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狂人理論  作者: 金椎響
第二章 不都合な事実
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修羅の道

 サーティンの巨体から膨大な電力が、頭部ユニットにある三門のCHFWHG――集束高周波加熱砲に向けて供給される。上下に開く開口部が開き、そこから覗く丸い砲門から怪しい光が爆ぜる。

 たとえ、推力偏向ノズルを備えた二基の大型ロケットスラスターによる回避性能があろうとも、射線軸上にジョリオンがいる限り、迂闊に避けることはできない。追加装甲によって防御性能が上がっているだろうが、サーティン自慢の高周波加熱砲の前ではあってないようなものだ。

 ぼうっという音とともに、周囲に白い煙が上がる。

 煙幕か、あるいは微細なアルミ箔――電波欺瞞紙(チャフ)だろうか。だが、サーティンのセンサー群に異常は見られない。


<ふん、アルミニウムを蒸着させたプラスチック・フィルムごときで。まさかこの集束高周波が拡散するとでも思ったか?>


 サーティンの問いに対する答えは、直刀状の高周波ブレードの投擲(とうてき)だった。

 集束高周波の着弾を確認して警戒を解いていたサーティンの胸元に、閃光のように薄闇を切り裂いて進むカタナ。その切っ先が深々とサーティンの胸に突き刺さる。集束高周波加熱砲の基幹システム群が火花を散らし、サーティンの脳裏に無数のエラー表示がちらつく。


<なっ!? 何が……。一体、何が起きているっ!?>

<サーティン。切り札というものは、最後までとっておくものです>


 サーティンの目の前には、ジョリオンのカタナを拾って投げたハルートの無傷な姿があった。

 膝の追加装甲が開き、そこから姿を現した二挺のスマート・ガンを瞬時に取り出す。逡巡も躊躇(ためら)いもなく引き金(トリガー)が引かれ、打ち出された青白い光の弾丸が動きの鈍ったサーティンを捉えた。

 サーティンの黒い複合装甲コンポジット・アーマーにいくつもの弾痕が容赦なく穿たれていく。次々と作られていく穴から、火花と内容液が噴き上がる。サーティンの巨体が身体を襲う激痛に、悶えのたうち回っているようにジョリオンには見えた。


<……あっ、がはぁっ!?>


 ハルートの無慈悲な攻撃に、ついに耐えられず、サーティンの大きな身体が地に転がる。

 ジョリオンがよろよろと上体を起こす。傷一つつけることも叶わなかった強敵を、これといった損傷もなく、一方的に倒してみせたハルートを仲間として心強く思いながらも、同時に敵に回したらこれほどまでに恐ろしい相手もいないだろうと感じた。


<高周波加熱の弱点は、攻撃対象物が氷になるとマイクロ波をほとんど吸収しなくなるため、有効な攻撃手段になり得ません>


 ハルートは言いながら、倒れたまま動けないサーティンに近付く。

 抵抗しようとも、今のサーティンには起き上がることすらできない。ハルートの背部に増設された追加武装ユニット。四本の腕のエクストラ・アームの先端、ペンチ部が開き、そこから現れたノズルから液体が吐き出される。


<そこで、非伝導性冷却液を応用して作った氷結障壁(フロスト・バリア)の出番です。エクストラ・アームの真骨頂、それはあなたの四本の腕をもぎ取るのではなく、集束高周波加熱砲対策であったというわけです>

<でたらめだっ!! 即席の氷壁でおれの攻撃が……防げるものかっ!?>


 ハルートはアームの先端から現れた冷却液の発射口をサーティンに向けると、噴射する。傷だらけの穴だらけになったサーティンの身体が見る見るうちに氷漬けになっていく。電力系や駆動系に障害があるのか、サーティンは抵抗することもできずに、なすがままだ。


<あなたを必要以上に痛めつける意思はありません。クラリッサのテロに関する情報を入手するため、あなたのニューロ・シナプス・チップなどの思考系のデータを参照するだけです……>


