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狂人理論  作者: 金椎響
第二章 不都合な事実
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追憶《ノスタルジア》

 アルテア北部の中華街(チャイナ・タウン)ノース・チャイナ・ペンタゴンとアルテア市中心街(セントラル)の間に位置する、穏やかな牧草地帯が広がる広大な北部地方(ノース・エリア)

 古の遊牧地帯を再現したような光景が視界の端から端までずっと広がっていた。周囲に家屋はなく、一般道というよりも農道と表現した方が適切な道が地平線の先へ延々と続く。

 大地の下に、ジョリオンの隠れ家(セーフハウス)があった。

 その様子は、まるで自動車か何かの整備工場のようだ。専用の工具や工作機器、それに3Dプリンターなどの巨大な機器が並び、耳を(ろう)する駆動音を轟かしている。

 さらに、その奥にはぼろぼろになった濃紺と眩しい真っ黄色のスポーツカーが鎮座していた。

 比較的散らかっていない、開けたスペース。

 そのなかでは奇跡的に、綺麗に磨き上げられた床へ、ジョリオンの鍛え上げられた身体が舞い、強かに叩きつけられる。ジョリオンは苦々しい表情をしているが、もちろんそれは肉体的な苦痛ではなく、あくまで精神的なものだ。


「ああっ、もうっ! なんでだよ……なんで勝てないっ!?」


 ジョリオンの恨めしい声が上がる。

 そして、打ち倒されたジョリオンを頭上から見下ろす、華奢な女性の姿。身体にぴったり張り付いたタクティカル・スキンを着込んでいながら、厳つさや厳しさを感じさせない柔和な顔つき。本来ならば綺麗な(とび)色の瞳を持つツクシだが、今はその虹彩が黄緑色に輝いていた。


「……嘘」


 ツクシはまじまじと自分の腕とジョリオンの姿を交互に見比べている。


<往生際が悪いですよ、ジョリー。いい加減、負けを認めてください>


 審判役を買って出ていたハルートがやれやれと言わんばかりに肩を竦める。そして、床に転がったジョリオンに手を差し出す。ジョリオンは何も言わずに、その手を取る。


<このままでは、クラリッサ一派と戦う前にくたびれてしまいますよ?>

「うるさいな」


 ジョリオンは拳で額に浮かんだ汗を乱暴に拭う。


「本当は認めたくはないが……」


 そこまで言うと唐突に黙り込み、ツクシの様子を見る。

 自身の負けを認められず、何度も何度も対戦を通じて疲労が蓄積して息が上がるジョリオン。対して、ツクシはほんの少しだけ汗ばんでいるくらいで息が上がるどころか、その呼吸を乱していはいない。


「どうやら、単純な格闘戦ならばおれを遥かに凌駕してる。頼もしいっちゃ頼もしいが……本当にアテにしていいのか?」

<もちろんです、ジョリー>

「だが、電波妨害(ジャミング)でツクシの体内のナノマシンを制御するプログラムとの通信が阻害されたら、どうする? 魔法が解けてしまって、ただの女の子になってしまいましたとさ、だと洒落にもならんが」


 ジョリオンの疑念に、ハルートはどこか自慢げに答える。


<ご心配には及びませんよ、ジョリー。今まで行った一連の手合せを通じて、基本的な“(フォーム)”は全てツクシの演算型ナノマシンに叩き込まれています。万一、わたしとの演算バックアップリンクが切断された場合は、演算型ナノマシンがわたしの役割を代行してくれます>

「そいつは頼もしいねえ。いっそ、おれにも打つか、そのナノマシン?」


 苦い笑みを浮かべながら冗談めかして言うジョリオンに、ハルートは呆れてみせる。


<妙案のように思えますが、緊急治療用ナノマシンの大量投与は大変危険な行為です。残念ながら、推奨しかねます。それはツクシの重篤な容体を目撃したジョリーならば、その負の側面を理解しているでしょうに>

