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技術系研究員 由比川のどかの冒険  作者: 錬金術師まさ
ドリームマシーン 海賊版
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第7話.風のロックンローラー

 クトゥルフ砦から駆け足で逃げ出した私は、息も絶え絶えです。

 普段の運動不足がもろに現れています。


「はぁ、はぁ、ちょっ、ちょっと待ってください...も、もう良いんじゃないですか?」

「これだけ離れれば大丈夫か。でも、おかしいな。追っ手が掛かってもいい頃なんだけど...」


 後ろを振り返って、砦の様子を確認したパー子がつぶやきます。


 ひょっとしてダゴンさんに渡した、あのバスワードが役に立ったのかもしれませんね。

 ダゴンさんは、パスワードでクトゥルーさんの信頼を取り戻し、ついでに、かなたちゃんが居ない理由もこじつけて、私たちの救出劇自体をもみ消す。

 行われていない救出劇に対して、追っ手を出す必要もないので私たちは放置される。

 まさに、ウインウインの結果です。

 ダゴンさん、実は結構やり手なのかもしれませんね。


 疲れもピークなので、ちょうど、いい岩を見つけて腰掛けます。


「のどか様、そのお召し物ですが...」

「お召し物?」


 そういえば、胸元を思いっきり引っ張ったのでボタンが全部無くなっています。

 おかけで、かなたちゃんがいるところからはブラが丸見えのようです。


「夢のくせに、こういうところはリアルですよね」


 仕方ないので、裾の部分を前で結んで、見苦しくない程度に整えます。

 おへそが丸出しになってしまいますが、仕方ないでしょう。

 そんな、私の姿を見てパー子が深いため息をつきます。

 なんか、とぉっても、傷つくんですけど、その態度。


「で、次はどうする?アカとアオどっちから探す?」

「そうですね。とりあえず、かなたちゃん救出のイベントをクリアしたので、宿屋でレベルアップというのはどうでしよう」

「そんな宿屋は無いよ」

「あのぉ、アオねー様なら一度、姿を見ました。クトゥルフ砦まで私を探しに見えたのですが、ダゴンさんに追い返されてしまって...きっと、まだ近くにいるとは思うのですが...」


 なるほど、アオちゃんは無事ですか...ん?


「かなたちゃん。捕まっていたお部屋って窓一つでしたよね。しかも、砦の入口には向いていなかったと思いますが...」

「えぇ、アオねー様は...」

「のどか様~」


 声のした方をみて、ギョッとした。

 アオちゃんが飛んでいた...いわゆる童話の中の妖精のような透明の羽を広げて...そこまではいい。

 むしろウェルカム。

 問題は、その後ろに飛ぶヘビメタロッカーのような姿をした何かだ。

 まるで、妖精を狙うハゲワシの様に、白骨を組み合わせた様な形の羽を打ち鳴らしながらアオちゃんを追従している。

(実際、ハゲワシは狩りをしないらしいので比喩的な表現です のどか注)


「パー子!かなたちゃん!アオちゃんを助けるよ」

「おうさ」「はいっ」


 パー子が近くの岩に手をつき投影を開始、見る間に異形の高射砲へと姿を変えていく。


「まっ、待ってください。この人は敵ではありません」


 先に下りたかなたちゃんが慌ててパタパタと手を振る。


「そうさ、おれっちは平和主義のロッカーなんだ。そこの血に飢えた『イースの尖兵』と一緒にしねーで欲しいな」


 白骨の羽をしまいながら降りてきたのは、アオちゃんと見かけそんなに変わらない少年だった。


「パー子。この人、知り合いですか?」

「まぁね。のどかちゃんとも無関係じゃないよ。成層圏を突破した時に現れた『風に乗りて歩むもの』だよ」

「おっと、おれっちの二つ名を知ってくれているとは嬉しいねぇ。そうとも、おれっちこそ『風に乗りて歩むもの』ことイタクァ様だ。宜しくな」

「えっ?」


 例の件(わかなんい人は『由比川のどかの日常 コロンビヤード砲外伝』をよんでね)でアカ達が遭遇した邪神については、私なりに調べたのですか、どれも恐ろしげな話ばかりで、目の前のショタ&ロッカーな感じと結びつきません。