 言いかけて、ハルートは飛び退り一気にジョリオンの隣に並び立つ。

 サーティンの口が上下に開き、そこから光が零れていた。頭部ユニットにある三門のCHFWHG――集束高周波加熱砲に電力が供給されている。サーティンは傷付き機能不全に陥ったシステムをどうにか支え、まだ生きているモジュールだけを使って切り札を切ろうとしていた。


<……ふざけるな。ふざけるなよ、ネクストイレヴン。……こんなところで、こんなところでっ!?>

「マズいぞ、ハルート!」

<言われるまでもありません>


 ハルートはジョリオンを抱えながらも、追加ユニットから伸びる四つのエクストラ・アームを開いて展開する。氷漬けにされ、一歩も身動きを取ることができないサーティンだが、三六〇度回転する頭部がぐるぐると動く。


「ハルート。やつの狙いは、おれたちじゃないぞ!」

<……まさか!?>

<死なば……死なばもろともだ!>


 サーティンの頭部が向いた先には、ハルートがガトリング砲で危うく崩壊させそうになった壁面、それを辛うじて支えている支柱だった。推力偏向ノズルを備えた二基の大型ロケットスラスターから大音量とともに光が満ちる。


「待て、ハルート! 教授(プロフェッサー)の救助が最優先だ!」

<……しかし!?>


 ハルートの推論エンジンが局所的な負荷を瞬時に処理する。

 一番確実な手段は、情報入手の可能性を捨ててでもサーティンを排除して危機を脱することだ。

 だが、ガトリング式キャノン砲は背部に折り畳まれ、エクストラ・アームをロケット推力で打ち出せば、万一集束高周波加熱砲の矛先がこちらに向いた時、防御手段がなくなってしまう。ジョリオンを抱えている手前、スマート・ガンを取り出すことはできない。

 次に、サーティンの射線軸状に割り込み、氷結障壁(フロスト・バリア)を張って壁面の崩落を防ぐ。だが、いくら二基の大型ロケットスラスターの大出力とはいえ、集束高周波加熱砲の発射速度を超えて動くことはできない。

 氷結障壁(フロスト・バリア)を限界射程を超えて打ち出そうにも、サーティンと支柱の位置は同じ直線状に位置する。サーティンの身体に阻まれ、防ぐことができない。


「おれは、ノリーンが見捨てたツクシを救ってみせたからこそ、おまえを真の相棒と認めたんだ! ここまで来て……仲間を見捨てるなっ!?」

<……ジョリー>


 ハルートの声音に諦めが滲んでいるのを察して、ジョリオンが叱咤する。


「やめろっ!! 考え直せっ、ハルート!!」


 サーティンの口から高周波が溢れ出す。その凄まじい力の奔流が辛うじて壁を支えている支柱を容易に融解させる。支えを失った壁面が雪崩を打って崩落し、均衡を崩した天井や支える梁が床目がけて落ちていく。

 一度バランスを崩した構造体は、連鎖反応を起こしたように次々と壊れていく。もはや、ここに安全地帯は存在せず、今はいかに早くこの危機を脱するかに焦点が移っていた。ハルートはジョリオンを支える腕に力を込めた。

 ふわり、とジョリオンを抱えたままハルートの身体は頭上を飛翔する。突入時に穿った穴を経て、空へと駆け上がる。夜風がふたりを出迎えた。ジョリオンが身を乗り出し、慌ててハルートが押し留める。


「くそっ!? 放せ、ハルート!!」

<ジョリー、落ち着いてください。ここで手を放したら、あなたは落ちます>


 先ほどまで教授(プロフェッサー)が寝かせられていた場所には屋根や天井、壁面を構成する構造物が幾重にも積み重なっていて、土埃が濛々と立ち上がっている。複合センサー群を備えるハルートならともかく、肉眼のジョリオンにはもはや何も見えない。


