「風の卵」
「早よ起きんかい!!」
そう言われて僕らは目が覚めた。
起こした張本人はヴィンダーという人だ。
ディクシア先生の祖母に当たる人だそうだ。
今日から僕らはこの人に師事することになる。
年齢はかなり上だが見た目は子供にしか見えない。
ヴィンダーは続けて
「今日からわしが教えることになるのだが教えることはただ一つ。
「風の卵」の中に入ることじゃ。
場所はこの前観光で見てきたとおりの場所。
わしらの聖地じゃ
そこは上位の風の精霊しかは入れない場所。
君らはまずそこに入る資格を得るための修行をするのじゃ。
なぁ〜に、そなたらは既にトリプルの精霊になる資格を得ているのじゃ。
1年もせずに風の能力を獲得し、すぐに「風の卵」に入る資格を得るじゃろう。
わしもこんな未来の明るい弟子を持ったのは初めてじゃ。
楽しみにしておるぞ。
しかし、そのためには厳しい修行が待っておるから覚悟しておくのじゃぞ」
それから僕らは予想以上の訓練をした。
まずは自力で竜巻を起こす訓練。
これを習得するのに半年以上かかった。
そりゃそうだろう。
元々風の能力がなかった僕らはゼロから習得しなければならない。
最初は竜巻どころか旋風を起こすのに1ヶ月以上かかった。
特にヴィンダーは厳しい師匠で
「こんな基礎基本も出来ないのか。」
「本当に才能があるのか?」
「ディクシアは一体何を教えてきたのか?
本当に使えん弟子じゃのう。」
と修行をする度に罵詈雑言の嵐。
修行が終わる度に落ち込んでしまう。
そんなときいつもツンデレのリャカヤは
「本当にあのババアむかつく。
あんな奴のいうことなんか気にしなくて良いから。
顔はかわいいかもしれないけど性格は最悪ね。」
と言って励ましてくれた。
といってもディクシア先生と過ごした6年間も決して無駄ではない。
授業の合間にたまに授業中に見せてくれた風の能力ははっきり覚えている。
当時は僕らとは関係のない能力だからぼんやりとしか見ていなかったけれどさすがは精霊の記憶能力。
そのぼんやりとした記憶でも今ははっきりと思い出せるのだ。
どうやって能力を発動させるのかを。
ただ頭で分かってても体を動かすのは訳が違う。
一つの能力を習得するのに半年以上かかってしまった。
しかし、この能力を習得するとヴィンダーは今までの態度から打って変わって
「やっと習得出来た。
しかし、これらの能力を半年で習得出来るなんてやっぱり天才じゃのう。
本来は普通の風の精霊で10年以上かかる修行を半年で出来るようになった。
多くの風の精霊が脱落する修行をじゃ。
孫のディクシアなんて100年かけて習得したのだじょ。
わしはお前には才能がないから諦めろと言ったのにディクシアは「諦めたらそこで終わり、諦めないことが才能だと思うの」と言って結局100年かかった。
それをそなたらは半年で習得した。
やっぱり天才じゃのう」
と言って褒めてくれた。
どうやら今までの言動はわざと厳しく接してくれていたらしい。
その心遣いを思うと涙が出てきた。
そしてヴィンダーは
「これからそなたらは「風の卵」という場所に向かってもらう。
最後の修行じゃ。
今までの修行には風の精霊の能力の全てが詰まっている。
この修行をクリアしただけで上位の風の精霊じゃ。
そして最後の修行は「風の卵」の中で1年間過ごすことじゃ。
言っておくが「風の卵」の内部に入るだけでも骨が折れる。
その中で1年間過ごすのじゃ。
「風の卵」に入ったら1年間外に出ることを禁ずる。
中ではただ単に普通に過ごせば良い。
普通に過ごすことも困難じゃろうが。
あと、そなたらは普通の精霊とは違い睡眠が必要なようじゃがあの中では一睡も出来ないことを覚悟しておくこと。
寝だめが必要だったら寝てから出発することも出来るのじゃがどうする?」
僕らは悩んで一晩だけ寝ることにした。
すぐにでも出発したかったがさすがに今はへとへとだ。
それに僕らは寝だめをすることが出来ない。
寝るにしても一晩が限度だ。
そう僕らは決断した。
翌日、僕らが起きたのは昼頃だった。
ヴィンダーが気を遣って寝かしてくれたらしい。
僕らはヴィンダーが用意した「風の船」で「風の卵」に向かった。
「風の卵」は「風の国」に入る時のゲート(竜巻)と同じように見えた。
ただ、規模はかなり違って近くで見ると何十倍、いや何百倍にも見える。
聞くと一つの国がすっぽり入るぐらいの大きさなのだそうだ。
この前観光で見た場所はその端っこと言うことらしい。
やはりというべきだろうか。
そこに入るのに1ヶ月以上を労した。
しかし、問題はここからだった。
中は常に経験したことのない強風が吹いているのだ。
しかも外に向かって。
気を抜けばすぐに「風の卵」の外に追い出される。
その時点で「風の卵」の中にいた日数はリセットされる。
まさに賽の河原だ。
ここで普通に1年か過ごすことを考えることすら至難の業だ。
最初は僕らははぐれないように常に手を握って生活をした。
結局ここで1年過ごすという課題に10年以上を使った。
そして僕らはここを旅立つことになった。
修行が全て終わったからだ。
ヴィンダーは泣いて僕らを見送ってくれた。
僕らはそれを見てものすごく感動した。
そして僕らは人間を見つけるための旅をしなくてはいけないらしい。
精霊とは人間に使役するものらしい。
特に上位の精霊は。
と言ってもだらだらと人間に使役せずに暮らしている精霊も山ほどいる。
僕らに与えられた永遠に近い命。
ただだらだらと過ごすのはもったいないので仲間のトリプルの精霊を全員見つけ有意義な人生を迎えたいと思う。
ただヴィンダー曰く残りの8人の精霊は1人の人物が使役しているとのこと。
その人物はかなり能力が高く精霊にも信頼されている人物だということ。
そう聞くと早く会ってみたいと心から思う今日この頃です。




