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狂人理論  作者: 金椎響
第二章 不都合な事実
13/30

頼もしい助っ人

 アルテック――アルテア工科大学《AIT》の風景を目の当たりにすると、「帰るべき場所」という言葉が不意にハルートの頭部ユニットに浮かぶ。

 一三〇エーカー(約五二六一〇〇平方メートル)にも及ぶ広大な敷地に立ち並ぶ白亜の校舎の間を、一台の自動運転タクシーが軽やかに走り抜けていく。

 工学部学生寮で停車する。ハルートは眠っているツクシを起こさぬように、音を立てずに車から降りてくる。そして、普段と変わらぬ足取りで、工学部ベンチャー棟に向かう。

 まだ三日しか経っていないというのに、三年は過ぎてしまったかのような不思議な感覚があった。ノリーンの研究室へ戻る。飛び出してきた時となんら変わりのない部屋の様子に、つい安堵してしまう。

 以前、ジョリオンとともに来た時のように、周辺の情報を走査するが刺客が潜んでいるような形跡はない。セキュリティ・レポートを見ても、ハルートとジョリオンが部屋を後にしてからは誰も入っていない。

 ハルートは研究室に置きっ放しになっていたツクシの私物を、丁寧に回収していく。室内に陳列されたロボットの骨格のひとつに着せられた、ツクシの服や靴も慎重に脱がせて、綺麗に畳んでまとめる。

 ちょうどその時、ツクシが目を覚まし工学部の学生寮へ向っているという情報がハルートの頭のなかに入ってくる。またクラリッサにさらわれることのないよう、ツクシの情報を収集しつつ彼女のもとへ急ぐ。

 とはいえ、距離感というものが重要になるだろう。

 ロボット好きなノリーンですら、四六時中付きまとわれるのを嫌う。まして、日常的にロボットを従えているわけではないツクシなので、ハルートはできる限り配慮してあげたいと思っていた。

 白亜の建築物の間を普段よりも気持ち早めに歩いていると、ツクシが大きなリュックサックを背負って学生寮から急いで飛び出してきた。そして、何やら慌てた様子で、ハルートの現在の位置情報を電子端末で参照していた。


<ツクシ、どうしましたか?>


 急にいなくなったハルートを心配しているのかと思い、一応声をかけておく。


「ハルート!? 今どちらに?」

<今、あなたのもとへ向っています。荷物があるようですね、わたしが運びましょう>


 ハルートは言うが早いか、その場を駆け出す。

 人間ならば不可能な四肢の使い方で走り、学生寮までの間をじりじりと縮めていく。もちろん、キャンパスを行き交う学生たちのことを考慮し、慎重な足取りで最短経路を分析すると、目的地へ向けて驀進した。

 あっという間に、学生寮の前で待つツクシのもとへ駆け寄っていく。そして、さり気ない動作でツクシの背負っているリュックを彼女の肩から自分の肩へ移す。

 ハルートの姿を見て、ツクシは自らの胸に手をやって安堵の笑みを浮かべる。


<すみません、ツクシ。急にいなくなってしまって……驚かせてしまいましたか?>

「いえ。わたしの方こそ、申し訳ないです。寝ちゃって……」


 ツクシは恥ずかしそうにして肩を狭める。


<大丈夫ですよ、ツクシ。病院ではゆっくりできなかったでしょう。わたしといるときくらいは、どうぞゆっくり休んでください。その方が、わたしも嬉しいです>

「あの。実は、そのことでハルートに相談があるんです」


 ツクシはどこか消え入りそうなか弱い声音でそう言うと、ハルートに熱さを感じさせる眼差しで見上げてくる。


<相談? 一体、なんでしょうか?>


 だが、ツクシはハルートの問いにすぐには答えず、真剣な表情を浮かべながらハルートを黙って見据える。そして、何かを決心したように、どこか思い詰めたような顔をしながら言う。