「必ず守ると……心に誓った! なのに……っ!?」

<待ってください、ジョリー>


 ハルートの力強い口調に、ジョリオンは呆気に取られる。


<まだです、まだ終わっていません>

「……まだ、終わってない?」

<ええ、彼女を――ツクシを信じてください>



「……ハルート?」


 ツクシは慌てて周囲を見渡した。だが、そこにハルートの姿はない。倉庫のなかから呼びかけたのだろうか。確かにハルートの声ではっきりと自分の名前を呼ばれた、そんな気がしてツクシは目を瞬かせた。


<……ツクシ。わたしの声が聞こえますね?>

「ハルート!? 急に一体、どうしたんですか!? それに、これは……?」

<すみません。今ははじめから説明している時間がありません。今は、わたしを信じて手を貸してくれませんか?>


 合成された電子音声だというのに、そこにハルートの意志の強さと覚悟を見出した。だから、ツクシはその光景が見えないのを承知で頷いてみせる。

 不意に、脳裏にいくつもの風景が浮かぶ。

 自分の網膜が捉えた光景ではない。傷付いたジョリオンがすぐ傍らにいることから、建物内の映像だということがすぐわかった。ツクシにはわからないことだが、今彼女の大粒の瞳は黄緑色に輝いていた。


<今、ツクシが見ている映像は、わたしのメインカメラが捉えた倉庫内のものです。ツクシの体内の緊急治療用ナノマシンを介し、わたしのニューロ・シナプス・チップや疑似神経(パラニューロン)、それに推論エンジンが処理する情報の一部をあなたの脳に向けて伝達しています>

「……これが、ハルートの見ている世界? あなたの感じていること……」


 ハルートに逐一説明されなくても、今彼らが置かれている状況や危機をツクシは手に取るようにわかった。何より、ハルートがツクシを強く求めていることがひしひしと伝わってきて、ツクシの胸は高鳴っていた。


教授(プロフェッサー)を、ジョリオンのかけがえのない仲間を助けてくれませんか?>


 ツクシは砲弾で穴だらけになった壁面を凝視する。

 IRISアルテア本社ビルで味わった恐怖が、今もツクシの胸の奥底にある。それが、ツクシが一歩を踏み出そうとするのを邪魔しているということも。だが、ツクシの身体に流れ込んでくる情報のなかに、不思議な感覚があった。

 どこか暖かくて、優しくなれる、そんな情報がツクシの背中をそっと押してくれる。恐怖を胸の外へと押しやって、動かない両脚の緊張をそっと解きほぐしてくれる。自分の耳がかっと熱くなり、ツクシは思わず唇を噛んだ。


「……わたしに、指し示してくれますか?」

<はい、あなたのお役に立つこと。それが、ノリーンがわたしに課した使命です>


 ツクシは一瞬だけ、目を瞑る。

 そして、力強く一歩を踏み出した。

 今、ツクシは自分の目で倉庫の壁面に穿たれた穴を、そしてハルートのメインカメラが捉えた内部の映像、そのふたつを同時に見ていた。ハルートの感覚情報だけでなく、ハルートの内部の情報処理や、そこから演算・出力される情報の一部まで、まるで自分のことのように感じていた。

 感覚が引き伸ばされている。

 それだけではない。ツクシはいくつもの重ね合わせの光景を目の当たりにしていた。敵性ドロイドが支柱ではなく、ハルートたちを撃つ光景。あるいは、人質にされた女性を撃つ光景。これは、ハルートが演算した未来予測だ。

 ツクシはタクティカル・スキンの筋力増強(マッスル・アシスト)と緊急治療用ナノマシンが生成する化学物質の力を借りて、全速力で走り出した。どう手を振り、脚を出せば速く走ることができるのか、ツクシは直感的に把握し、それを忠実に再現することができた。

 (ひょう)のような身のこなしで、人ひとりがようやく通ることができる穴へ向って飛び込む。

 柔道の受け身のような動作で、勢いを殺さぬまま倉庫内に侵入する。

 ハルートが行う情報分析と未来予測が、声や映像、直感となって脳裏に響き渡り、ツクシに最適な行動を示していた。だから、ツクシはただ恐怖を克服して身体を動かすのに専念していた。そこに、迷いも躊躇(ためら)いもない。

