卒業と…
まだ、肌寒い今日、私は卒業する。
卒業式も終わり、部活の集まりがあったため、指定されていた教室に向かう。
「つぼみ!一緒行こう!」
同じ文芸部だった、菜月。私の頼もしい相棒だ。ちょっとおしゃべりで、おっちょこちょい。でも、頼れる姉御はだ。
「今日の卒業式、泣いた?」
「えっと…」
戸惑った。だって、クラスでの思い出なんて、はっきりいって、たかがしれてる。冷酷なのかもしれないけど。
「つぼみさ、告白、しないの?桃真くんに…」
たどたどしく言う菜月。3年間の片想い。最後の日くらい、告白するべきだと思うけど、そんな勇気がないのだ…私には。
「告白しなくて、つぼみは後悔しないの?ずっと好きだったんでしょ?」
「……………」
横目に桃真くんの姿が映った。
本当は、手紙も準備していたんだ。直接は言えないし、でも、伝えたかったから。
「ほら、つぼみ!」
ポンっと背中を押された。
「菜月、ありがとう!」
私は走った。
ただ、ただ、手紙を渡したくて。
昇降口に桃真くんの姿。
…あれ?何してるのかな?
桃真くんがいるところは、女子の下駄箱の前。
「桃真くん?」
「ちょ、まっ、お、おぅ。な、なんだ?」
慌てる桃真くんは、顔がタコみたいに真っ赤だ。
「あ、あのね。…これ、受け取って下さい」
手紙を前につきだした。
恥ずかしい。どうしよう。
頭のなかは、コーヒーカップにのってるかのように、グルグルしている。
「あ、ありがとう」
受け取ってもらえた。
それだけでも嬉しい。
「じ、じゃぁ、またね」
後ろをふりむき、この場から早く立ち去ろうと思った。
が、しかし、それはかなわなかった。
「俺、つぼみのこと好きなんだ」
涙で前が見えなくなった。
こんなに幸せな卒業式は初めて。
この後のことは、また別のお話。
FIN