「……冗談だよ、冗談」


 ジョリオンは鼻を掻くと微笑んでみせる。


「こうなった以上は仕方ない。おれも男だ。約束は果たそう。だが、くれぐれも無理はするなよ、ツクシ。ハルート、何よりもおまえが頼りだ。彼女の安全を決して疎かにするなよ」

<もちろんですよ、ジョリー。ツクシのために、全力を尽くします>


 ハルートの何気ない言葉にもいちいちツクシは反応してしまい、彼女の意に反して頬がすっと赤くなっていく。


「そうと決まれば早速、歓迎会をせにゃならんな」


 ジョリオンは言いながら、片付いていない場所を通って冷蔵庫の前に立つ。冷凍室からいくつかの冷凍食品が収められた箱を取り出すと、まとめて電子レンジに叩き込んでいく。


「それまでの間、シャワーにでも入っててくれ。奥にシャワー室がある」

「いいんですか?」

「勝者の特権だ」

<では、わたしが案内します。ツクシ、こちらです>


 ハルートが周囲の情報を走査し、位置を確認すると彼女を先導する。

 彼の背中に隠れるようにして、ツクシがついていく。


「ハルート、ありがとうございます。おかげで、みんなと一緒に戦えます」

<礼には及びませんよ、ツクシ。わたしは自分にできることをしたまでです。ツクシ、タクティカル・スキンが脱ぎにくい場合はお手伝いしますが、いかがでしょうか?>


 シャワー室は、工科大学(アルテック)のノリーンの研究室のものよりも大きい。隠れ家(セーフハウス)ということもあって、生活感が薄い。ハルートはシステムを走査し、不備がないか確認する。

 ツクシはタクティカル・スキンの前側の留め具を外す。

 肩を露出させたツクシはそこで素肌に張り付き、身体を包み込んでいた特殊繊維が脱ぎにくいことに思い至る。汗や湿気はスーツ自体が吸収してしまうが、全身を覆い筋肉を圧迫する機能のため、ひとりでは着脱しにくい。


「うっ!? そっ、そうですね……。すみませんが、お願いします」


 背後に回ったハルートがゆっくりタクティカル・スキンをツクシの身体から剥していく。そっと足を抜いて、下半身の部分も脱ぐ。

 ツクシは躊躇いがちに身に纏っているものを全て脱ぎ捨てた。ノリーンに勝るとも劣らない曲線美に富んだ身体付きが露わになり、ツクシの耳が自然と赤くなる。

 ハルートはまとめたツクシの衣類を更衣室の籠に用意していると、不思議と三日前の情景が頭部ユニットに蘇ってきた。ノリーンと離れ離れになったからか、時間の経過が遅く感じられる。

 ガラス張りになったシャワー室の向こう側で熱湯を浴びるツクシの姿。彼女の姿を見ると、自然とハルートはノリーンのことを考えてしまう。似たような年齢に、似たような黒髪、似たような体格だからだろうか。


<……髪、洗いましょうか?>

「えっ?」


 ハルートの思わぬ一言に、ツクシは目を丸くする。


<すみません。いつも髪を洗うよう、ノリーンに言われていましたから、つい……>


 ハルートが自らの発言を悔やみ、どこか言い訳めいた言葉を紡ぐ。

 彼の言葉とその反応に、ツクシは堪えられずつい笑ってしまう。その仕草をどう受け取っていいのか迷い、不思議そうに眺めるハルートだった。ツクシは彼に対して、その無防備のほっそりとした背中を向ける。


「じゃあ、洗ってくれますか?」

<はい>


 ハルートがシャワー室に入ると、その指をツクシの豊かな髪の間に通す。

 ノリーンの髪も健康的で美しい。

 だが、ツクシの髪は客観的に見て、ノリーンの髪よりもずっと状態がいい。研究第一で慢性的な寝不足、食生活も疎かにしがちなノリーンとは異なり、規則正しい生活を送り食事にもこだわり、何よりも美容にも人一倍気を使っているからだろう。

 だが、たとえツクシと比べて劣っていたとしても、ノリーンの髪をハルートは愛おしく思ってしまう。そう感じてしまう自分に戸惑いを覚えつつも、その認識を「偽」として退けることができない。

