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技術系研究員 由比川のどかの冒険  作者: 錬金術師まさ
フレシット弾 邪神編
24/36

章間 無貌の神

「なんとか無事に乗り越えてくれたみたいですね」


『ほっ』と胸をなで下ろしていると、パー子ちゃんが怖い目でこっちを睨みつけています。


「目ぇ怖いですよ。あのまま放置すれば、のどかちゃんがどんな無茶するか分かったものではないでしょ。『邪神システム』が役だったのですから、そんなに睨まないでくださいよ」


『邪神システム』というのは、本来なら一目見ただけで、SAN値が吹き飛んでしまう邪神の本質を数値化して人に扱えるようにした、このニャルラトホテプお手製のシステムなのです。


「(とはいえ、かなりの無理が掛かったのは事実ですね。のどかちゃんが吐血したとき、思わず幻夢郷の壁をぶち破って助けにいこうかと思いました)」


 もちろん、そんなことをしたらあの世界が壊れてしまいかねないので、あくまで最後の手段ですけど、やるときはやる邪神ですから私。


「あの『メタモウィルス』ってやつを撃ち込んだ犯人。あれで全部だと思うか?」


 怖い目のまま、パー子ちゃんが話しかけてきます。たぶん下手なことを言うと切っ先が飛んでくるのでしょう。


 そうゆうところ、嫌いじゃありませんよ。嫌いじゃありません。


 大事なことなので二度言いました。


「まさか。あの『ミスカトニック大学』の研究室から盗みを働くような奴らですよ。暴走したハスターさんの能力で吹き飛ばされる程度の小物な訳がありません」


「...邪神が絡んでるのか?」


 相変わらず良く気が付く子ですね。素直に答えるのも簡単ですが、もう少し考えてもらいましょう。


「ハスターさんに喧嘩を売れる邪神は限られるでしょうね。最有力はクトゥルーですが、あのおっさんはのどかちゃんの所のドールを追っかけて、ハスターさんの事なんか眼中にないでしょう」


「でもクトゥグァならば、こんな事をしない」


「こんな面倒なことをせずに全て丸焼きというのがあの脳筋邪神ですからね」


「じゃあ、後は...」


「大事な邪神のこと、お忘れではないですかね。何時如何なる場所にも這い寄り、ねらった獲物が自滅するのを陰からみて楽しむ邪神」


『ひゅっ』と空を切り裂いて首筋に近づいた切っ先を指で摘む。


「貴様!やっぱり...」


「慌てないでください。確かに今回の件は『這い寄る混沌』の仕業ではありますが、この『這い寄る混沌』ではありませんよ」


『その通ぉ~~りぃぃ』


 その声と同時に幻夢郷の空間がひずみ、黒いタキシードを着た長身の男が現れる。


 不思議なのは男の顔が解らないことだ。顔は浮んでいる表情を理性が受け入れる事を拒絶し認識する事を許さない。


「『無貌の神』フォームですか...ひとのテリトリーにやってきて挨拶もない田舎者にはお似合いですね」


「なっ、『無貌の神』ってニャルラトホテプの..」


 流石にびっくりさせてしまった様ですね。

 

「そう、私の二つ名の一つ。私に関する誤解を解いておきましょうか。『千の異なる顕現』ニャルラトホテプという一柱の邪神が様々な形態を取って顕現すると理解されている様ですが、実際は千人の異なるニャルラトホテプが顕現すると言うことなんです。あれは私であり私ではないニャルラトホテプです。わかりますか?」

 

「つまりは敵って事だろう」


 『しゃらん』と涼しい音を立てて、刃を抜くパー子ちゃん。目の前の敵に油断無く身構える。


「いやいや、そちらの存在が分かったのはついさっきでね。決して君の存在を無視したわけではないんだよ」


「どうですかね...それで今日は詫びと暇乞いに着たというわけですか?」


「まぁ、本人同士で詫びるも無いが、詫びろと言うなら詫びるよ。ただ、暇乞いは勘弁してほしいですな」


「ここは私の縄張りですよ?余計なことはせずに、さっさと別のねぐらを探したらどうですか?」


「でも、ほら同じニャルラトホテプじゃないですか。ということは、君の縄張りは私の縄張りでもある。私としては事を荒立てる気はないのだが...」


 此方の出方によってはそれにあらず。暗にそう言っている。


 ここで事を荒立てることは、この辺り全てを灰燼に帰する事を意味する。それだけは避けたい。


「ジャイアンですか。まぁ、同じ自分のよしみで居座ることは許すとして、一つだけ条件を出しましょう。由比川のどかとその一党には直接手を出さないこと。飲めますか?」


「分かりました。直接は手を出さないようにしましょう。それが、我らニャルラトホテプに相応しいことだからね」


「あと一つ、これはお願いなのですが...『銀の鍵』貸してくれません?」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「なぜ?」


 首を右に巡らすと無防備に眠るハスターさん、左に巡らすと私のパジャマの裾を決して放すまいとしっかり握って眠っているヴェルナー。


 あの後、泣き疲れたハスターさんをベッドに寝かせていたら、「私も大変だった」と主張するヴェルナーが反対側から入ってきて、なぜか女三人で同衾する羽目になってしまいました。


 眠るに眠れず、どうしたものかと考えていると、布団の端がめくられ、何かが布団なのかをゴソゴソと這い寄ってきます。


 こういう事をやるいたずらっ子は1人しかいません。


「アカ、貴女どうしたんですか?」


 布団からひっこり顔を出したのは、やっぱりアカでした。


「のどかちゃんが頑張った人にご褒美をくれると聞いて。僕たちも頑張ったから混ぜてよね」


 いつの間にかアオちゃんとかなたちゃんも両脇に来ています。

 

「狭い狭い、こんなに入れませんてば。誰ですそんなデマを流したのは」


 アカは、抗議する私を無視して私の胸の上に陣取って顔を埋めるようにくつろぎ初めてしまいます。

 

「私は貴女のベッドですか」

 

「のどかちゃんのじゃ、ベットとしては...なんでもありません」


 殺気を感じたのか、不穏当な発言を途中でやめる。


 周りを見るとアオちゃん、かなたちゃんもそれぞれのお気に入りの場所でねる気満々です。

 

「仕方ないですね。皆で一緒に寝ますか」


 私も疲れが出てきたのか少し眠くなってきました。

 

 ぼやけた頭で、今回の事件について振り返ります。


 ハスターさん達、風の邪神をねらい打っていた犯人達は、能力が暴走したハスターさんに打ち倒され事件は解決したように見えますが彼らは実行犯であって、その裏に何かがあると思って間違いないでしょう。

 

 それに、失血で気を失いかけた状態で聞いた陰の黒幕っぽい声。


 あれも気になります。


「夢の事ですから、夢の世界の住人さんに聞いてみますか」


 パー子の姿を思い浮かべながら、まどろみの中に落ちていきます。


 良い夢が見られますように...


 みなさん、おやすみなさいませ。

最近、ニャルラトホテプがデレ過ぎて、締りがなくなっていたのですが、新たな邪神の出現で少しはピリッとしそうです。

次の物語をお楽しみに。

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