第3話.フォーマルハウトの戦い
ダゴンさんの艦隊は、フォーマルハウトを背にして布陣しています。
対して、私たちの艦隊は機雷群を盾にして進軍を開始します。
「機雷群をダゴンさん側に押し出しながら、半月陣を構築しつつ全艦前進。遠距離ミサイルで敵を牽制しつつ空戦隊を展開」
レーダーに映るダゴンさんの艦隊が、此方に呼応して陣形変化していく様子が見えます。
「半月陣型は中央突破されやすい。それを防ぐための機雷群を敷いたわけか」
ヴェルナーが関心したような声を上げる。
「そんだけでは無いんですけどね」
敷設した機雷のおかげで中央突破の力勝負という展開にさせない事が狙いです。
「おそらく、敵雷撃機による攻撃に出てくるだろう。迎撃準備にかかる」
そう言ってハスターさんは、艦橋から戦闘機デッキに向かいました。
本来は主神自ら戦闘機に乗る必要もないと思うのですが、『眷属に危険なことをさせるのに、自分だけ安全な所にいる訳にはいかない』と折れてはくれませんでした。
(へんなところ頑固なんですから...)
『搭乗完了した。いつでも行けるから合図してほしい』
「分かりました。ハスターさん達、空戦部隊は艦隊防衛をお願いします。相手の挑発に乗って突出しないように...それと、怪我をしないで下さいね」
『了解した。ハスターの名に掛けて、船にも我が眷属にも、傷一つ、つけさせない』
何だか死亡フラグっぽいセリフを吐くハスターさんに、釘を指しておくことにします。
「無理はしないで。危なくなったら逃げ帰ってきて下さい。はい、復唱」
『...我々は無理はしないし、危なくなったら直ぐに逃げ帰る。これでいいか?』
「はい。よくできました」
『私たちだって、それなりに強いのに...』
ハスターさんには少し可哀そうな事をしました。
でも、これで少しは危険なことをせずにいてくれればそれで良いんです。
空戦隊を送り出した後、今度は火器管制をしていたアカから声がかかる。
「のどかちゃん。そろそろ機雷群を止めないと、あっちに突っ込んじゃうよ」
「かまいません。そのまま突っ込ませて下さい」
「このまま突っ込ませても避けられちゃうけど...なんか考えあるの?」
「それは、秘密です」
機雷群の大部分はフォーマルハウトの重力に引かれて飲み込まれます。
これで、私たちは艦隊を守っていた盾を失いました。
敵の陣形が密集体型から紡錘陣形に変化します。
「敵が中央突破作戦を敢行してきます。空戦隊の方は速やかに各艦へ退避して下さい」
「のどかちゃん、戦闘機下げたら雷撃機の良い的になっちゃうよ」
戦闘機が空域からいなくなったことを確認したダゴンさんは、ここぞとばかりに雷撃機を発進させて、旗艦を包囲してきました。
「敵旗艦からの通信入りました」
スクリーンに現れたのは思ったとおり、ダゴンさんでした。
『儂の勝ちだ。由比川のどか』
開口一番の勝利宣言ですか...気の早いことです。
「まだですよ。私たちは負けたわけではありません」
『よせよせ、この状態からどう挽回する?引くのも勇気だ。降伏すれば客将として迎えてやってもいいぞ』
「そんな余裕でいいんですか?また、どこからか魚雷が飛んでくるかもしれませんよ?」
『なにっ』
あちらの艦橋で指示を飛ばして、索敵を行っている様子が見て取れます。
その後ろに見えるフォーマルハウトの輝きに僅かに変化が生じるのが見えました。
『つまらんハッタリは止せ。お前に、もう策は...』
ダゴンさんが怪訝な表情をして、私を見つめています。
つい口元に出てしまった笑みを見咎められてしまったようです。
ポーカーフェースを決め込もうとしたのですが、仕方ありません。
「そうですね...もう勝ったので、策は必要ないですよ」
その言葉にダゴンさんがハッとしたとたん、映像が乱れて通信が途切れます。
代わりにレーダー担当のアオちゃんから、待っていた報告が入いります。
「フォーマルハウト表面で黒点多数発生、ものすごい恒星風が吹き荒れている模様。余波がこちらにも及びそうです」
「みなさん、船が揺れますので何かに捕まるか、床に伏せてください」
大量の機雷を恒星に撃ち込んだらどうなるか、その答えが目の前に有りました。
機雷によって誘発された恒星風の大嵐を受けて、此方を包囲していた雷撃機が大混乱に陥っています。
こっちでも猛威を振るっているわけですから、フォーマルハウトに近接して布陣していたダゴンさんの艦隊は、たまったものではありません。
熱と爆風を避けるようにフォーマルハウト表面からほうほうの体で逃げ出そうとします。
「そうはさせませんよ」
ダゴンさんの艦隊の頭を押さえて、ミサイルを雨あられと降り注ぎます。
ダゴンさんの艦隊は、恒星風とミサイルの雨に挟まれて両面こんがりです。
「のどか様、敵旗艦から通信はいりました」
スクリーンに現れダゴンさんには、良い感じに焼き色がついていました。
(大根下ろしにお醤油で。もちろん、白いご飯は必須です)
そんな評価が自分に下されているとは、つゆ知らないダゴンさん。
「由比川のどか!! おまえ、我らを焼き殺すつもりかっ」
「いやですね。ちゃんと、大根を添えておいしく...じゃなくて、ダゴンさんこそ、降伏してくれれば悪いようにはしませんよ」
「このままでは全滅を待つばかりだ。わかった降伏する」
こうして、フォーマルハウトの戦いは終結しました。
「冗談ですよね?」
にゃるちゃんは、輝くような笑顔で答えます。
「いえいえ、冗談などではありません。チュートリアルが終わったのどかさんに、是非ともプレイしていただきたいシナリオ、『ユゴス要塞を奪え』です」
あぁ、その笑顔が眩しいっ。
もう一度、要塞を見直しますが、状況に変化がある訳もありません。
「えーっと、別のシナリオは無いんですか?」
にゃるちゃんは、不思議そうな顔をして小首を傾けます。
「ありませんが?」
「ないんかい」
銀○伝 特別変× 第4話 立ち塞がる要塞




