マグマ
あっという間に季節が過ぎ外はもう雪景色です。
昨日降った初雪がもう2,3メートル降り積もっています。
体が小さくなったせいか僕の感覚ではその10倍以上降り積もったように感じます。
さて、僕たちは今ある場所にいます。
と言うのも今日担任のディクシア先生が教室に入ってくるなり開口一番
「今はもう冬ですね。私たち精霊は季節というものにあまり関心がありません。そもそも暑さ寒さなど感じませんしね。しかしあなたたちは前世の人間としての記憶が残っているせいか少し人間の感覚が残っているみたいですね。」
確かに僕や同級生のリャカヤは人間の時ほど敏感ではないが暑さ寒さを感じる。
授業前もお互いに「寒いね」と声を掛け合っていたほどだ。
そして先生は
「暑さ寒さを感じるのはほとんど精神的なものなんだけどね。だけどそんなに寒がっている生徒を見過ごすことは出来ないわ。だから、これから野外実習として体の温まる場所へ連れて行ってあげる。野外実習も久しぶりだしね。」
僕は南国かどこかへ連れて行ってもらえると思った。
さらにハイレベルな授業も今日は休みなんだと浮かれていた。
でもゲートを抜けるとその気分は暗転した。
なぜならそこは雪の降り積もるとある山の山頂だったからだ。
そこは僕たちのいた場所よりもうんと寒い。
なぜ僕たちをここに連れてきたのかを先生に聞いてみた。
先生は
「人間というものは寒いときに温泉に入ると聞いたわ。今日は今までの勉学の疲れを癒やすために温泉に連れて行ってあげる。十分に疲れを癒やしなさい。」
と笑顔で答えた。
しかし、その笑顔が少し不気味に感じた。
なぜか僕たちを馬鹿にしているように感じたのだ。
なぜそう感じたのか理由は分からない。
もしかしてこの先生は僕たちをドッキリにでも仕掛けようとしているのかとふと思った。
僕たちの担任はいわゆるドジっ娘だ。
それも人間ではあり得ないぐらいのドジっ娘だ。
どれぐらいのドジっ娘かというとある実験の授業で過って毒ガスを発生させてしまったことがあるぐらいのドジっ娘だ。
小さいレベルでは枚挙にいとまが無い。
ちなみに根はいい人なのだがとてもいたずら好きだ。
しかし根が良すぎるのですぐにばれる。
小さい嘘でも隠しきれないのだ。
そして、そうこうしていると数十分で目的地に着いた。
着いた場所はマグマがうごめく火口付近。
そして先生は
「さぁ、温泉に着いたわ。思う存分浸かりなさい。」
と言った。
僕たちは「嘘だろ」という目で先生をにらんだ。
そのとき明らかに先生の目が泳いでいたので確信犯なんだと僕は確信した。
先生は
「温泉というのは冗談。いくら何でも人間が入れる温度ではないしね。」
人間が入れる温度どころか一瞬で死んでしまう温度だ。
「ちなみにこの下は約1000度ぐらい。もちろん温泉というのは冗談だけどこのマグマの中に入るのが今日の授業よ。大丈夫、私たち精霊は1000度ぐらいで死にはしない。そもそも死なない存在だしね。いいからその中に入りなさい。人間では味わえない景色が見れるから。」
と言っても僕は躊躇した。
なぜなら熱気が直に伝わってくるから。
精神的なものだと言っても熱いものは熱い。
本当に大丈夫なのかと躊躇っているとリャカヤが
「何、怖じ気づいているの。意気地なしね。ほら一緒に入りなさい。」
と僕の手を引いて一緒に落下していった。
僕は死ぬと思い、目を瞑った。
「何、目を瞑っているの。ほら、目を開けなさいよ。」
僕はリャカヤに促されるように目を開けた。
そこはさながら紅の世界。
とても鮮やかな紅い光に僕たちは覆われていた。
この世界では全てが真っ赤に染まっていた。
リャカヤの顔も。
まるで純度の高い紅いルビーの宝石の中にいるみたいだ
そしてこの紅い光にしばらく呆然としていた。
しばらくするとリャカヤは
「入るまではとっても熱気を感じていたのだけど不思議と中は熱さを感じないのね。」
そういえば僕も熱さを感じない。
先生の言うとおり暑さ寒さは精神的なもののようだ。
そして僕たちより遅れて先生が入ってきた。
先生は
「どう、この景色。とても綺麗でしょう。人間の時は決して味わえない景色。私はこういう景色をいっぱいあなたたちに見せたいの。自然のエネルギーなしでは私たちは存在し得ないの。私たちは自然と共に生かされているいる存在だから。だから、自然のエネルギーを直に感じられる場所に行く必要があるの。学校にいる間、いろんな所に連れて行くからね。人間が決して踏み入れることが出来ない絶景を見せに。」
誇らしげにそして楽しげに先生はそう語った。