「わたし、ハルートの力になりたいんです」


 一瞬、ハルートは何と言われたのかわからなかった。推論エンジンと対人コミュニケーションアプリにはなんの問題もなかったのに、システムエラーが起きて、一瞬だけフリーズして頭が真っ白になる。


<……はい?>


 力になりたい。

 もちろん、対人コミュニケーションアプリと推論エンジンによって、ハルートはツクシが何を喋っているのかを理解できる。だが、ここで問題なのは、何故ツクシがハルートの力になるのか、ということだ。


「えっと。……だから、わたし、ハルートのお手伝いがしたいんです」

<お手伝い? ツクシが、ですか?>


 ハルートの推論エンジンが混乱する。

 ロボットであるハルートが人のツクシの力となり、その手伝いをするというのが普通だろう。しかし、なぜ人間のツクシがロボットのハルートの手伝いを行い、その力になるのか。

 言語的な意味では理解できていても、論理的な意味ではまったく理解できなかった。そもそも、ツクシの意思表明と覚悟には、必然性や理由がまったくないようにハルートには思えた。


<なぜ、ツクシがわたしの手伝いを?>

「助けてもらったお礼を、わたしはしたいんです」

<いえ、感謝は気持ちだけで十分です。わたしはあなたに見返りを求めていません。三日前の出来事についての貸し借りは当初からありませんし、ツクシが負い目を感じることもありません>


 ツクシの緊張した面持ちを解こうと、ハルートは優しげに言ったはずなのに、何故かツクシの表情が曇ってしまう。今の回答に、何か単語が不足した部分があっただろうか、とハルートは疑問に思う。


「借りを返す、という意味じゃないんです。もっと、積極的な意味で、ハルートを手助けしたいんです!」

<積極的な、意味で? ですか……>

「ハルートはこれから、ノリーンを追うんですよね?」

<『ノリーンを追う』という表現には、少々語弊がありますね。わたしは、自分が合理的だと思うやり方で、間接的にノリーンの力になる方法を模索しようと思っています>


 ノリーンの「勝手にしなさい」という言葉が、ハルートの記憶ストレージから推論エンジンに流れ込んでくる。ハルートはその時の情景を再現し、それから言葉を紡ぎ出した。


「そう! ですから、わたし、そのお手伝いがしたいんです。ただ、あなたに守ってもらうだけじゃなくて……。わたしにできることから、あなたを助けていきたいんです」


 普段のツクシらしからぬ押しの強さに、ハルートは困惑する。


<……そう、ですね。わたしはロボットです。なので、人間のツクシの存在が必要不可欠となる局面も十分想定されます。ロボットの単独行動だと怪しまれる、法的管理者の同伴が求められるといった事態が想定されます>


 ハルートの言葉に、ツクシの表情が次第に緩んでいく。


「じゃあ、いいんですねっ!?」


 そして、満面の笑みを浮かべるツクシ。

 ツクシの突然の表明や、この感情の発露。ハルートは一体、どういった解釈をすればいいのか、困惑する。ツクシは、ハルートのように自らの優秀さや有用性を証明しなくてもいいはずだ。それが、ハルートには腑に落ちない。


<はい、ツクシ。心強い限りです>


 ハルートが握手をしようと右手を差し出すと、何故かツクシは両手でそれを包み込んでしまう。そして、ツクシは涙ぐみながらも柔和な笑みを浮かべ、どこか幸せそうにハルートを見上げている。


<……ツクシ?>

「わたし、ハルートのために頑張ります!」

<いえ、そんなに頑張らなくていいんですよ……>


 推論エンジンがツクシとのコミュニケーションに関して、重大な相互の意意思疎通の齟齬を指摘していたが、何やらやる気になってしまったツクシを見るとそれを指摘するのはひどく「野暮」であるようにハルートは感じた。



 アルテア市中心街(セントラル)、高層建築物が立ち並ぶ第一級の商業区画は、世界有数の経済・金融の拠点でもあり、最先端技術を探求するベンチャー企業がこぞって本拠を求める地でもある。

