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 ミューセリア、人と霊魂が共存する世界。

 争いのない平和を謳歌していた世界に突如、「ゲート/異界の門」から「ファントム/悪霊」がなだれ込み世界に恐慌が訪れた。

『ゲシュペンスト/黒幽霊』、『ファンタスマ/白幽霊』、『レムレース/灰幽霊』。

 ありとあらゆる悪霊が世界を覆いつくす。

 人々はファントムから逃げまどうがなすすべなく蹂躙された。

 もう人々が諦めかけたときとある青年が世界に現れた。

 その青年、霊を纏い、悪霊を切り裂く者、人々はその者に畏敬を籠めてこう呼んだ。

「テルプショコラー]

 精霊を纏いし歌武の戦士と。


 ―――


「えーこれがわたしたち「ガード/守衛」と呼ばれる前の戦士の呼称であり――」

とある教室の一室、教員が生徒に向けて教鞭を揮っている。教室には30人ほどの生徒、天気は快晴で窓から心地よい風が流れている。


「霊能を使い、戦う術を得た初めての職業だな。まあ、昔は霊能を内蔵している武具もなく、直接体内から霊能力を出すしかなかったため、どのようにしてファントムを退治していたのか未だ未解明でありテルプショコラーは伝説上のスタイルとして――コラ!! ゼプト」


