第7話.エンカウント
「ミスカトニック大学ですか? すみません、聞いたこと無いですね」
ハスターさんから聞かされた目的地は、聞き覚えの無い大学でした。
「のどか殿は知らないかもしれないが、その筋では名の通ったところだよ」
「その筋?」
「魔術、邪神、魔道書など、人類のる暗い部分を主に研究している大学だ」
ハスターさんの代わりにヴェルナーが答えます。
この女は、なぜだかこういったオカルト方面にやたら詳しいのです。
「そうだ。場所はアメリカ合衆国マサチューセッツ州アーカム。フレシット弾関係で怪しい施設としては、最有力候補だ」
ジャンプ寸前で撃たれたため発射元の正確な場所までは特定できていません。
しかし、まっすぐにしか飛ばないというフィレシット弾の軌跡を追うことは簡単です。
「現地までは『ジャンプ』で行けるんですよね」
『ジャンプ』は、GPSで検索した目的地まで自由に『飛べる』風の能力です。
某サーチエンジンのマップシステムを使っているで、ランチのお店から宿探しも出来ます(少し自慢)。
ハスターさんと契約をしないと使えないのが玉に傷ですが。
「では『ジャンプ』しますので、アカねー様とかなたちゃんは、ハスター様、のどか様で抱っこお願いします」
「そうすると後は..」
私がそう言ってヴェルナーを見ると、不機嫌そうに腕を組みながら答える。
「わかっている。食事の用意はしておくから怪我しないように帰って来てくれ」
それだけ言うと、ヴェルナーはハスターの傍に行って何やら話し込んでいる。
「じゃあ、アカは私、かなたちゃんはハスターさんが運ぶで良いかな?」
「僕もハスターさんがいいな。だって、ふわふわで気持ちよさそうだし...ぃぃぃいったぃ」
「そう言うセクハラ発言をする悪い口はこれですかっ」
「いひゃい、いひゃいからっ。ごめん、ゆるひて」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
人生初の瞬間移動はあっけないものでした。
もっと、周囲の時空が歪んで見えるなど、視覚的効果を期待したのですが残念です。
強風に背中を押されたと思ったら、次の瞬間は目的地でした。
時差を考えると、およそ深夜の3時頃のはずです。
周りに人影もなく、ポツン、ポツンと街路灯に薄暗い灯りか点いているだけです。
「それにしても、なんだか薄気味悪いところですね」
古めいた外観と深夜であるという状況を相まって、オドロオドロシイ感じを醸しています。
近くのドアによって中を確かめようとドアノブをガチャガチャやって見ます。
「誰かいませんか?..イタッ」
錆びたドアノブのキザギサのところで指先を切りました。
切れた指先を舐めながら、さてどうしたものかと考えていると、ドアの向こうから声が聞こえてきました。
「Who is it?」
どうやら、ドアをガチャガチャやったおかげで誰か気付いてくれたみたいです。
「It's Nodoka, an exchange student. 」
思わず嘘をついてしまいましたが、まあ方便ということで...
「のどか様が此処に交換留学生としてお見えになる話は聞いていませんよ。ドアを開けますから少しお待ちください」
正体がばれているらしく、今度は日本語で答えが返ってきました。
カチャカチャと鍵を外す音の後、小さな少女が現れます。
(テスラドール?いえ、違いますね...)
「こんばんは。由比川のどか様。お目にかかれて光栄です」
「夜分遅く申し訳ありません。貴方はテスラクークラ(c)ですね。お会いするのは始めてです」
小さな影は、少し驚いたようです。
「仰るとおり、私はテスラクークラ(c)、固有名は『ジョゼフィン』と申します。以降、お見知りおきください。それにしても、どうして私がテスラドール(c)でなくテスラクークラ(c)たと分かったんですか?」
確かに、意匠権でもめるぐらいに、この2品種はデザイン的に結構似ています。
私は仕事柄わかってしまうけど、はてなぜでしょうね?
「(。-_-。)うーん、ニュアンスかな?」
「...ニュアンスですか」
ジョセフィンちゃんは、なんだかガッカリしています。
「遠くからよくお越しくださいました。今、お茶を入れますので中へどうぞ」
そういって、小さな書斎の様な部屋に通されました。
やがて、コーヒーと御菓子を持って再びジョセフィンちゃんが現れます。
「主から皆さんを、ある場所へ案内するように申し付かっております。明日にでもご案内しますので本日はゆっくりおくつろぎください」
「その様子ですと、私たちが何を追っているかご存じの様ですね」
「はい。存じております」
「一ヶ月ほど前に、ミスカトニック大学のラボからある試作品が盗まれました。犯人の狙いが風の眷族であることが分かっていましたので、失礼とは思いながら、のどか様を見張らせていただきました」
そういうと、私を静かに見つめます。
「何せのどか様と風の主神ハスターとの関係は衆目が知る処になっているので」
えらい誤解で、訂正すべきですが話が進まないのでぐっと我慢します。
「それで私がここにくると読んでいたんですか。その試作品、どの様なものなのですか?」
「主が申すには『風の邪神の有り様を変えることができる』そうです」
有り様ですか...何のことかさっぱりですが、なんか凄そうです。
(のどか殿。この話、信じても良いとおもうか?)
(まあ、信じる信じないは別として、犯人を探す必要があるんですから、道案内はお願いしましょう)
「分かりました、その試作品を回収できるとは断言できませんが協力させていただきます。それと一寸人を待たせているのでお泊りはまた次の機会に。今すぐ移動しますので、このアオちゃんに目的地の場所情報を送ってもらえますか?」
「それは構いませんが、車は此方で用意致しますよ」
怪訝な顔をして、アオちゃんが右手をあげている所に軽く手を重ねるジョセフィンちゃん。
「位置情報了解しました。それでは『ジャンプ』しますので、皆さん準備してください」
アカをハスターさんに渡し、ジョセフィンちゃんの近くに寄ってを抱く私。
なんの事か分からずに、不安そうな顔でそれでも大人しく抱っこさせてくれました。
わーー、髪の毛ふわっふわだー。
こほん!(;-o-)o"
べっ、別にジョセフィンちゃんを抱っこしたかったわけじゃないんだからねっ
「では、『ジャンプ』します」
背後から吹いてくる強い風、そして…
『クロフクヲキタ、オトコタチガイル』
いきなり、エンカウントしてしまいました。
黒服たちは、確かに戦闘に長けた武装集団でした。
しかし、こちらは邪神の主神クラスとつながっているスーパーテスラドール(c)が3人と、その主神の一柱であるハスターさん。
とても人類がかなう相手とは思えません。
「(この辺り、ア○リ△とか中×とかにばれたらダメなのではないでしょうか)」
次回、フレシット弾邪神編 第8話 一緒に居たい!