 そのなかに、アメリカ合衆国諜報軍(インテリジェンス)アルテア戦術作戦センター《TOCA》インフォタワーの姿があった。

 無数の高層ビルが立ち並ぶアルテアと言えど、一六七階建て以上で高さが一〇〇〇メートルを超える「ハイパービルディング」は、三カ所しかない。


「ジョンストン少佐」


 三ツ星の軍服を着た中将の男が、ジョリオンの名を呼ぶ。

 ジョリオンの直属の上司である作戦本部長を超えて、ジョリオンはアルテア戦術作戦センター《TOCA》の最高責任者であるこの局長から、直々に出頭命令を受けていた。

 展望室の真下に位置する局長執務室には、実務一辺倒で豪奢な調度品の類はない。それでも、ある種の機能美で統一されており、そのセンスにジョリオンは感心する。


「それは、つまり……きみに独自の捜査特権を与えれば、この事件を解決してみせるという、ある種の意思表明だと捉えて構わないのかね?」


 そう言うと、あからさまにジョリオンを値踏みするような視線を向けてくる。人を威圧し、萎縮させる眼光。だが、それでもジョリオンはこの男の視線に屈することはなく、逆に睨み返すくらいの気迫でそれに応えた。


「はい、局長。IRIS社をはじめとする一連の兵装奪取事件を解決できるのは以前クラリッサ・カロッサとともに、軍務に就いていた自分をおいて他にはいません。適切な人員と装備、それに予算さえあれば、三日前に取り逃がしなどしなかったでしょう」


 そうとも、誰が相手だろうとジョリオンの成す仕事は明らかだ。

 だからこそ、こんなところで悠長に、貴重な時間を浪費している場合じゃない。ということで、ジョリオンは手短に、そして要所要所ではハッタリを利かせながら、難題を次々と処理していた。

 たとえば、米国諜報機関群インテリジェンス・コミュニティのカンパニー――中央情報局(CIA)の役立たずとしゃしゃり出てくるフェッド――連邦捜査局(FBI)の無能には「軍事機密」「現在調査中」「情報の開示は差し控えさせていただく」の三種の神器を用いて黙らせた。

 そして、アルテア市警《APD》には「高度な情報の共有」「共同捜査本部の設置」「緊密に連携」などといった便利な言葉を無理やり溶接したメッセージを送っては牽制していた。

 だが、この手の話題で厄介なのは、上層部の対応だった。

 現に、この局長はこうして直属の上司を飛び越えて、直接ジョリオンから情報を聞きたがった。なので、ジョリオンなりの婉曲表現を用いた説得工作を行っていた。

 局長はジョリオンの話に耳を傾けながら、顎に手をやる。


「局長、クラリッサの一件は我々の専権事項です。ですが、残念ながら、クラリッサの軍事的な特権が抹消された以上、アルテア市警《APD》犯罪予測システム“プリクライム”の対象になります。当然、APDも捜査権と、予測によっては逮捕権を有し、身柄を拘束されれば陪審員による通常の裁判にかけられます」

「そんなこと、言われなくてもわかっているよ」

「また、今後市警から正式な情報資源(インフォリソース)の提出が求められることになれば我々は彼女に関する、あらゆる軍事機密の名目で隠匿できた情報の提供に応じる他ありません」


 局長は渋い顔をしながら、黙って頷く。


「また、合衆国(ステイツ)本国の諜報軍(インテリジェンス)犯罪捜査局《クリミナル・インヴェスティゲーティヴ・サーヴィス》――ICIS(アイシス)の捜査も行われるはずです。つまり、我々に残された猶予はありません」

「少佐。わたしの懸念はクラリッサではない。きみだ」

「……わたしですか?」

「我々は、目的のためには手段を選ばない。全ては結果が優先する。法の『例外状態』に対応するために、『法の外』の手段を……超法規的措置を行使しうる極めて特殊な軍隊だ」


