第4話.ソトなる図書館
意識不明のアカを助けるために幻夢境にやって来た私は、はぐれてしまったアオちゃん、かなたちゃんと合流すべく『ソトなる図書館』で手がかりを探すことにしました。
そして今、ようやく目的地に到着した所です。
ここ『ソトなる図書館』は、夢を通じて数多の世界からの流れ込んだ情報で、価値のあるモノをその重要度に分けて蓄積しているのだそうです。
図書館というのはあくまで比喩的なもので、どちらかと言うとデーターセンターに近く、利用者が使うことが出来る備え付けの端末が整然と並んでいます。
前も思ったのですが、幻夢境って思ったほどユメに溢れていません。
パー子が端末の一つに近づき、操作を開始します。
パー子のアクセス権は一緒に働いているえらいヒトのアクセス権らしく、上位サーバーの中もアクセス可能とのことだったのですが...
「まいったな。どうやら上位サーバー群の中でも主神クラスサーバーに入っているらしくて、細かいところは弾かれちゃうよ」
『You don't have permission to access』が出ている端末画面を悔しそうに見ています。
「何とかそのサーバーにアクセスする方法は無いんですか?」
ちょっと、考えていたパー子は、にやっと笑いながら言った。
「のどかちゃん向けの方法があるけど、やる?」
パー子の作戦は、ファイル共有サービスを利用した『トロイの木馬作戦』でした。
まぁ、コンピュータウイルスですね。ウイルス。
はっきり言って犯罪ですが、夢の中での事でもありますし、非常事態でもある事なので、ノーカンということでお願いします。
罠は、幻夢境で流行っているファイル共有サービス『通イーター』を使って張ります。
利用者は広く幻夢境の住人さんから、邪神、その眷属まで幅広く利用され、人気沸騰中とのことですが....
「でも、こういった攻撃は不特定多数が対象なので、必ずしも上位サーバーにたどり着けるか判らないのでは?」
「ふっふっふっ、ヤツが100%食いつくネタを持っているのさ」
パー子がくれたファイルに、トロイの木馬ドロッパーを使ってウイルスを仕込みます。
ファイルを幻夢境のファイル共有サービス『通イーター』に上げて、待つこと暫し。
「むっ、掛かったよ」
なんと、入れ食いではないですか!
バックドアが開いたことを確認し、上位サーバーの一つにアクセス成功です。
「流石、パー子は凄いです。感心しました。一体どんなおとりファイルを使ったんですか?」
『通イーター』上げたの添付ファイル、サムネがかなたちゃんになっている「めがねっ娘の恥ずかしい写真」、を開くと、ガチムチの変体紳士画像が表示されました。
はっきり言って、最低です。
「...感心するのは止めにして置きます」
「相手の趣向を完璧に把握した上に落ちまで付いているという最高の策なのに」
パー子ちゃんの抗議を無視して、バックドアからサーバーにアクセスします。
「それでは失礼しますよ」
操作者にばれない様にに文書フォルダへ移る。
「報告書らしきものが散見されますので、作成日時の新しいところからチェックしていきましょう」
「そうだね。この辺りはどうかな」
そのファイルは、報告書というより日記のようなものの様です。
まぁ、私的なサーバーの様なので、このようなファイルも有りなのでしょう。
『*月*日(晴)まったく僕の部下は無能ばかりだ。エンジェルを案内させたのは、まぁ良かったが、あんなに怯えさせてどうする!あぁ、かわいそうなエンジェル。どうすればエンジェルの心を開くことが出来るのか...案内役は、たまねぎ畑で強制労働20日間』
『*月*日(曇)エンジェルに届けさせた新しい衣装はどうしたんだろう?なぜエンジェルは着替えてくれないのか?そうか、やはり選んだやつのセンスが悪かったに違いない...購入担当の独房入り1ヶ月決定』
『*月*日(雨)エンジェルが此処を出て幻夢境の中を探索したいと言ってきた。きっとエンターテーメントが足りないのだろうと思い、近頃流行りのお笑い芸人を呼び寄せてみたが何が面白いのかわからん...1ヶ月分のギャラ没収』
『*月*日(雨)エンジェルが・・・・・・
「なんなんですか?この暴君ぶりは!このヒトどういうヒトなんですか?」
「直接あった事はないんだけど、クトゥルフっていう水属性最高の邪神だよ」
クトゥルフと言えば、確かこの間行ったルルイエで寝ているヒトじゃなかったですっけ?
自分が仕事もせずにファイル共有から画像ファイルをかき集めていることを棚に上げて、部下や回りに対するこの横暴っぷりは流石に邪神だけのことはあります。
「部下のダゴンさんが少し可愛そうですね」
中々に手ごわかった好敵手の立場を思い、少しクトゥルフというヒトに反感を覚えてきました。
ニッコリと笑いながらパー子に話しかけます。
「さっきの不愉快な画像フォルダにロックをかけてやりましょうか?このヒト、死ぬほど狼狽するんじゃないでしょうか?」
「笑い顔が怖いよ、のどかちゃん。やめておきなよ。怪しまれるだけだって」
流石に今いじってしまうと、サーバーへのアクセスしていることがバレてしまいますので、小細工をしておくに留めます。
ファイルを探っていると、位置情報の残ったかなたちゃんの画像ファイルが出て来ました。
「場所分かりますか?」
データを照合し終わったパー子が、小さなため息と同時に答える。
「多分、此処だとは思ってだけどね。ルルイエ幻夢境支部、通称『クトゥルフ砦』だよ」
「守りが硬いな。あそこに忍び込んで、かなたを救い出すのは骨だよ」
「そんなに難しいですか?」
「周囲をめぐる城壁には、高電圧が流れる鉄条網。おまけに至るところに監視カメラ、赤外線センサ、レーザー式の侵入センサまで完備だよ」
次回「ドリームマシーン海賊版 第5話 クトゥルフ砦のカプリチオ」