「いやーーー、あん時は悪かったな。おれっちも、いきなり上がってきた変てこなつつっぽに興味津々でよ。ついちょっかいかけちまった。結局、ニャルラトホテプにとっ捕まった挙句、『黄衣の王』にまで大目玉食らっちまって大変だったぜ」


 うーん。

 ショタな外見にこのざっくばらんさ。

 私の中のイメージがガラガラと音を立てて崩れていきます。

 これが有名な『SAN値直葬』というやつなのでしょうか?


「私がこっちに着いてすぐ、炎の眷属に襲われそうになったところをイタクァさんに助けられて、お世話になっていたんです」

「ちっちっ、イイってことよ。同じ風の眷属同士、助け合うのが世の情けってことよ」


 軽薄な話し方は置いておいて、随分いい人じゃないですか、邪神なのに...


「眷属ってことは、やっばりコアができているのですか?」


 こっくりと頷くアオちゃん。


「で、私たちは、そのコアにプロテクトを掛けたいんですけど...」

「ああ、その方がいいと思うぞ。今は、おれっちの力で抑えてるけど、それは結構強力だからな」

「良いんですか?プロテクト掛けると、邪神さんとの繋がりが切れてしまうらしいですよ?風の眷属ではなくなるということになりませんか?」

「(メ・ん・)? 良いんじゃねーの?同じ風属性ってところは変わんねー訳だし」


 まぁ、あんまり何も考えてなさそうなのは気になりますが、良いってことなのでサッサとやってしまいましょう。


「パー子。お許しが出たみたいなんでやっちゃって下さい」


 かなたちゃんの時と同様に『うぉん』という唸りを伴った超高速のデータ通信がパー子とアオちゃんの一瞬のあいだで行われと、無事にプロテクトが終わったようだ。


「済んだか? じゃあ、ちょっと俺っちに付き合ってくれね? ここいらは『黄衣の王』の縄張りだ。あの『由比川のどか』を案内せずにスルーさせたとあっては、流石の俺っちも首が飛ぶからな」

「『あの』は余計ですよ」

「謙遜すんじゃねーよ。おれっちも長く生きてるが、クトゥグアと対面して生きている人間を知らねー。おまけに、あのダゴンも手玉にとったって言うじゃねーか。これはもうダチになってもらうっきゃねーよな」


 ダチ、邪神のダチ...人間としてかなりダメなんじゃないでしょうか、それって...

 正直言って、邪神の王にお目通りするのは出来れば避けたいのですが、アオちゃんもお世話になってようなので、少しぐらい挨拶をしたほうがいいかな...

 パー子に目配せすると、半ば諦めたように答える。


「行くしかないだろうね。生身でイタクァからなんて、どうせ逃げ出せないし。『黄衣の王』も他の二人と違ってそんなに酷くないはずだから...」


『はずだから...』という所が、そこはかとなく不安感を煽りますが、まぁ大丈夫でしょう。


「じゃあ、お伺いすることにしますか」

「よっしゃ、そうと決まれば一気に飛ぶぜ」


 途端に突風が沸き起こり、周囲に砂埃をたてる。そしていきなりの加速感!!


「!ーーーーーー」


 なんで、最近こんなんばっかなんですか~

『えっ』という顔をしたあとで、何故だかモジモジし始めたハスターさん。

「い、いや、ほら、私たち風の一族は、元々クトゥルフたちと仲がわるいし、クトゥグアとも相性が悪い...」

 あぁ、なんとなく分かりました。それで両者に土をつけた(様に見える)私に興味が出たというわけですか...でも、それだけならば何故にそんな熱っぽい潤んだ瞳?


ドリームマシーン海賊版 第8話 エッケン

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