深海
季節は夏。
日差しがまぶしい季節になってきた。
外は大分暑そうだ。
幸い僕たち精霊は暑さを感じない。
僕は前世では暑さに弱かったのでかなり助かっている。
今日もいつものように担任のディクシア先生が教室に入ってきた。
そして開口一番
「人間というものは夏になると海に行くらしい。あなたたちも海は懐かしいでしょう。」
どうやら先生は海水浴のことを言っているらしい。
僕は前世では海水浴を一度もしたことがない。
だいたい、海というものはテレビや写真や本でしか見たことがない。
この世界で初めての海、それを聞いただけで心がわくわくした。
ところが先生は次にとんでもないことを言い出した。
「ただ、海に行っても面白くないわ。どうせ行くなら人間が踏み入れることが出来ない場所が良いでしょ。」
僕は別に精霊になったからってそんなトリッキーな場所に行きたいわけではない。
確かにこの前の標高30,000メートルの山の頂上なんてなかなか行けるような場所ではない。
そういう神秘的な場所に行くのは年に1回ぐらいがちょうど良い。
何しろ、この前はかなり疲れたのだ。
どのくらい疲れたのかというと、3ヶ月も前のことなのにまだあのときの疲れが残っているほどだ。
その上、また、大変なところに行くとなるとからだが持たない気がする。
僕の思いとは裏腹に先生は
「水深10,000メートルの海底に行ってみるのはどうでしょう。人間にの時には体験できないことがいっぱい体験できますよ。」
と言うと僕たちに有無を言わさずゲートへと連れて行った。
同級生のリャカヤは僕とは反対で目をキラキラさせている。
そして僕に
「今度はどんな世界だろうね。楽しみだね。」
と僕に話しかけてきた。
そして僕が元気なさそうにしていると
「情けないわね。私たち精霊なんだからシャキッとしなさいよ。そういえば、前世では勉強ばかりで運動はからっきしだったけれどまさか今でもそうなの。精霊なんて体力が無限なんだから気の持ちようよ。しっかりしなさい。」
同級生にそう励まされながら僕はゲートに着いた。
そして、僕たちはゲートをくぐるとみたことのない世界が広がっていた。
そこは青く明るく幻想的な世界。
そして、僕の真上を深海魚が通っている。
僕はその景色に圧倒した。
でもそこで僕はふと疑問に思った。
なぜなら、深海の世界は光が届かない世界。
なぜ僕たちの目にはこうも明るく見えるのだろうか。
先生はこう解説してくれた。
「私たち精霊は普通の生き物に比べて視覚、嗅覚、聴覚が非常に優れているの。どのくらい優れているかというと全ての生物の中で1番優れています。まぁ、意識すればね。だから、どんなに暗いところでも意識をすれば昼間のように明るく見えるってわけ。ちなみに意識しなければ人間並みなんだけどね。」
つまり、先生の言うことを要約すると僕たちは精霊だから深海でも昼間のように明るく見えるらしい。
先生は続けて
「ちなみに私たちの体はエーテルというもので出来ています。エーテルというものはこの世のあらゆる所に存在します。宇宙にもね。この体のおかげで水圧の高い海底にも行けるのです。そして呼吸も食事もしなくても生きていけるのです。」
僕たちは自分の体をなんとチートな体なんだろうと感心していた。
しばらくすると先生は
「私がここに連れてきたのは別にあなたたちを感動させるためではありません。あらゆる環境下でも精霊としての使命を全うさせるための訓練として連れてきているのです。感動はそこまでにしてあなたたちそれぞれの能力をこの環境下で発動してください。」
というと僕たちは精霊としての実技訓練へと移った。
僕は手始めに炎を出すことに決めた。
手のひらから火の玉を出すのだが、水圧が高いせいかなかなか出しにくい。
そして火の玉を出し切った瞬間にとんでもないことが起こった。
ボンッとでっかい爆発音と共にとんでもない爆風が起きたのだ。
僕はあまりの出来事に唖然とした。
恐らく水蒸気爆発が起きたのだろう。
僕はその威力に呆然と立ち尽くしていた。
リャカヤは自分の特性を生かし海底で電流を巻き起こしていた。
「エイッ」とリャカヤは気合いを入れると数百メートル以内にいた深海魚たちは一斉にけいれんを起こし動かなくなった。
その威力は地上のものとは全然違う。
ちなみに深海魚たちは先生のシールドのおかげでけいれんしただけでケガもなく命には別状がないのでご安心を。
次にやったのは僕とリャカヤの共同作業。
リャカヤの氷の能力と僕の水の能力を使った作業だ。
海水というものは凍りにくい。
だからこの場所でリャカヤの能力を使うには僕の力が必要だ。
僕は真水を能力で出すことが出来る。
それをリャカヤは凍らすのだ。
時間はかかったけど結果は大成功。
そんなこんなで僕らの深海での実技訓練は終わった。
先生が言うには次はもっと過酷な場所に行くのだとか。
精霊生活も楽なものではないなと思うこの頃です。