 教員の投げたチョーク型のペンが寝ている生徒『ゼプト』に飛来する。


「あてっ」

 飛来するチョークは見事に授業を寝ていたゼプトの頭部へ直撃。


「ゼプト、いつもおれの講義を寝おってからに、そんなにおれの子守唄は良いかね」

「いやー、『ウェイン』先生の子守唄はサイコーにいい夢見れますよ」

 ウェイン教員の怒髪天にも怯んだ様子もなく、ゼプトは活発に声をあげる。


「そうか、そうか、ならば眠気覚ましに運動してこい!!」

「イエス、ロード」

 ゼプトは起立し、肘を直角に、指をこめかみに鋭角にかざす。


「まったく敬礼だけは一人前だな。よし。いますぐグラウンド10周してこい」

「ちょっとウェイン先生、グラウンド10周って、フルマラソンじゃないですか、走り終わったら今日の授業全部終わってますよ」

「ほかの教員にはおれの特別授業を課したと言っておく。ほら今日中に終わらなければ補修にさせるぞ」

「不肖ゼプト、走ってきまーす」

 補修を受けるのが嫌なゼプトは風を切り裂くように教室から退室してグラウンドに向かって加速していった。騒々しい嵐が去った教室に静寂が訪れる。


「まったく、そんなにおれの補修が嫌かね」

 ウェインがぼそりとつぶやくと、教室にいた生徒が全員一斉に首を縦に振った。


「はは、鬼の異名はまだ名乗れそうだな」

 フィンブルヴェト学院教員『ウェイン・ラファーヴ』別名『悪鬼の迅雷/イビルヴァイオストーム』。

 鬼の異名の通りハードな教育姿勢をとる教員。一説では正規の騎士団中隊全員を足腰が立たなくなるまで肉体言語で指導したという伝説まで残す鬼教官。


「ふふ、だがおれの授業を寝るのはあいつゼプトくらいか」

 そんな鬼教官の授業で惰眠をむさぼる神経を持つ生徒。

 二学年『アタッカー/攻撃手』科、ゼプト・F・テッラ。第44分隊所属。

 別名『霊能力皆無の体力馬鹿』

 このフィンブルヴェト学院、幽霊退治専門学校、『ガード/守衛」育成機関の異端児。

 それがゼプトの学園内での立ち位置。



「くそ先公ウィインめ。いつかぎゃふんといわしてやりてぇぜ」

「ほんとそうだよな。ダチ公ゼプト」

「あれ? 『クロス』」

 寝ていた罰でグラウンドを律儀に走るゼプトのほかに、グラウンドには先客クロスがいた。


「なんでおまえもここにいるんだよ?」

「いやー。ちょっと芸術鑑賞で水中戦闘を眺めてたら、ウサギちゃんたちがおれを巡って争いはじめちゃってね」

「あーはいはい。女子だけの講義を覗いてボコられて、罰食らったのね」

「ぐっ、そうともいうな」

 この覗き魔は、二学年、『スナイパー/狙撃手』科、クロス・リンドウ。

 ゼプトと同じ第44分隊所属。別名『エロワンダラー』

 エロがあるところにこの男在り。

 エロの動体視力、瞬間記憶能力では誰にも比肩させない実力者。


「そっちこそなんでここにいるんだい?」

「ウェインのくそ先公の子守唄のせい」

「なるほどね。あの先生相手によくやるよ」

「うるせー。そんなことより、今度はおれも芸術鑑賞に同行させろよな」

「もち。さすがダチ公」


 フィンブルヴェト学院の二大問題巨頭。ゼプトとクロス。

 このふたり揃うとき問題なきことあらず。


「そういやゼプト、明日の転校生の話聞いたか?」

「転校生? こんな中途半端時期にか?」

「そうそう。なんでも女子。それも美人ってウワサだ」

「それがどうしたんだよ」

「いや、ほら、おれらの44分隊、いま4人しかいないから試合に参加できないじゃん。だ、か、ら。転校生を分隊に誘っちゃおうってわけ」

「そんなにうまくいくか?」

「いやいや。やらずに後ろ向きはダメでしょ? 試しに誘ってみようぜ。それにおれに秘策有り」

「嫌な予感しかしないんだけど、ちなみにどんなの?」

「はは。それは明日のお楽しみ、さ」

「うわ。その無駄に整った歯を見せるなよ」

「なんだよ乗り気じゃないな、ダチ公。ほら考えてもみろ。うちの分隊に美人の女性がいて、もちろん。練習とか一緒にするよな。ならハッピー、ハ、プ、ニ、ン、グなんかも起きちゃったりして」

 クロスは器用に全力で走りながら体をくねくねしてゼプトと並走。周りから見たらただのキモイ言動である。だが平然と走りながらもキモイ言動をこなす身体能力の高さ。クロスは間違った方向にさえ育ってなければさぞ優れた戦士と肩を並べる実力の持ち主。


「クロス……おれも一緒に美女を誘うに行っちゃうぜ」

「それでこそおれのダチ公、頼りにしてるぜ」

 だが間違った方向にいるからこその二大問題巨頭。


「転校生か、一体どんな子だろ」

「おれの情報によると美女は確定。そしてなんといってもナイスバディという情報までキャッチしているでありますゼプト隊長」

「それはたのしみでありますな。クロス軍曹」

「「はーっはっははは」」

 ゼプトとクロスはグラウンドに土煙が舞う速度で駆ける。教室から丸見えのグラウンド、二人の笑い声は教室にまで聞こえるほどに大声量。


「うるさいぞ。問題児ども!! グラウンドぐらいは静かに走れ!!」

 今日もウェインの罵声がフィンブルヴェト学院の校内に平和を知らせる。




 ―――



 助けて

 たすけて

 タスケテ

 あなたの力があるならおれらは

 なんでたすけてくれないの

 わたしたちにちからをかしてよ

 おねがいたすけてよ

 …………

 ………

 ……

 …

 このうらぎりもの!!

 じぶんだけたすかりやがって

 あなたをいっしょううらんでやる



「辞めてーーー-!!」

 甲高い奇声が館内に響き渡る。

「なにごとです『サラス』お嬢様」

 声を聞きつけ、慌てて部屋を訪ねたメイド。サラスは天に突き上げた腕を下げ、ベッドから上体を起こす。


「ご、ごめん。な、なんでもない、の」

「お嬢様。またいつもの夢ですか」

「う、うん。ま、また、あ、あの時の夢」

「サラスお嬢様。やはりフィンブルヴェト学院のご入学はお辞めになられたほうがよろしいのではないでしょうか。もうお嬢さまは十分頑張られました」

「あ、ありがとう。で、でも大丈夫『レヴィ』。わ、わたしはまだ戦わないと、ま。マッチさんやレースさんに顔向けできないから……」

 サラスは俯くように顔を下げた。その姿は、悲壮感、罪悪感、何重にもある怨念が16才という女性の肩にのしかかっていた。

 それをレヴィは取り払うことは出来ない。幼き頃から見守ってきた、それだけしかできない無力感。レヴィはサラスを見ているのが辛くなる。


「それではわたくしは退室いたします。また御用がございましたらおよびくださりませ」

「い、いつもありがとうレヴィ」

 静かに部屋を退室するメイドのレヴィ。廊下に出るやいなや。

「おいたわしやサラスお嬢様。まだ過去の亡霊に取りつかれて」

 目からの雫をポケットの中からハンカチを取り出し拭う。


「わたくしたちルドベキア家メイド一同。お嬢様の武運長久をお祈り申します」

 廊下で深々とお辞儀をしたレヴィが去った部屋でひとり、サラスはベッドの中、静かに拳を握り締める。


「わ、わたしにだってまだ出来ることはあるよね」


 サラス・ルドベキア

 代々続く名門武家ルドベキアの長女。

 武家の一族であり、数少ない『ディーヴァ/霊声手』であったために幼少の頃から戦場へ、ガードとして前線へ赴いていた。

 サラスの流麗な歌声は万を超す精霊に愛され、天才ディーヴァとして重宝。この世界をファントムから救うとまで言われた逸材。

 しかし、その美声の歌声はもう紡がれることはない。


「ま、マッチさんやレースさんのためにも頑張らないと、あ、明日からはフィンブルヴェト学院か」


 サラスは明日あす新天地へ旅立つ。期待と不安を胸に秘め、自分が行える手段を探す――得るために学院へと足を運ぶ。


「よ、よし。い、一生懸命やろう」

 自身を元気づけるように声を張り上げベッドから降りる。


「が、学院か、は、はじめてだな。ど、どんなひとがいるんだろう」

 このときのサラスはまだ知らない。

 運命の出会いがあることを。

 フィンブルヴェト学院、そこに問題児がいることを。

読んでいただきありがとうございます。

活動報告多めなのでそちらもよろしくお願いします。

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