第9話.絶対に助ける
ウインドウには、私の名前とパスワードが既に入力されている様です。
「至れり尽せりですね」
ログインするとシステムメンテナンス画面が立ち上がります。
画面には、システム異常を示しいてると思われるアイコンが点滅しています。
どうやら、システムがウィルスを解析を行っている様です。
しかし、解析部分がウイルスに攻撃されているらしく、ウイルス駆除が出来ていません。
「この『邪神システム』というのは、システム管理の為のものなんですね。邪神さんたちも、ニコラ・テスラの様なAIに近いものなのでしょうか?」
こうしている間にも、ウイルスの侵略を示すアイコンが増えていきます。
躊躇している暇はなさそうです。
ウイルスの自動解析を停止し、管理者によるウイルス対策に切り替えます。
(とりあえず、ウイルスのパターン解析をしなくては話になりません)
そう思ったとたん、視界がウイルスのファイルに収束していくのを感じます。
「思考制御?」
旧作レンタルで借りた古いSFが頭を横切りますが、どうやらロシア語で考えなくても大丈夫なようです。
これなら苦労なしで、ウイルスの構造解析が出来ると思ったのですが...
「なにこれ」
目の前に現れたのは、ウイルスのデータはまるっきりボケていました。
少しずつデータが細かくなっる様子は、まるで遅い回線で画像を見ている様なものです。
「データレートが足りてないんですね」
データレートを決めている回線のバックボーン太さは、ハスターさんと私の契約の親密さになるのでしょうか。
そう言えば、ハスターさんが血を舐めとる度に、少しずつですがデータレートが上がっていくのを感じます。
ハスターさんとの契約が強まれば強まるだけ、データレートが上がっていく仕組みなのでしょう。
「それならっ」
ハスターさんの唇から指を抜き取ると、ガラスの破片をさっき切った傷に当てます。
『せーのっ』で思い切ってガラスを引くと、鋭い痛みを伴って、自分でも驚くほどの鮮血がほとばしりました。
その姿に青ざめ、正気に戻るハスターさん。
「の、のどか殿!いったい何を...むぐっ」
その問いには答えず、ほとばしる鮮血のままにハスターさんの唇に挿入します。
私の大量の血が、ハスターさんの中に流れ込みます。
「のどか殿、らっ..らめぇ...ちゅぱっ..ごくっ...いっ..ぱいすぎるぅ...熱い...身体が熱すぎるよぉ...」
媚薬効果のある私の血を大量に飲み込んで、かわいそうなぐらい身体をぴくぴくさせています。
「...ぴちゃっ..うっく..ごくっ...のろかどのぉ...ひゃいて...だゃいて..くだひゃい」
ろれつも怪しくなって、私に抱きついてきます。
「ごめん、ハスターさん。必ず何とかするから、もう少し我慢して」
それを聞いたハスターさんの目に理性が戻ります。
『こくり』と頷くと目を閉じて襲いかかってくる快感に抵抗するように身を堅くします。
「...くっ..はぁ...うぅっ...」
ハスターさんの中に私の血が満ちていくのにつれ、回線が太くなっていくことが実感として解ります。
これならば、いけるかもしれません。
(もっと、深く!!もっと、細かく!!)
まるで顕微鏡の倍率をあげるように表示が拡大されます。
今度は、ぼやけることもなく、ウイルス内部構造がしっかりと見えます。
しかし、アンチウィルスの作成には、やっぱりドール達の助けがいりそうです。
(問題は、どうやって構造データを送るかです)
そう考えたとたんに、コンソールに『歌う』のコマンドが現れます。
どうやら、これを使って外部にデータを吐き出すことができそうです。
通信先は、ハスターさんと同じ風の属性であるアオちゃんに合わせます。
「アオちゃん、今からウイルスの構造パターンを『歌う』から、そのままBitコードに変換、みんなでアンチウイルスの作成してください」
「了解しました」
了承を確認し『歌う』コマンドを実行します。
強く光り始めた左手の印。
視覚化されたウイルスパターンを、そのまま発音していくという物理的に不可能な作業を『歌う』コマンドは強引に進めていきます。
その代償に、声帯は捻れ、口からは声と同時に血が吹き出します。
肉感的な美女に指を含ませながら、血塗れで歌を歌う。
そんな背徳的な数分間が過ぎ、ウイルスパターンのすべてをアオちゃんに転送し終わります。
体中の筋肉という筋肉がねじ切れそうな痛みに、消えそうになる意識をなんとか持たせて、システムの接続を何とか維持します。
永遠とも思える数分間が経過します。
「のどか様、アンチウイルス完成しました」
自分で『歌って』みて解りました。
このシステムは人間対象ではありません。
果たして『歌』を聞く側に回って無事でいられるかどうか保証はありません。
...それでも、やります。
「ごほっ...それ...頂戴..うたって」
「でも...」
「はやく!!」
アオちゃんが歌うアンチウィルスの『歌』は、私の脳内でアンチウイルスソフトに再構築されたようです。
(後は、このまま流し込めば...)
不意に、口の中が血の味でいっぱいになり、大量の血を吐き出しました。
(しまっった。血が足らなくなってきて、意識を保つのも限界...やだっ、後一息なのに...)
虚ろになる視界に、ハスターさんの顔が映ります。
『わかった。のどか殿を信じる』
私を信じて、全てを託してくれたハスターさんを、絶対に助けます。
(しっかりしろ!由比川のどか!)
自分を叱咤するその勢いで、手に持っていたガラス片を太股に突き立てます。
その激痛で何とか意識を覚醒させハスターさんに向かいます。
不意に、それまで目を閉じて必死に快感と戦っていたハスターさんが『ぱっちり』と目を開けます。
「ハスターさん...待ってて..いま..むぐっ」
急に起きあがってきたハスターさんにいきなり唇を奪われました。
「のどか殿、ありがとう。そして愛している」
それだけ言うとハスターさんは、私の口に付いた血を舐め取り、再び私の唇に吸い付いてきました。
その瞬間、接触した唇からアンチウィルスがハスターさんへアップロードされるのを感じます。
(よかった...)
安心した途端に全身を痛みが襲い、意識を刈りとられました。
...薄れゆく意識の中で誰かの声が聞こえた気がします。
『ほう?そこまでできるのか...ならば、その邪神を自分の思いのままの形にしてしまうことも可能だろうに』
その余りにも傲慢な物言いに、思わず反論してしまいます。
「私は今のままのハスターさんが好きなんです。ハスターさんは邪神さんですが、そんな事は関係ありません。貴方こそ、影でこそこそしていないで姿をあわらしたらどうですか?」
『そうしたい所だが、今回は逃げることにしよう。君にも私を追撃するだけの余力はなさそうだしな』
遠ざかっていく気配を感じながら、私の意識もそのまま深い闇の底に呑まれていきました。
「ぷるぷる...ぷるっ?....ぷるぷるぷる」
なんですか!『ぷるぷる』しか喋れないじゃないですか!
「のどか、落ち着け。とりあえず深呼吸しろ」
「ぷるぷる(これが落ち着いていられるわけ無いじゃないですかっ)」といいながらも深呼吸して気分を落ち着けます。
「落ち着いたか?」
「ちょっとは...あれっ?しゃべられまぷる」
次回、フレシット弾邪神編 第10話 猫に引っかかれました