 局長はジョリオンから顔を逸らす。

 唐突に椅子から身を起こし、机から離れる。窓辺に寄ると、強化ガラスの向こう側に広がるアルテアの街並みをじっと見下ろす。


「だが、きみに例外的特権を与えた時、きみだけでなく、わたしにも責任が生じる。この責任はレスポンシビリティなどではない。アカウンタビリティなのだ。道義的な責任ではなく、わたしは上下両院に設置された諜報軍事委員会を満足させる、個別具体的な成果と結果責任が求められる。いいか、言い訳(エクスキューズ)ではないぞ、成果だ」


 小役人が。ジョリオンは心のなかでそう呟いた。

 だが、こういうタイプは意外と楽だ。単純に、結果を出してやればいい。

 細かいことまで詮索するばかりか、余計な口まで出してリソースを空費させる役立たずよりは、「失敗するな」「将来の昇進がかかっているんだ」云々と小言を捲し立てる部類はまだまだ可愛い方だ。


「きみの作成した作戦報告書には目を通した。また、かつてクラリッサと組み、彼女に宿った秘密を知り、そして彼女の組み上げた戦闘用ドロイドとの交戦経験があるばかりでなく、傷を負わせた……」


 ジョリオンは真面目くさった顔をして、局長の言葉に耳を傾ける。


「少佐。くれぐれも、ナチュラルに頼むぞ。そして、わたしを失望させるな」


 そう言うと、局長は懐から半透明のカードを取り出す。長方形の枠に自らの人差し指の指紋を押しつけ、署名欄に自らの名前を指で書き記す。

 案外、物分りのいい上層部で助かった――というより、これでは拍子抜けだ。もう一悶着あるかと思っていたが、これは僥倖だ。なんせ、貴重な時間を空費しなくて済む。


「責任重大だぞ、少佐。事と次第によっては、諜報軍(インテリジェンス)の汚点になりかねん」


 その責任とはアカウンタビリティなのか、それともレスポンシビリティなのか。是非とも、問いたいところだったが藪蛇なのは明らかだ。だから、ジョリオンは言葉をぐっと飲み込んで、黙って敬礼をして応えた。



「相変わらず、タフですね。少佐(メイジャー)


 インフォタワーは科学技術本部(OTS)技術システム研究・開発部《R&D》。

 局長執務室から降りてきたジョリオンを、ひとりの女性が出迎える。

 彼女の本名を、ジョリオンは知らない。ただ、皆からは「教授(プロフェッサー)」と呼ばれていた。

 歳の頃は、ノリーンと同じ一八歳。この技術システム研究・開発部で勤務している職員のなかでは最年少だ。

 美しい亜麻色の髪をショートヘアにしていて、吊り目がちの深い青の瞳は澄んでいる。目に鮮やかな水色のブラウスに、高級感溢れる洒落た濃紺のベスト、その上から颯爽と白い白衣を着て、その佇まいはどこか涼しげだ。

 プライドは高く人見知りが激しく、何かと一筋縄ではいかないノリーンと比べれば、この教授(プロフェッサー)はかなりとっつきやすい部類の女性だった。

 単に、美人で頭がいいだけであれば、ノリーンだって負けちゃいない。

 だが、一向に好感度の上がらないノリーンとは違って、教授(プロフェッサー)は小言を言いながらもいつも微笑みかけてくれるし、ここ最近でその距離もだいぶ狭まってきた感がある。


「いや、USA――葬儀屋・首狩り人組合《アンダーテイカー・スカルプハンター・アソシエーション》においては、これくらいどうってことないよ」

「聞きましたよ、一夜にして愛車を二台も潰したんでしょう? 相変わらず、やることが派手ですね」


 くすくすと笑われて、ジョリオンは後頭部をかいた。


「それで……依頼していた車は、もうできてる?」

「はい。もっと早く取りに来れば、愛車を廃車にしなくて済んだのに」

「おれは仕事が早いんだ」


 今更、愛車のことをどうこう思ったところで、どうにもならない。何事も切り替えが重要だ。教授(プロフェッサー)に先導されながら、インフォタワー地下にある駐車場、そこに隣接した車両保管庫へ向かう。