 器用にシャンプーを泡立て髪を洗っていく手付きは優しい。

 機械だから洗い忘れがないのは当然だとしても、その一挙手一投足からは優しさが滲み出ているように見えた。ロボットならではの無駄のない動き、それを見つめながらツクシは微笑む。


「いつも、ノリーンの髪を洗ってるんですか?」

<ええ>

「それは、なんだか意外ですね。ノリーンってマメだから、全部自分でやるものだとばかり……」

<確かに、ノリーンにはそういう部分もありますよ。ですが、あまりに入れ込みすぎてしまい、どこかで必ず息切れしてしまうんです。頑なでストイックなところが、ノリーンにはあるとわたしは考えています。ですから、髪などは今でも、わたしに洗ってほしいと言われて困っているんです>


 ハルートはツクシに語りかけながらも、丁寧にリンスを落としていく。


<わたしはなぜか、身体が濡れることを潔しとはしません。この身体には防水加工が施されていて、液体など全然平気なはずなんですが……>

「そうだったんですね。ごめんなさい。わたし、そのことを知らずに……」

<いえ、大丈夫です。ツクシの心配には及びません。なぜかそう、推論エンジンが結論を下すだけで。それに、困ったものでしたが……こうして三日も彼女の髪を洗っていないと、なぜか落ち着かないですね>


 微かな戸惑いを匂わす発言に、ツクシは鏡の向こうにいるハルートへ笑いかけてみせる。


「……ハルートは」

<はい?>

「好きなんですね、ノリーンのこと」


 一瞬だけ、ツクシは悲しそうな表情を浮かべたがすぐに引っ込める。


<残念ながら、わたしに感情というものはありません。わたしの存在意義はノリーンの役に立つことだと思っていますが……。それは欲求や情動がわたしを突き動かしているわけではないんですよ、ツクシ>

「……そうなんですか?」


 ハルートの言葉に、ツクシは泣き笑いにも似た顔をしてみせる。


<ええ>

「でも、わたしには……信じられません。あなたには、わたしたちと同じ意識と自我、それに……心があるように見えます」

<そうでしょうか? 確かに、わたしの情報処理プロセッサや推論エンジン、中枢演算システムには人間の脳の構造を模倣し、似た仕組みで作動するニューロ・シナプス・チップが採用されています。ちょうど人の脳の神経細胞(ニューロン)にあたる部品が一〇〇〇〇〇〇個あり、ひとつひとつが並列で動作します。それゆえ、時に人間と極めて類似した行動を取ることもありますが……>


 ハルートは淀みなく言う。


「人の手によるプログラミングによらず、自分自身で情報を認識し解釈し、学ぶことができるんですよね」

<ええ。ですので、いつかロボットが感情を学ぶ日は来るでしょう。でも、それが今のわたしに宿っているのかどうか……>


 人間も長い進化の過程を経て、意識を獲得したという説が提唱されているように、ロボットに意識が芽生える余地はあるだろう。

 競合する複数のプログラム群からより少ない演算資源で、より迅速な判断が求められる過酷な環境下で、多くの学習の蓄積と自己改良アップデートを重ねていくことができれば、人と同じような意識を獲得できるとはハルートも思っている。

 もっとも、それが人間と同じ意識や感情、心であるという保証なんてない。

 ツクシはハルートに身を寄せる。

 ハルートの複合装甲コンポジット・アーマーに、ツクシの柔らかい身体が押し付けられ、その温もりが装甲表面に織り交ぜられた微細なセンサー群が捉える。


「でも、ハルート。あなたがいつか抱くであろうその想いは、人間のそれに限りなく近い。そう、わたしは思いますよ」


 背伸びをしてハルートの耳元で囁くツクシになんと返事をすればいいのかわからずに、ハルートはつい黙り込んでしまった。



 流し台に立つツクシが食器具を洗っている。

 目立った汚れを落として、丁寧な手つきで食洗機へ入れていく。

 長い黒髪を四つ編みのフィッシュボーンには結わず、あえてそのまま背中へ降ろしている。その後ろ姿はノリーンにひどく似ていて、思わずその背に寄り添うようにして傍に控えたくなった。

