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技術系研究員 由比川のどかの冒険  作者: 錬金術師まさ
銀の鍵英雄伝説 特別編
30/36

第5話.ハスターさん、ちょっと活躍する

 ユゴス要塞の司令部にいるダゴンの下に敵艦隊の来襲の一報がもたらされた。


「敵艦隊、機雷群を展開しながら接近中」


 外連味のない艦隊編成からは、正面からの要塞攻略の意図が読み取れた。


「由比川のどかの悪知恵も尽きたか...いや、罠準備のための時間稼ぎ、陽動と見た。敵に時間を与える必要はない。ダゴン艦隊出撃用意...」

『お待ち下さい』


 開いておいた通信回線から、ダゴンの妻であり副官であるハイドラの姿が現れる。


「なにか?」


 内心の冷や汗を抑えて、努めて冷静に返事をする。


「ダゴン艦隊は先ほど帰投したばかり。『負け戦』で兵の志気下がっています。此処は我々ハイドラ艦隊で敵を殲滅します」


 言っている内容は提案だが、その口調は有無を言わせない。


「ハイドラ、しかし我が艦隊は...」

「何でしょう(ギラ)」

「...いや、任せる」

「ダゴン様におかれましては、ユゴス要塞にて私の戦いをご覧頂きますように。では」


 嫣然と笑って通信は切れた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ハスターさんは、帰ってきてからムスッとしていたが、何かに気が付いたかのように顔をあげた。


「ユゴス要塞から駐留艦隊出撃したようだぞ」


 レーダー担当のアオちゃんに確認するが首を振っている。


「のどか殿は、私をなんだと思っている? 私は風の主神ハスターぞ。この程度の距離、エーテルの動きで手に取るようにわかる」


 言い方はぞんざいですが、全身から『褒めてオーラ』が吹き出しています。

 

「すごいですね、ハスターさん。さすがです。私の認識不足でした」

「そっ、それなら、髪をなでてくれたら許してあげる...こほっ、許すがどうだ」


 サラサラの髪をなでると、ハスターさんは幸せそうに目を細めて溜息をついています。

 その後ろでは、ヴェルナーとにゃるちゃんがこっちの様子を見ながらウロウロしています。

 

「どうしたの?」

「そんな乳お化けではなくて、私の慎ましやかな胸のほうが希少価値なんですよ」

「そうだ、私も...じゃない。あちらの艦隊が出てきたからそんなことやっている場合じゃないだろ」


 なんだか、この二人妙に息が合っています。

 もちろん、このままでは折角デコイに釣られて出てきてくれた駐留艦隊を逃がしてしまいます。

 そう、敵艦隊が見つけたのは、小惑星などを並べてちょっとだけ加工をした偽物、デコイなんです。

 ダゴンさんの艦隊に仕込んだウイルスにちゃんと感染していれば、センサー類に欺瞞データで騙せるので成功率は高い筈です。


「ハスターさん、出てきたのはダゴンさんの艦隊ですか?」

「いや、旗艦の形が違うから多分違う。こんな形の艦影だ」


『こーんな』の部分で、ハスターさんは空中に一筆書きをします。


(こんな形と言われても...大根? それとも人参かな)


 才色兼備のハスターさんも、美術的なセンスは壊滅的の様です。

 ハスター画伯の名状しがたい作品を見て、アオちゃんがデーターベースにアクセスを開始します。


「データ出ました。ハイドラ艦隊の様です」

「アオちゃん、今ので分かったんですか?」

「のどか殿、何気に酷い...」

「ハイドラさんは、ダゴンさんのように単純ではありませんよ?どうします?」


 にゃるちゃんは楽しそうに( ̄∀ ̄)笑っています。


「ハスターさん、敵艦隊の情報をアオちゃんに教えてあげてくれますか?」

「どうせ私の書く絵なんか...」


 落ち込みましたか、仕方ありませんね。


「ごめんなさい。謝りますから機嫌を直してくださいな」

 