 無心になって動いているはずなのに、頭のなかでは無数の可能性と未来が浮かんでは消えていった。ツクシが倉庫へ飛び込まなかった世界が蜃気楼(しんきろう)のようにかき消され、代わりにツクシが救助に駆けつけた光景に変化する。

 そう、それは数秒後に現実となる世界。まるで未来を見通しているかのようだ。

 敵性ドロイドは柱にしか注意を払っていない。ドロイドに人質の女性が撃たれる未来も、自分が標的になる未来もない。そのことに勇気づけられるように、ツクシはただ歯を食いしばり、懸命に走った。高まる心臓の鼓動も、張り裂けてしまいそうな胸の熱さも、気にならない。自分がやらなくてはいけないことは、ちゃんとわかっている。


<もう間もなく、第一射が放たれます>

「ええ。第三射が撃たれる前に、ここを出ます!」


 言葉にする必要はなかった。

 今のツクシとハルートはもはや以心伝心。言葉を発するよりも前に、互いの言いたいことがわかる。きっと、こんな体験は本来のパートナーであるノリーンだってしたことはないはずだ。それが今、なぜか無性に嬉しい。

 倉庫の隅で横たえられた女性をツクシは素早く抱きかかえ、一刻の時間のロスもなく走り出す。その先には侵入時に使ったような穴はない。それでも、ツクシは全速力で壁に向かって走る。そう、ツクシにはすでにわかっていた。そこに脱出路ができることが。次の瞬間には、大きな炸裂音がして、壁面に巨大な亀裂が走る。

 敵性ドロイドの攻撃で、他の無事な構造体までも崩落し始めた。


<壁だけでなく、落下物に注意してください>

「……うんっ!!」


 頭の後ろに目はないのに、今のツクシには何がどれだけ降り注いでくるのかが、手に取るようにしてわかる。天井の穴から離脱したハルートが現在も走査し続ける周辺情報が、ツクシの脳内へ瞬時にもたらされる。

 照明や鉄筋、外部を覆うタイルやボルト、ナット、それどころか塵の一粒一粒まで、ツクシには把握できた。自分の身体が機械のような正確さで動き、小さなLED電球がまとめられた大型照明器具や金属片を紙一重でかわしていく。

 頭のなかの自分の視界が急に、定まる。

 立ち止まったのだと理解して、ツクシは同じようにその場に留まる。

 意外なことに、不安はなかった。ハルートをすぐ傍に感じていたから。



 次第に、視界が鮮明になってくる。

 視界を奪っていた粉塵(ふんじん)を、ふき始めた強い夜風が追いやっていく。

 そこに立っていたのは、教授(プロフェッサー)を両手でしっかりと抱きかかえるツクシの姿だった。身体中が汚れだらけになりながらも、ハルートとジョリオンの下へしっかりとした足取りで歩いてくる。その強い眼差しに、ジョリオンは気圧されそうになる。


「おい、どういうことだ? ちゃんと説明しろよ」

<咄嗟に、ツクシの体内に存在する緊急治療用ナノマシンを制御するアルテア・ミリタリー・インダストリーズ社のアプリケーションで、ツクシの脳内に直接救援を要請していたんです。教授(プロフェッサー)の位置情報や侵入経路、落下物からもっとも最適な行動プランを演算し、随時送信していました>


 拍子抜けといった趣のジョリオンに対し、ハルートは首を傾げる。


<ジョリー。ひょっとして、わたしを信用していませんでしたね?>

「てっきり、彼女を見捨てたのかと……」

<もちろん、そういう選択肢もありました。ですが、わたしとツクシならば救出も可能だと推論エンジンが結論を下していました。それでも、ツクシに危険を強いることになりますから、不安がなかったわけではありませんが……。どうにかなって、一安心ですね>