 ツクシを手伝おうとしたハルートは、そこで食事を終えてすっかりご機嫌になったジョリオンに呼び止められた。もちろん、飲酒をしたわけではない。

 ただ、ツクシが出来合いの冷凍食品だけでは味気ないからと言って振舞った料理にご満悦なだけだ。

 鶏肉とオクラ、ズッキーニ、赤パプリカ、レンコンを塩だれで炒めた料理をジョリオンはいたく気に入り、負かされ床に転がったことも忘れて、すっかり調子を良くしていた。

 おそらく、ずっと冷凍食品と軍の糧食で、手料理に飢えていたのだろうとハルートは推察する。


「あの子、本当にいい子だよな」

<そうですね>

「なあ、ハルート。ツクシって彼氏いるのか?」

<さあ、そう言った話は聞いていませんが……。ただ、わたしはロボットだからか、情報開示の蚊帳の外に置かれることも珍しくありませんからね>


 そう言って、意味深な視線を複合センサー群で表現するハルートに、ジョリオンは肘で小突く。


「なんだよ、そういうことはノリーンに言えよ」

<もちろんです。ですから、わたしは不満をずっとノリーンに訴えてきました>

「そう言えば、そうだったな」

<……ジョリー。さてはわざと言っていますね?>


 ハルートの問いに、ジョリオンは嫌らしい笑みを向けた。


「そうそう。そういえば、さっき――ふたりがシャワーを浴びてる時だったかな、ノリーンから連絡が入った」


 ソファに寝転んだジョリオンは炭酸の利いたシュガーレスのジュースを呷る。

 ハルートはほんの一瞬だけ躊躇したが、ジョリオンのもとに近付く。

 ジョリオンが身体をそっと起こして、座るスペースを作ってやる。


<彼女はなんと言っていましたか?>


 ジョリオンと並ぶようにして座る。

 なんだか妙な落ち着きを感じながら、ハルートは訊ねた。


「元諜報軍(インテリジェンス)の要員から、クラリッサは四・五年ほど前にその要員によって排除されていた。その面子(めんつ)のなかには、ノリーンの実の父親であるエドワード・エヴァレットが含まれる」

<それは、初耳です。わたしが誕生した時、すでにエドワード・エヴァレットは死亡していましたから。それに、エドワード・エヴァレットがそのような極秘作戦に従事していたとは……>


 ジョリオンはそう言いながらも、どこか自分自身でも納得していないようにハルートには見えた。

 そして、ハルート自身もまたどう情報を処理したらいいかわからず、当惑する。


「その時回収されたクラリッサの頭部はニューロスキャンされ、脳内神経マトリクスとして保存しつつ、解析された。そこで体系化されて生まれたのが試作型近接格闘プラグインだ」

<待ってください、ジョリー。近接格闘プラグインはノリーンが開発したと、以前あなたたちから聞きましたが?>


 思わず首を傾げるハルートに、ジョリオンはいつになく深刻そうな顔を浮かべながら答える。


「ああ、確かにノリーン――エリナー・エヴァレットが自らの脳内神経マトリクスの解析に基づいて、洗練させたプログラム群として近接格闘プラグインを開発した。だが、実際に米国陸軍(アーミー)が戦闘用ドロイドに実装したプラグインとは厳密に言えば異なる」

<それは、一体何を意味するんでしょうか?>

「ノリーン製のプラグインが試験的に実戦投入されると、問題が起きたのさ。ノリーンの構築したモデルでは、機体を壊してしまう。人間の身体と違い、複合装甲コンポジット・アーマーを外装に採用した戦闘用ドロイドはしならず、身体全体を用いた動きに適さない――というのが国防高等研究計画局(DARPA)の推論だが、本当のところは……よくわからん」

