちな」
と言う声がした。
僕は気のせいだと思いそのまま進んだ。
「ちょっと待て!!
俺っちを無視するとは良い度胸だ」
僕は精霊にも不良っぽいのがいるんだと思った。
そしてそういう輩には関わりたくないと思いリャカヤを強く引き急いでその場を立ち去ろうとした。
「待てって言ってるだろ!!
ていうか待って下さい。
俺っちはとある人間に頼まれてあんたらの道案内を頼まれているものだ!!」
僕らはビックリし道を引き返した。
僕らが戻ってみるとそこには2人の精霊がいた。
そして男の精霊が女の精霊にしこたま殴られていた。
「だから、あたいは普通に呼び止めろと言ったんだ。
それじゃぁ、怖くて誰も近づけないだろ!!」
まさに喧嘩の真っ最中だ。
僕らは喧嘩が収まるまでじっと待っていた。
2人の精霊は姿は少年少女そのものだが、出で立ちはまるで暴走族のリーダーのような出で立ちだ。
そんな2人がまずは自己紹介をし始めた。
「まずは俺っちだな。
俺っちの名前はロバム。
貴様らと同じトリプルの精霊だ。
俺っちの場合は氷と水と炎の精霊だ。」
「あたいはメロニアって言うんだ。
風と雷と炎の精霊。
最後に習得した能力が本来の属性らしいからあたいらは炎の精霊と言うことになる。
道中も長いから喋りながら歩こうか」
そう言うと僕らはまた歩き始めた。
「トリプル属性の精霊は前世が人間だったということも知っている。
あたいらも前世は人間だったから。
あたいらの場合(死因)は自動車事故だったけどね。
言っとくけどあたいらはこれでも真面目だったから、普通の事故だかんね。」
僕は絶対に嘘だと思った。
絶対に暴走の果ての事故だなと。
それから僕らはいろんな話をした。
僕らの出自から今までの経験と言った話だ。
もちろん炎の精霊の人たちの今までの体験談なんかも聞いた。
そこから分かったことは彼らは僕らより大分年上であること。
そして結構な経験をしていると言うことだ。
僕らの経験が吹っ飛ぶぐらいに。
そして彼らは8人の精霊(彼らも含めて)と共同生活しているらしい。
そして人間とも。
生活はぼんやりとした日常生活が主でたまに冒険などをしているらしい。
それによく分からないが沢山の精霊がいながらプライバシーはきちんと守られているから安心しろとのこと。
そんな話もしていた。
そうこうしていると街らしき場所に着いた。
僕らは導かれるままにとあるお店に入った。
そのお店はどうやらドールハウスショップらしい。
そこの主人らしき女性が
「あらあら、かわいらしいお客さんね」
と声をかけてきた。
しかし一瞬で顔が変わり
「ごめんなさいね。
普段は子供相手の商売だから。
ここは私が商売しているドールハウスショップ。
私の職業は勇者だけど、今日日勇者だけでは食べてはいけないの。
私が8人の精霊を使役しているイザルラというものよ。
一応、精霊の長の人からあなたたちを預かるように言われているの。
これでも精霊の人からは一目置かれているから。
今日からあなたたちはこの家の精霊よ。
心置きなく寛いでね。
それとあなたたちの部屋のことなんだけど、この店の奥にドールハウスが4つあるの。
そしてそこにもう1つ真新しいドールハウスが置いてあるからそこがあなたたちの新しいおうちよ。
外からは見えない特殊な加工をしているからプライバシーは保たれていると思うわ。
人間の時と変わらない作りになっていると思うし。
とりあえず今日はその家で休んでいってね」
僕らはその真新しい家でとりあえずこれまでの疲れを癒やすことにした。
これからどういう生活が待っているか少し不安です。




