家族
決して、意味が解らないということではない。だから、今こうしてこいつは生首で喋り、首なしでも戦えたのだろう。でも普通の人間は、そんな不死身の人間がいるなんて考えつかない、実際に見たとしても理解できない、理解したくない。
人間は自分よりも上位の存在を本能的に許したくはないのだと思う、だから心の何処かで、否定する。
「ば、化け物」アタシは思わずそう呟いた、それが、助けてくれたロウを傷付ける言葉とわかっていても、アタシは、そう言わずにはいられなかった。
「あらら、そりゃ怖がるよな。ゴメンな?けど、最初に話しても信じてもらえないと思ったんだ。」ロウは申し訳なさそうに、顔をしかめた。
「それ」「ん?」「頭、くっつくのか?」
「ああ、忘れてた。大丈夫!きれいに治るよ。」そう言うと、ロウの体が動きだし、頭を拾って自分の首に乗せた。すると、ぐじゅぐじゅと不気味な音がした後、ロウの頭は首から落ちることはなかった。
「ほらな?治っただろう。体の鉛弾は、後でお前の見えないところで取り出すことにするよ。」
ロウは、アタシが怖がらないように頭を戻して、人間のカタチに戻したのだろうが、アタシには生首や、死体よりも、きれいにもとに戻ったロウの方が、よほど恐ろしく感じた。
「そう言えば、ダメだぞ?一人であちこち行ったら」
アンタは親か。
「オッサン、何でここの場所がわかった?」
「俺に情報をくれるやつがいてな、それでわかった」さっきいっていた情報屋と言うやつか、そんなのに知られているなんて、あの警官もなかなかミスが多かったというか、詰めが甘いな。
「・・助けてくれて、ありがとう」
話すことに困って、出てきた言葉は、それだけだった。
「今日は、その言葉ばかり聞くな。どういたしまして」
「ところでお前、どこに行こうとしてたんだ?」
「アンタが、怪しかったっていうのもあったけど、アタシは自分の目的で古城都市に行こうとしていたんだ」
本当は、秘密にしようとしていたがいずれロウは見抜きそうだったので、話すことにした。
「そりゃ何故だい?」
「アタシの本当の家族の墓があるところらしい」
「らしいって、確定してないのか?」
「売られた後に、飼い主から聞いたから」
「そうか、だけどなぁ」
「何だよ」
「古城都市に行こうとしてもあそこは今すべての貿易を停止中で船どころか陸からも入れないぞ?」
「え?」――アタシは思わず聞き返した。――
「どうしてそんなことに?」アタシは今まで抱えていた、ロウへの恐怖など、とうに忘れていた。
「政権交代だよ、国中を仕切るやつが変わったんだ。こいつがなかなか変なやつでな、何を恐れてるんだか知らないが、国に自分の許可なしで誰も入れなくしたんだ。」
知り得なかった事実に、驚愕した。
「にしても、古城都市なんか場所がこの国の裏側じゃねぇか鼠、お前どうやってきたんだ?」
ロウはそう尋ねてきたが、アタシはそれどころではなかった。
「・・・」
「しょうがねぇか、ほらとりあえず宿に戻るぞ?」
そう言ってロウは、あの大きな刃物を箱にしまって、アタシの事を抱き抱え宿に向かった。
このときは、古城都市の事で頭がいっぱいだった。
「望遠鏡なんて嘘だったじゃねぇか」
宿について、ようやく落ち着いたアタシは、気になっていた物について問いかける事にした。
「すまんすまん。でも、これの事を話したらお前が怖がると思ってな」
「で?結局何なんだよそれ」
「見てのとおりの武器だ、戦うための」
「何と?」
「さっきみたいなのとか、怪物とか」
「アンタ、さっきみたいな事ばっかりやってんの?」
「詳しく話すと、情報屋からの情報をもとに、色々な凶悪犯等を始末する仕事かな」
「儲かるのか?」
「まぁ、この世界には悪人は大勢いるからな」
「ふぅん」
「お前、これからどうする?」
「どうするって?」
「あの警官達を殺したからいずれ本部にも伝わるぞ?」
「殺したのはオッサンだろ?何でアタシが追われるのさ」
「お前は臓器売買の話を知ってるし、俺と一緒に居たところも見られてない筈はない、追われる理由にしては充分だろ?」
何てこった、アタシは被害者だってのに扱いは殺人の共犯かよ。
「一緒に来るか?」
「え?」アタシは、ロウの言った事に驚きを隠せなかった。
「だから、一緒に来るかって聞いてんだよ」
「何でアタシが、化け物と人殺しやんなきゃいけないんだよ?」
「酷いな、これだってもともとは、人間だったんだぜ?300年くらい前の話だけど」
「さ、さんびゃ・・嘘だろ?」
こいつ、不死身なだけじゃなくて歳もとらないのか。
「本当だって。」
「まぁ、どのみち来ないとお前は捕まるけどな」
「強制かよ」
「強制じゃない、来るかどうか聞いただろう?」
殆ど脅しだったくせに。
「・・・アンタの目的は?」
「何だろう、世界平和?」
「なんだそりゃ」
「鼠」
「何?」
「お前、どうやって古城都市へ行くつもりなんだ?」
「・・・」
そうだ、全ての貿易を停止中と言っていたっけ。
「人殺しはしないからな。」
そう言った途端、ロウは満面の笑みになり、腰かけていたソファーから飛び上がらんばかりに立ち上がった。
「そうか!そうか!一緒に来るか!それなら急いで準備しよう。ちょうど次の依頼もあることだしな。」
そのときのロウは、まるで子供のようにはしゃいでいた。
「そうだ、確かに人殺しは良いことではないが 、危ないときに使えるようにこれを持っておけ」
とか言いながらロウは、アタシに一本のナイフを渡してきたのだった。
「じゃあ改めて、よろしくな鼠」
「うん、よろしくロウ」
アタシは、化け物と旅に出る。