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技術系研究員 由比川のどかの冒険  作者: 錬金術師まさ
ドリームマシーン 海賊版
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第8話.エッケン

 私たちを抱えたイタクァくんは、周囲を衝撃波で薙ぎ払いながら突き進みます。

 速度は、軽く音速を超えているでしょう。

 あっという間に、ヨーロッパの古城の様なお城が見えてきました。

 

 減速もせずに、そのお城の中庭に突っ込みます。


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 あまりの事で、声も出ません。


 衝突と思った瞬間、急停止&静かに着陸します。

 置いてきぼりにされた衝撃波が中庭を突き抜けた後、静けさが戻ります。

 足の下に感じる地面の存在をこれほど嬉しく感じたことはありません。


「アンタ、やっぱりスゲーぜ。普通の奴なら悲鳴をあげたりするところを全く動じないその態度。やっぱりダチになってもらわねーと」


(いえ、あまりのすごさに、悲鳴をあげる事もできなかっただけですけどね)


「か、考えておきます。ほほほ」


 一陣の風が吹いて、ドレスを来た貴婦人が現れます。


「お初にお目にかかる。私はこの城の城主『ハスター』だ」


 差し出された右手を軽く握と、柔らかい女性の手でした。

 イタクァさんは、ハスターさんの前に進み、片膝をついた恭しい姿勢で報告する。


「主。ご注文通りのどか殿を丁寧にエスコートしたぜ」


 言葉遣いはいつもの事なのか、特に咎めることもなくハスターさんが答える。


「のどか殿には、それほど優雅な空の旅ではなかった様だけど...あまり客人を招き入れることがないものだから不慣れなのだ。不手際はどうか許して欲しい」

「いえ、そんなことは...」


 邪神ですよね、貴女。

 なんでそんなに低姿勢なんですか?

 面食らっていると、かなたちゃんが小声でつぶやいてくる。


「良かったですね。のどか様、ハスター様がお優しい方で...」

「そ、そうですね。ほほほほ」


 微笑むハスターさんの視線に、妙な熱がこもっているのが気になります。


「是非、一度あなたと話がしたいと思っていたんだ。この城には幻夢境中を吹く風が情報を集めてくる。きっと貴女の必要な情報も提供できると思う」


 そう言いながらの動作のたびに、擬音が『たゆん』と発っせられます。


(夢の中にも格差社会ってあるんですね)


 私が格差社会について思いを馳せている傍らで、ハスターさんがパー子達に声をかけている。


「すまないが、のどか殿と二人で話したいことがある。君たちはイタクァと一緒にあちらの部屋で待っていてくれないか」


 ちょっと、下を向いていたアオちゃんが、意を決したようにハスターさんに向かう。


「お世話になりこんなことを言うのは心苦しいのですが、のどか様に危害を加えることだけはおやめください」


 ハスターさんは、そんなアオちゃんの頭を優しく撫でます。


「心配ない。話をしたいだけだよ」


 ハスターさんは、私を執務室に招き入れてくれました。

 そこは、簡素でしたがよく整理されており、埃の溜まっている様子もありません。


「私はどうも華美な部屋が苦手でね。メイド達にもこの部屋の装飾をもっとするようにといつも怒られているんだ」


 椅子を勧められ、私が席に着くタイミングを見計らったかの様にメイド達が現れ、ティーセットとスコーンの様なものをセットされていきます。


「このお茶は、貴女のために用意したものだ、安心して飲んでくれていい」


 一口飲むと、ジャスミンの香りが口いっぱい広がり落ち着いた気分になってきました。

 嬉しそうにこちらの様子を眺めていたハスターさんとふと目が合うと、『ついっ』と視線をそらされてしまいます。


「そっ、それにしても、のどか殿はスレンダーで羨ましい」

「は、はぁ。」

「私など、胸部が不必要に肥大して、執務中に大事な書類を胸の下に隠してしまったり、ティーカップを倒してしまったりと色々困っているんだ」

「そっ、そうなんですかー、たいへんですねー(棒)」


 これが社交辞令、挨拶の一部である事は重々理解しています。

 いますが、悪意の無い発言ほどタチの悪いものはなく、そろそろ私の我慢の限界点に達しそうです。


「で、本日お招きいただいたのは、どういった理由でしょう」


 強引に話題を切り替えた私を見て、ハスターさんは何故だかモジモジし始めます。


「い、いや、ほら、私たち風の一族は、元々クトゥルフたちと仲がわるいし、クトゥグアとも相性が悪い...」


 それは分かります。

 両者に土をつけた(かの様に見える)私に興味が出ただけならば、特にこんなに厚遇する必要はないですよね。

 それに、何故そんな潤んだ瞳をしているんです?


「貴女が彼らを退けたところ見たとき、私は思った。これは運命かもしれないと...」


 えっと...それってどおゆう意味なのかな...

 いや、わかって言っていますが...そっかぁ、これかぁ、さっきから感じている感覚は...(遠い目)


「私とともに歩んではもらえないだろうか」


(そうきたか~)


「もちろん、貴女の意思は尊重するし、今付き合っている彼女と分かれて欲しいとかも言わない。ただ傍に居て欲しいんだ」


(そういえば、彼氏は居たことないけど、自称彼女は結構居たなぁ)


 もし私が男性でしたら、これ以上ないハーレムルート突入として小躍りしていたでしう。


(これは人外萌えって言うのでしょうか、それとも百合?)


 私が現実逃避をしている間に、こちらににじり寄ってきたハスターさん。

 最大のピンチがこんなところにあろうとは...


 突然、ノックなしでいきなりガチャりとドアがあきます。

 ぬっと顔を出したのはイタクァさんです。


「主。頼まれていた人探しの件、情報揃えておいたぜ」


 気づくと、ハスターさんは元の位置に戻っていました。

 さすが風の邪神です。


「そっ、そうか、ご苦労だったな。」


 ちょっと、赤い顔でイタクァさんから書類を受け取る。


「あまり、状況は良くないようだ」


 少し読み進んだところで、眉をひそめて私を見る。


「火の里の近くで『はぐれ』が出ているらしい。その身体的特徴が、アオ殿から聞いているアカ殿の特徴と合致するところが多い」

「『はぐれ』って何です?」

「自然に発生してたコアが暴走し、自我を失って野に下ってしまう。それが『はぐれ』だ」

「じゃあ、アカは暴走してしまっているって事ですか?」

「おそらくはそうだろう。『はぐれ』の多くは自我を失い暴走して消滅するだけの存在になっている。早めに手をうたないと手遅れになる」

『ガキィッ』

鈍い音をたて、その剣を受け止めたのは、黒い闇を纏った剣だった。

「私を戦わせないようにしてくれてありがと。でも、私は貴方の剣だから...」

炎と闇、対極にあるその二つの件は、お互いに侵食を繰り返す。

「さぁ、こっからは第二ラウンドだ。妹は返してもらうよ、クトゥグァ」


ドリームマシーン海賊版 第9話 炎と闇のロンド

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