 彼女の後頭部と、美しい亜麻色の髪につい見惚れてしまう。


「出来栄えの方はどう?」

「百聞は一見にしかず、ですよ」

「そりゃそうか」


 教授(プロフェッサー)の掌紋を読み取り、扉が開く。

 視線の先に鎮座しているのは、灰色の車。

 今までジョリオンが所有していたドイツ製の濃紺の電気自動車とも、アメリカ製の黄色のガソリン車とも異なる、独特の外観をした車だった。低い車高は共通だが、直線を基調としている。

 それはどこか、ハルートにも通じるデザインをしていて、いかにも早く走れそうだ。


「車体は厚さ五インチの特殊鉄鋼・チタン・セラミック製軍用装甲板で完全に覆われています。全てのガラスは防弾、タイヤはパンクしません」

「ほう、凄いもんじゃないか」


 ジョリオンは車を間近で眺める。

 こうして外から眺めている分には、街中を走っている車とは見分けがつかない。


「強度は通常車の二倍です。付近で爆弾が爆発しようがロケット弾で撃たれようが壊れません。ドアの厚さは二〇センチ以上、防弾ガラスは厚さ一二センチ以上。あまりにぶ厚すぎて、窓から十分な自然光が取り入れられません」

「それは残念」


 フロントガラスに映る自分の姿を確認するジョリオン。つまり、必要に応じて車内では照明をつけねばならないだろう。


「グッドイヤー社製のランフラットタイヤで、銃弾を受けてパンクしても走行可能。化学兵器による攻撃を想定して、内装なども完全密閉式です」

「いいねえ、ボンドカーって感じだ」

「くれぐれも、壊さないでくださいよ。この車、三〇〇〇〇〇ドル以上するんですから」


 教授(プロフェッサー)は苦笑してみせる。

 ジョリオンよりも少なくとも一〇歳は年下のくせに、やんちゃな弟を見守る姉みたいな感じの笑い方だった。もっとも、嫌な感じはしない。少なくとも、厳しい目つきで睨まれるよりは一〇〇倍はマシだ。


「まさに、おれにぴったりの超高級車だな」


 ジョリオンはすっかり上機嫌になっていた。

 一夜にして二台の愛車が壊れたのは辛いが、こうして新たな車との出会いには心が躍る。特に、教授(プロフェッサー)が試行錯誤して自分のために仕上げてくれた車というのが、堪らなく嬉しくさせるではないか。


「ドアにはスマート・ガンと収納・充電するホルダーがあります。クラリッサ対策として、敵味方識別装置(IFF)による安全装置(セーフティ)機能を外したスマート・ガン、それにスマート・ショットガン」


 そう言うと、教授(プロフェッサー)は車のドアを開け、そこに収納されていた銃を抜き取る。


「銃器は全て、ID銃です。少佐(メイジャー)の掌紋と虹彩の個人識別情報が登録されていて、それ以外の人間の生体兆候(バイタルサイン)では、引き金(トリガー)がロックされます」


 教授(プロフェッサー)は縦に並んだ四角い二つの銃口を、ジョリオンへ向けて、引き金を引こうとする。だが、引き金はうんともすんとも言わない。

 ジョリオンは彼女から銃を受け取る。第一印象は、今までのモデルと比べてひどく軽い。中身がしっかり詰まっているのか、不安になるくらいの軽さで、ジョリオンはつい驚いてしまう。

