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技術系研究員 由比川のどかの冒険  作者: 錬金術師まさ
銀の鍵英雄伝説 特別編
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第9話.闇に潜む混沌

 ユゴス要塞攻略シナリオを無事に終えた私は、今後の進め方をブリーフィング中です。

 メンバーは、ダゴンさん、ハイドラさん、ハスターさん、イタクァ君に、ニャルラトホテプのにゃるちゃんです。


 世の探究者が目にすれば卒倒しそうですね。


「...というわけで、もう一人のニャルラトホテプさんが、このゲームの何処かに潜んで居るはずなんです」


 ニャルラトホテプの『にゃるちゃん』からの情報を交えての説明を終えた。


「と言う事は、例の事件でオレッチたち、風の一族に喧嘩を売った奴が、このゲームのどこかに潜んでるってことか」


 イタクァ君が獰猛な唸り声を上げます。

 ハスターさんも綺麗な眉間にしわを寄せて珍しく怒っているようです。


 例の事件とし言うは、ミスカトニック大学でハスターさんがウイルスを撃ち込まれた事件と、それに関わる風の一族への狙撃事件の事です。

 この時は、結局、実行犯は捕まえたもの、黒幕である「もう一人のニャルラトホテプ」を捕まえることができませんでした。


 そんな空気をまったく無視しているにゃるちゃんの声が響きます。


「そうなんですよ。のどかさんが勝ては私があんにゃろめを吸収する事になってるんですよ」

「ニャルラトホテプが複数の影を持つ邪神だと聞いたことはあるが、そんなシステムだとは知らなかったな」


 調子を取り戻したハイドラさんが呟きます。

 しかし、私が目を見ようとすると『びくっ』と肩を震わせ『ついっー』と視線を反らされてしまいます。


 邪神さんに恐れられる私って...くすん。


「ふんっ。ではお前がこのまま勝てばよかろう。我々は捕らえられた以上、次のシナリオからは将はいない。お前なら余裕なはずだ」


 私からハイドラさんを守るように、ダゴンさんが私とハイドラさんの間に割って入ります。

 いくら私でも、そろそろいじけますよ?


「えぇ、おそらく勝てるでしょう。でも、それではダメなんです。勝っても負けても、今のにゃるちゃんは消えてしまう。私はそれは嫌なんです。私たちの目指したいのはゲームでの勝利ではなく、この勝負自体を無効にする事なんです」

「そこまで、このにゃるちゃんの事を...分かりました。結婚しましょう! 今すぐに」


 そんなにゃるちゃんを完全に無視してダゴンさんが話を進める。


「それで我らを生け捕りにして、お前はどうしたいのだ」

「それはですね...」


 皆さんを前に私の方針を伝える。


「不可侵条約?」

「そうです。どちらも攻撃せずにだらだらと遊んでいれば、業を煮やしたニャルラトホテプさんが出てくるのではないかと...」

「ふん。もしやつが出てこなければどうするんだ」

「その時は、このゲームをだらだら続けていくだけです。まぁ、寝ている自分の身体が気になりますが、あっちにはニコラテスラも居ますし何とかするんじゃないかと...」

「その点は問題ないでしょう。のどかさんの中には、このにゃるちゃんの『銀の鍵』がありますからね。この様な夢から抜け出すことは簡単です」


 そっか、そうやってボイコットしてしまうことができるならそれも選択肢の一つですね。

 でも、まあ、また妙なちょっかいをかけられるのも面倒です。

 ここでしっかり決着をつけるのが良いでしょう。


「このゲームの中では我らはお前に負けた身だ。今回だけはお前の言う通りに動いてやる」


 それだけ言うと、ダゴンさんはハイドラさんを連れて会議室から出ていった。

 それ見ていたハスターさんが不安げに私の傍に寄ってくる。


「のどか殿、ダゴンの奴、自由にさせてしまって大丈夫だろうか」

「ダゴンさんは、武人ですからね。ああ言った以上はちゃんと手伝ってくれると思いますよ。果報は寝て待てと言いますし、ハスターさんのご飯でも頂きながら待つことにしましょう」



 その後、ダゴン軍と私たちのどか軍の間に不可侵条約がむすばれ、戦争は終結したかに思えました。

 しかし陰謀は、ひと時の平和を甘受するある都市の地下深くで密かに醸成されていた。


 一切の光の侵入を拒絶したかの様なその部屋の一画にそれは潜んでいた。


『ふむ。流石は由比川のどか、やりますな。しかし、ここまでは此方も読んでいますよ。さて、貴女は次の手を読み切れますかね』


 もう一人のニャルラトホテプ『無謀の神』は、次の一手の準備を開始した。


「戦勝パレード、ですか?」


 市民代表だというその男性の訪問を受けたのは、私たちが自治領に戻った次の日でした。


「はい。今回の勝利を皆で祝うためにも、是非戦勝パレードをと考え、皆で企画しました」


(別に私たちは勝っていませんけどね)


 とは言えませんね。どうやら、この方は自治領の有力者の様です。

 無下に断れば国内不和が広がり最悪の場合、暴動に発展する恐れもあります。


「お祭りは私も好きですが、警備の問題があります。少しこちらで検討させていただけませんか?」

「判りました。良いご返事を期待していますよ」


 資料を置いて男が下がった後、入れ替わりにヴェルナーが入ってくる。


「のどか、これ本当に引き受けるつもりか? 判っていると思うが罠だぞ」

「そうでしょうね。パレードを襲ってのテロリズムを狙っているんでしょうね。但し、パレードをやらない場合は、それをネタに国内不和を狙ってくるでしようね」


 どちらにしても面倒な罠が張られている事でしょうね。

 ならば、『無謀の神』さんを引っ張り出しやすい方を選択しますか。


「ちょっと危険ですが、パレードをやる方向で検討しましょう」

 終戦を祝うパレードが進む中、オープンカーに乗った私を冷たく見据える狙撃者の影が、近くビルにあったことを私は知りませんでした。

 スコープの中の私の心臓に狙いをつけた影が、私に語り掛けるようにつぶやきます。


「残念だよ。由比川のどか。もう少し楽しませてくれるかと思ったのに...ここでサヨナラとわね」


 狙撃者は右手でそっと引き金を引く。


第10話.魔人のどかは二度死ぬ

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