 ハスターさんは、イジイジしながら小っちゃな声で呟きました。


「...ギュッとしてくれたら許さないこともないぞ」


 それを聞きとがめたにゃるちゃんが、食って掛かります。


「なんて厚かましいんですか。のどかさんのギュッとは、このにゃるちゃん専用なんですからね」


 それを聞いていたパー子が突っ込みを入れます。


「ニャルラトホテプ。お前、だんだんゲームマスターに飽きてきてるだろ?」

「そっ、そんなことありませんよ。私は、ただ不利益なフラグをへし折ろうとしているだけで...」

「誰にとっての不利益だよ」

「私にとってに決まっているじゃないですか。大体あなた最近...」


 にゃるちゃんと言い合いを始めたパー子が、『こっちは任せろ』と手を振っています。

 友軍に感謝しながら、ハスターさんをギュッと抱きしめます。

 ハスターさんは気持ちよさそうに、私に身を預けます。

 その耳元でお願いを囁きます。

 

「私には、ハスターさんの助けが必要なんです。助けてくれませんか」


 それを聞いたハスターさんは、拗ねた様に少し眉をひそめ唇をとからせます。


「のどか殿はずるい。そんな事を言われたら、断れるわけがないではないか」


 そう言うと、最後に『ギューッ』と抱き付いてから私から離れます。

 首をめぐらすと、両目に涙をいっぱい貯めたにゃるちゃんと、『たいへんだね~』って顔をしたパー子が視界に入りました。


「にゃるちゃんにも...」

「べっ、別にギュッとして欲しかった訳じゃありませんからね」


 などと言いながらも、ギュッとしてあげるとご機嫌が戻ったみたいです。

 私、なんだか最近ジゴロスキルが上がってきている気がするのは、気のせいですかね。

 

 ハスターさんからの指示を受けたアオちゃんが、正面ディスプレーに敵艦隊の座標位置が表示してくれました。

 これは便利ですね。やる気になれば、雷撃の超遠距離攻撃で一方的な攻撃ができそうです。

 まぁ、そんなえげつない事はやりませんけど。


 そう言っているあいだにも、敵艦隊がこちらのデコイの近くにたどり着いたようです。

 ウイルスから欺瞞データを流し始めます。

 

「騙せるかな?」

「さて、どうでしょうね」


 ダゴン艦隊に仕込んだウイルスは、通信回線を使って感染するタイプなので、艦隊出撃の連絡で感染していれば良いんですけどね。

 ディスプレー上のハイドラ艦隊の陣形が、縦陣形から鶴翼陣形に変化します。


「どうやらデコイ艦隊をこちらの本体と認識してくれたみたいですね」


 その整然とした艦隊運用からみると、まともに相手をしないほうが懸命のようです。

 ちょうど、ハスターさんのおかげで彼方の動きは筒抜けですし、要塞攻略まで足止めをしておくのが賢明ですね。


「のどかは、要塞攻略に専念してくれ。あちらの相手は私がしてやるよ」

「大丈夫ですか?」

「忘れたのか?私とのチェスの戦歴のこと...」


 うーん。確かに、こいつとのチェス勝率は5割、何時負けたかもわからないうちに負けていることもあります。

 若干の不安はあるけど、補佐をつければ大丈夫でしょう。

 と決まれば...


「では、この艦の指揮権をウェルナーに委譲します。アオちゃん、ハスターさん、ヴェルナーのアシストをお願いします」

「こちらにはイタクァを残す」

「俺っちのことを呼んだかい?」


 一陣の風が吹いた後には、ギザギザがついたトマフォークを両手にもったイタクァ君がたっていました。


「あの要塞に乗り込むんだろ?ダゴンのおっさんは、俺っちに任せてくれよ」


 イタクァ君はやる気満々なんですが、私としては肉弾戦は最後の作戦にしたいところです。


「出来れば、正面から斬り合うのは避けたいんですけどね。その時が来たらお願いします。では、この宙域には、本艦と護衛艦を残して私たちは敵要塞への侵入を開始します」


 こうして、ユゴス要塞への攻撃を開始しました。

 キャプテンシートに背を預けながらハイドラは物思いにふけっていた。


 あの由比川のどかに関わってから、夫の様子が変わってしまった。


 古来から神と人の間『一夜の戯れ』、少し様子が違う。


 夫はライバルだと言うが、あのような貧弱な胸の娘が夫の好敵手になるとは思えない。


「この一戦、貴女という人を見極めさせてもらいましょうか」


丁度そのころヴェルナーを送り出した、のどかが急に厳しい顔をして敵艦隊を見つめていた。


「なんだか、ひどく失礼なことを言われた気がします」


銀〇伝 特別変× 第6話 ヴェルナーさん、やりすぎです

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