 次に、今までのスマート・ガンとは細部が微妙に異なっている。銃把(グリップ)遊底(スライド)のデザインが変化していた。


「随分と軽いんだな……」

「スマート・ガンは材質と構造を見直して軽量化、反動も軽減してあります。少佐くらいの握力と技量があれば、二挺拳銃(トゥーハンド)で使用できると思います」


 そこで、教授(プロフェッサー)は思わず身を強張らせた。


「……ちょっと!? こっちに銃口を向けないで!!」

「おいおい、撃ちゃしないよ」


 ジョリオンは笑いながら、肩を竦める。その仕草に、教授(プロフェッサー)が見せた不満げな表情が、堪らなく愛おしい。柳眉のくねりや、小さくつく溜息が、年相応の女性の姿に見えて、ジョリオンはついにやけてしまう。


「タクティカル・スキンを着用しなくてもか?」

「はい」


 今度は、長身の銃身(バレル)のショットガンを取り出す。

 上下に並んだ四角い銃口(マズル)はスマート・ガンと共通する外見だ。ピストルグリップに、伸縮式の銃床(ストック)、それに三点支持負い紐(スリング)を備えている。


「それで、このスマート・ショットガンは戦闘用ドロイド対策です。集束火線モードと散弾拡散モードの二種類をレバーか、脳内指示プロトコルで選択可能です」


 教授(プロフェッサー)はセレクターを指差す。


「散弾拡散モードは動く対象に当てやすく、面に対して大きな破壊をもたらします。反面、細かな狙撃は構造上不可能、用途的にも適しません。逆に、集束火線モードは有効射程が延長されて、ある程度の距離での狙撃なら可能です」

「なるほど」

「電池残量に応じて、伸縮式銃床(ストック)に収められた弾倉(マガジン)型バッテリーを交換してください」


 そう言うと、後部座席の方からケースを取り出す。

 そこに収められていたのは、直刀のカタナだ。


「あと、IRIS社で回収されたネクストサーティンの高周波ブレード。これ、証拠品ですよね? 持ち出してもいいんですか?」

「ああ。だって、いかにも役に立ちそうじゃないか」


 ジョリオンは中身を確認すると、ケースを閉じる。


少佐(メイジャー)

「……うん?」

「あの、くれぐれも気を付けてくださいよ」


 教授(プロフェッサー)のどこか心配そうな表情に、ジョリオンはかなり嬉しくなってしまう。やはり、女性にはこういう顔をしてもらって、気にかけてもらいたい。


「ああ」

少佐(メイジャー)がどうなっても構いません。だけど、せめてこの車だけは……無事にここへ戻してくださいね?」

「ああ、何があっても必ずきみの元に……ってちょっと待った!? おれじゃなくて車!? そこは『車なんてどうでもいい。でも、少佐だけはちゃんと無事にここへ帰って来てね』って言うところだろうっ!?」

「だって、この車三〇〇〇〇〇ドル以上なんですよ? 少佐(メイジャー)の生命保険がいくらあっても足りません」

「頼むから、おれの心配をしてくれよ……」

「ふふっ、つい本音が」


 そう言って、教授(プロフェッサー)はくすくす笑いながら、ジョリオンを見つめてくる。


「というのは、冗談です」

「そりゃ、本音だったらさすがのおれも傷付くよ……」


 そもそも、愛車を二台も潰したというのに、ノリーンには逆に嫌われる始末だ。ツクシの命が助かったらいいものの、そうでなければ散々だっただろう。


少佐(メイジャー)、お気をつけて」


 急に、真剣な表情を浮かべて、車のキーであるカードを差し出す。

 何か、面白いことでも言って場を和ませたかったのに、教授(プロフェッサー)の迫力に押されて、黙って受け取る。


「なあ、教授(プロフェッサー)

「……はい?」

「できれば、笑って送り出してくれると助かるんだが」


 はたして、教授(プロフェッサー)はどこか強張った笑みを浮かべて、手を振る。

 まぁ、満面の笑みは一仕事終わらせてからでいいだろう。

 そう思うことにして、ジョリオンは車のエンジンをかけた。

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