旅路
「なぁー、まだ歩くのか?」
「う~ん、さっきの露店のおばちゃんの話によると、もうすぐの筈なんだがな」
「道を間違えたんじゃねぇの?」
「一本道を進めと言われたのにどうやって間違えればいいんだよ」
「だけどさぁ、おばちゃんの話だと、あそこから30分で行けるって言ってたぞ?」
「そう言われてもな、現にこうして1時間以上歩き続けても、市場らしきものは見えないからな」
「おばちゃんの話は嘘か?」
「そんな風には、見えなかったが」
「流石に、そろそろこの街を出ないと不味いんじゃない?」
ロウがアタシを助けるためあの警官達を殺して、アタシが旅に出る決意をしてから今日でちょうど2日目になろうとしていた。
あの事件は、凶悪な殺人犯の起こしたものであると報道され、警官の数も増えたために、アタシ達は、準備の為も日数を空けて出発することにしたのだった。
「そうだな、だけどその前に買い物は済ませておきたいから市場を目指しているが、一向に着く気配がないな」
「どうなってんだ?最近開発されてる魔法の力か?」
アタシは冗談のつもりだったが。
「なるほど!そう言われてみれば、そうかもしれんな!」
「おいおい、冗談を真に受けるなよ。第一、魔法を使うための魔導具が、こんな貧民層の暮らす街にあるはずがないだろう?」
魔法とは――近年になって開発されてる機械、魔導具から発せられる力のことで、魔導具を体に装着することで使用する。しかし、魔導具の開発は非常に困難を極め、多額な開発費も要するために、世界でも数個と数も少ない。何よりもその特徴はその能力は個人によって異なると言うことだ。
「大体、この街に魔導具があったとして、何でアタシ達を狙ってるんだよ」
「さぁ、既に警官殺人犯の容疑がかかってるのかもな」
「もしかしたら襲われるってことか?」
「そういうこと、気づいてるか?人払いがされている、魔法ってのはこんなこともできるのか」
ロウの言う通り、辺りにはアタシ達以外の人間が誰一人として残っていなかった。
すると突然、目の前が陽炎のように眩んだかと思うと、いつの間にかアタシ達は市場に立っていた。
「消えたのか?」
「そのようだ」
「アタシ達を狙っていたわけではなかったのかな?」
「それは、恐らくあり得ない。でないと俺とお前も人払いでもされてとっくにここに着いている筈なんだ」
「どうする?」
「とりあえず警戒だけしながら買い物を終わらせるか」
「何を買うんだ?」
「まずは、保存の効く食料と水それと、お前の装備かな」ロウは、アタシに近づくと、腰に下げていたナイフを手に取り。
「このナイフだけじゃ駄目だな、これから砂漠都市に向かうし」と、言った
「あれ?古城都市に行くんじゃないのか?」
「悪いがそこは、最終地点だ。第一、古城都市は現在異常なほど貿易を嫌がっていて、国から遠く離れた所や港でも検問を置いてる。それに此処から古城都市まではかなりの距離だ、金が足りなくなる。ということで、俺の仕事で金を稼ぎながら行くことになる」
「わかった、それなら仕方ないな」
それからロウはアタシに次々と装備を渡してきた。
まずは、服あちらこちらが革で出来ていて丈夫で、濡れてもすぐに乾くらしい。
次はこちらも革製のブーツとグローブ、そして最後はゴーグルと仕込み針の入ったベルトだった、こんなのどこに売ってたんだか。
「仕込み針は毒が塗ってあるから自分に指すなよ?死にはしないが、体が一時的に麻痺して身動きがとれなくなるぞ」
「わかった」
「よしよし、サイズもぴったりだな動きにくくないか?」
「問題ないよ」
「そいつは結構、じゃあ主発するか」
「よしきた!主発しよう!」
ついに旅が始まる、アタシはその事に高揚感を覚えた。そして、街からの第一歩を踏み出そうとしたとき、その声は聞こえた。
「申し訳ないが、主発はご遠慮願うよ殺人犯」
声に反応して振り替えると、そこには、白髪混じりの髪の背の高い初老の男が立っていた。
「あぁん?何だよアンタ、何か用か?」
男の方に歩み寄ろうとしたアタシは、ロウの手によって、制止させられた。
「何だよ?」
「人が消えた」
「え?」
辺りを見回すと、本当に誰一人民間人が居なくなっていた。
ここは大通りだぞ?急に人が消えたなんてあり得ない。
「魔法か!」
「ご名答。これも私の能力の一つです」
自慢気に左手首の腕輪を見せながら、男は答えた。
「それが、魔導具か」
「「「私はゴルストラムス、この街で町長をやっているものです。そしてさようなら、殺人犯さんとお嬢さん」」」
男の姿が3人に増え、その手に持った円形の刃物を何枚も投げつけてきた。
「鼠!下がってろ!」
ロウは自分の荷物をアタシに投げると、ケースから武器を取り出してそう言った。
「これはこれは、面白い物をお持ちですな」
投げた輪を弾かれた町長は、ロウの武器を品定めするような目で見ていた。
「どうした?かかってこいよ、町長」
「では、お望み通りに」
町長の姿が3人に増えると、それぞれがロウに向かって走った。
次々と別の方向から投げられた輪を避けることで精一杯のロウは自分の背後に現れた分身に気が付くのが遅れ、そして。
「しまった!」――ザクリ
輪はロウの顔面に深々と突き刺さった。そして、動きの止まったロウに次々と輪が刺さる。完全に戦闘不能になったロウは、ばたりと倒れて動かなくなった。
「案外、呆気ないものですね。さてと、次は貴女の番だお嬢さん」
自分の勝ちを確信した町長は、アタシの方に振り替ると、脅かすような声で言ってきた。
「どうだかな、アタシでも倒せるかもしれないぜ?」
アタシはナイフを構えた。
「貴女だって痛い思いは、したくないだろう?おとなしくナイフを渡しなさい」
町長が左腕を伸ばしてきたときだった。
伸ばしてきた左腕は宙を舞った。
「これで、魔法は使えないな?」
腕を飛ばしたのはロウだった。
「腕!腕がああぁぁぁ!」
町長は痛みに悶えている、運の悪いことに、魔法が無くなったのと町長の悲鳴で、人が集まって来てしまった。
「どうした!」「あれは町長じゃないか?」「あいつが事件の犯人か?」「誰か!警官を!」
不味いな。
「ロウ!」
「わかってる!ほれ!」
ロウが投げてきたのは、町長の魔導具だった。
「逃げるぞ!走れ!」
言われた通りに、アタシ達は街を後にした。