「ああ、そうだな」


 ジョリオンは鼻を啜ると、改めてハルートに向き直る。


「やっぱり、おまえは……最高の相棒だよ」

<お褒めに(あずか)り、光栄です。ジョリー>


 優しく着地すると、すぐ傍までやってきたツクシがふたりに向かって微笑んでみせる。


「ハルート。わたし、ちゃんとあなたのお役に立てました……よね?」

<ええ、完璧な仕事ぶりでした。素晴らしい、ご支援でした。リスクがありながらも、最後までわたしを信じてくれたツクシのおかげです>

「ええ。わたし、信じてましたから。ハルートのこと」


 ツクシははにかみながら答えた。


<ええ。わたしも、ツクシを信じていました。案外、わたしたちのほうがいいコンビかもしれませんね>


 ハルートの小言に、ジョリオンは思いっ切り肩を(すく)めて抗議してみせる。

 ハルートは「情報収集プロトコル」という名称のノリーンが作成したクラッキング・ツールを使って教授(プロフェッサー)の手足を拘束する電子錠を開錠する。ゆっくりと地に足をつけると、ツクシが慎重な手つきで猿轡を解く。


「あの、大丈夫ですか?」

「……ええ。ありがとう、助けてくれて」


 ツクシの問いに、教授(プロフェッサー)は少しだけ咳き込みながらも、明瞭な口調で応じる。そして、ハルートに支えられるようにして立つ、ぼろぼろのジョリオンを前に、教授(プロフェッサー)はその表情を曇らせた。


少佐(メイジャー)……」

「よう、教授(プロフェッサー)。なんだか、かっこ悪いところ見せちまったな」


 途端に居心地が悪くなったジョリオンは反射的に軽口を叩こうとしたものの、ジョリオンの身体に覆い被さるようにして教授(プロフェッサー)が抱き着いてきて、何も言えなくなってしまった。とうとう堪えられず、教授(プロフェッサー)は泣き出してしまう。


「あんなこと言って、わたしが喜ぶとでも思ったのっ!? 人の気も知らないで。本当に、本当に無茶をしてっ!!」


 深い青の瞳に大粒の涙をため、それが堪えきれずに零れ落ちた。教授(プロフェッサー)の美しい頬を、とめどなく溢れ出した涙が濡らす。背後からツクシが教授(プロフェッサー)の肩に、そっと羽織っていたミリタリージャケットをかける。


「……やれやれ、身体を張るといつもこれだ」


 胸のなかで泣く教授(プロフェッサー)の肩に、ジョリオンは手を回すと優しく抱き締める。対して、教授(プロフェッサー)がジョリオンをとらえる手の強さは、タクティカル・スキンの上からでも十分に伝わってきて、戸惑う。彼女の激しい感情の発露に、そして、熱いくらいの涙に。


<良かったですね、ジョリー。今回は、車は無事ですよ>

「車は大丈夫かもだけど、おかげで身体はボロボロだよっ!?」


 平生(へいぜい)の余裕をなくしたジョリオンに助け舟を出すように、気の抜けたことを言うハルートに、ジョリオンは恨めしそうに睨みつけた。だが、ハルートは一向に悪びれる様子はない。


<内蔵の破裂を心配しましたが、幸い深刻な外傷はないようで安心しました>


 ハルートはそう言いつつも、今は瓦礫の山になった倉庫跡へ視線を移す。


<ですが、唯一の手がかりを失ってしまいましたね>

「いいや、まだわからんよ」


 ジョリオンは腕の端末にコマンドを入力して、建物の外に待機している戦闘用ドロイドに指示を出す。


「こいつらに、サーティンを掘り起こさせる」

<なるほど、それは妙案(みょうあん)ですね>

「とりあえず、ここは一旦帰るぞ。なんせ身体の節々がくそ痛い」


 ジョリオンが頭上を見上げると、ステルス無人ヘリがゆっくりと降下してくる。


<……車はここに放置ですか?>

「まさか。隠れ家(セーフハウス)まで自走させるに決まってる。教授(プロフェッサー)が作ってくれた、大事な車だからな」


 ジョリオンがおどけながら言うと、教授(プロフェッサー)は泣きながらも表情を緩めた。

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