<冗談でしょう? ノリーンはニューロプログラミングだけでなく、戦闘用ドロイドにも精通しています。そんな彼女が初歩的な過ちを犯すとは考えにくいと考察します。何か別の、もっと根本的な問題があったはずです>


 ジョリオンの唱えた説に、納得がいかないハルート。

 ジョリオンが両手を突き出しながら押し留めるような仕草をしてみせた。


「まぁ、待てよ。次に、試されたのはクラリッサ。だが、これでもだめ。最終的に、ふたりの神経マトリクスの解析結果を元に、独自に編み出されたモデルで問題を解決した――と言えば聞こえがいいが、実際はスペックダウンとデチューンで誤魔化した性能低下版(モンキーモデル)でしかない。だからこそ、原典(オリジナル)であるノリーンとクラリッサは戦闘用ドロイドを圧倒できる」


 と言っても、その様をこの目で見たのはチェルシーの店が初めてだがな、とジョリオンは付け加えるのを忘れない。


原典(オリジナル)と言われる脳内神経マトリクスに、そんな優位性が……。にわかには信じられません。ですが、ノリーンがマトリクス解析に精通し、今も工科大学(アルテック)で研究に従事していた理由が理解できました>

「ああ、それはつまり……そういうことだったんだ。で、クラリッサの右腕が人工生体義手であることは、IRISアルテア本社ビルでの戦闘時に自ら明かしていたが、どうやら彼女は全身が人工生体部品で組み上げられた人工生体義『体』のようだ」

<医療用の生体3Dプリンターがある時代です。彼女の身体が人工的に生成された構成物で作られていたとしても、なんの不思議はありません>


 ハルートは深く頷くも、ジョリオンの表情は晴れない。


「……そうか? おれには正直、どこまで信じていいかわからん。確かに、医療用生体3Dプリンターはあるし、諜報軍(インテリジェンス)だけでなく陸・海・空・海兵・諜報の米軍五軍はその恩恵をずっと享受し続けてきたわけだが……いくらなんでも、なんでもありすぎる」

<それを言い出したら、“プリクライム”も近接格闘プラグインも戦闘用ドロイドもみな、都合が良すぎるとは思いませんか? それでジョリー、話はそこで終わりなんでしょうか?>

「いいや、まだだ。それで、“プリクライム”を欺くために、クラリッサ・カロッサの脳内神経マトリクスと、他のロボットのニューロ・シナプス・チップを適宜切り替えるような、なんらかの対抗策を講じている恐れがある」

<つまり、諜報軍(インテリジェンス)の特権がなくても、クラリッサは“プリクライム”の目とご神託を掻い潜ることができる、ということですね。それはつまり、彼女の行う攻撃は常に奇襲となり、アルテア市警《APD》も諜報軍(インテリジェンス)も先手を打つことができない>

「その通りだ、相棒」


 その時、ジョリオンの携帯端末(モブ)が鳴った。

 本来ならば、氏名が表示される画面。そこには代わりに「教授(プロフェッサー)」の文字が浮かび上がっている。


「……珍しいこともあるもんだ」


 ジョリオンは思わずそう呟きながら、通話開始のアイコンを押した。


「もしもし?」

<よう、くそったれ。元気だったか?>


 若い男を模した電子音声がジョリオンの耳元に届く。

 思わず、ジョリオンの眉が曲がる。その声は、もちろん教授(プロフェッサー)の声ではない。IRISアルテア本社ビルのエントランスホールで交戦した戦闘用ドロイド――ネクストサーティンのものだった。

 ジョリオンはつい、反射的に舌打ちをしてしまう。


<ジョリオン・ジョンストン、説明は不要だろう? 女はクラリッサが浚い、おれが預かってる。IRISアルテア本社ビルでの戦いはまだ終わっちゃいないぞ。どうだ、決着をつけようではないか?>


 言いたいことを言い終わると、唐突に電話が切られてしまう。

 そして、すぐにメールの受信を知らせる電子音が木霊する。

 下着姿に剥かれ、四肢を拘束された教授(プロフェッサー)。その姿が収められた画像データだった。

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