第8話.ユゴス要塞、無血開城
「ユゴス要塞突入部隊から入電。『オレッチの見せ場、キター』以上です」
頭を抱えてその一報を聞いていたした私ですが、直ぐに行動を再開します。
逃げ出した敵艦隊が要塞に戻らない様に、敵艦隊と要塞の間に立ふさがります。
「これより私達の艦隊は、敵艦隊に対して牽制をかけます」
「のどか様、分艦隊から入電しました。敵駐留艦隊の撃破と司令官の確保完了との事です」
自信たっぷりで出て行って、きっちり仕事を終えてくるところは関心です。
ヴェルナーに対する評価を少し上げなければ行けませんかね。
「ハイドラさんとお話がありますので、丁重にブリッジまでお連れしてください」
それから、しばらくしてヴェルナーとハスターさんが意気揚々とハイドラさんを引き連れて艦橋に現れた。
「のどかーーー、ぎゅっとしてギュッと。まずは、一ギュッと」
ヴェルナーは、そう言って抱きついて来ました。
その背後に、ハイドラさんの様子が見えます。
ハイドラさんは、いわゆる亀甲縛りにされていました。
「私はできるだけ丁寧にお連れしてくださいと頼んだはずですよ」
ギュッとはお預けです。
と言いながらヴェルナーを引き剥がします。
「私もできるだけ丁寧に連れてようと思ったんだ。でも、いざこっちに連れてこようとすると『生きたまま食われるのは嫌だ』とか、『卵を産み付けられる』とか騒いで暴れるから、つい...」
ハイドラさんの目には貴婦人の光はなく、怯えと恐れが入り混じっています。
「あのぉ...」
「ヒィっ」
少し声をかけただけで、これではお話をする事自体、難しそうです。
仕方ありません。
ここは、ウイットに富んだ大人のジョークで場を和ませることにしましょう。
ハスターさんにお願いして飲み物を用意してもらいます。
「まぁ、そんなに緊張せずに。飲み物を用意したのでどうぞ」
赤い液体の入ったグラスを手に取り、口をつけ毒が入っていないことを証明する。
それを見たハスターさんがグラスを手に取り口をつけました。
「やっぱり新鮮なだけあって美味しいですよね。さっきイタクァ君が摂ってきてくれたばかりのダゴンさんの生血...なんちゃって」
『どさっ』
ハイドラさんが音を立てて崩れ落ちます。
「どっ、どうしたんですか?」
近寄って、何やら調べていたにゃるちゃんが私に告げます。
「ハイドラ選手、SAN値ゼロにより行動不能、勝者はのどかさんです」
『おおおっっっ』という歓声がブリッジを包みます。
訳が分からずに、目を白黒させているとハスターさんと目があった。
「流石はのどか殿だ。一撃で相手のSAN値を刈り取る今の攻撃。私も見習いたいと思う」
いえ、今のはただのジョークだったんですけどね。
「ダゴンさんを説得してもらう役を引き受けてもらえなくなってしまいました」
(まぁ、逆にやりたい放題ということですか)
床に倒れたしなやかな肢体を眺めながらそんな事を考えました。
一方、ユゴス要塞の司令室では一大活劇が繰り広げられていた。
イタクァがトマフォークを振るたびに、刃の先端から衝撃波が発生しあらゆるものを切り刻み、ダゴンが振る鉾に触れたものは、その衝撃で即座に砂に帰っていく。
水と風、両主神、第一の部下同士の戦いは熾烈を極め、全く入り込む余地はない。
「やるじゃんか、ダゴンのおっさん。俺っちについてくるとは耄碌ジジイとは思えねー」
「ほざけ、おむつが取れたばかりの様な小僧っ子が聞いたふうな事を抜かすな」
ジャンプ系アニメのノリになった二人の戦いは終わる気配を見せない。
アカは、巻沿いを喰らわない程度に距離をとった場所に、倒したディープワンズを敷物にして腰をおろし、完全に観戦モードに入っていた。
「ブレーキって言っても、僕じゃ、割って入っただけでスクラップだよ」
仕方がないので現状報告のため連絡を入れる。
「のどかちゃん、イタクァのやつ、強い奴に会いに行ったまま帰ってこないんで、僕帰っていいよね?」
「なんですかそれは?だめですよ。せめて現状報告ぐらいしてくださいな」
「現状報告と言われてもねぇ...」
映像情報で、二人が争った跡、廃墟になったブリッジの様子を転送する。
『こうなってはだれも止められないんじゃ』というセリフが脳裏に浮かぶ。
「とりあえず、ダゴンさんを説得するから、そっちの映像回線を開いてくれる」
「まぁ、それぐらいなら」
近くにある端末に近づきケーブルをつなぎかえる。
「いいよ」
「ありがとう」
かろうじて生きていたディスプレーにのどかちゃんの姿が映る。
「二人ともやめなさいっ。ダゴンさん、話を聞いてください」
よく見ると、のどかちゃんの足元にハイドラが横たわっているのが映りこんでいる。
(て、言うかなんで亀甲縛りにしてるのかな。これじゃ完全に悪の女幹部だよ)
「ハイドラ! おのれ、由比川のどかっ。ハイドラに何をした」
「何もしていませんよ。ウイットを利かせた大人のジョークを...」
必死の弁明もダゴンはまったく聞く気はないようだ。
「おのれぇ、ハスターを陥落させたという由比川のどかの魔手かっ」
それを聞いていたらしいハスターさんが、のどかちゃんの横から顔をのぞかせた。
「のどか殿、まさかハイドラにまで...ダメだ、のどか殿には私がいるじゃないか」
「ハスターさん、今ダゴンさんとお話ししているので少し...」
「のどか殿は、私と話すよりダゴンと話した方がましというのか!」
「そんなことは言っていませんよ」
スクリーンの中の夫婦漫才を見ていたダゴンがなぜか溜息をついた。
「なんだかどうでも良くなってきたわい。わかった。投降しよう。由比川のどか、ハイドラには手を出すなよ」
スクリーンの向こうでハスターさんに噛みつかれていた のどかちゃんが此方に向く。
「だから、それは勘違いです。イタクァ君、ダゴンさんをこちらに案内して」
「オレッチとしては、もう少し遊びたかったけどな。おっさん、こっち着な」
こうして、私たちはユゴス要塞の占拠に成功しました。
ダゴンさん、ハイドラさん、にゃるちゃん、ハスターさんにイタクァ君という、世の探究者が目にすれば卒倒しそうなメンツを前に、ここまでの状況を整理します。
「...というわけで、ミスカトニック大学での事件にかかわったもう一人のニャルラトホテプさんが、このゲームの仕掛け人の一人なんです」
「と言う事は、オレッチたち、風の一族に喧嘩を売ったニャルラトホテプが潜んでるってことか」
イタクァ君が獰猛に唸る。ハスターさんも怒っているのか眉間にしわが寄っている。
そんな空気をまったく無視するようににゃるちゃんの能天気な声が響く。
「そうなんですよ。のどかさんが勝ては私があんにゃろめを吸収する、そうじゃなければ、あんにゃろめが私を吸収すると言う事になってるんですよ」
「ニャルラトホテプが複数の影を持つ邪神だと聞いたことはあるが、そんなシステムだとは知らなかったな」
銀〇伝 特別変× 第9話 闇に潜む混沌




