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技術系研究員 由比川のどかの冒険  作者: 錬金術師まさ
ドリームマシーン 海賊版
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第1話.由比川のどかのユメ

 『夢』というのは、脳が蓄えた情報を整理する働きによるものとされています。

 これはコンピュータが不要メモリを開放する『ガベージコレクション』と似ています。

 ということは私たち人間だけでなくAIやパソコンも夢を見ているのでしょうか?


 そんな、取り止めのない事を考えながら、広大な砂漠で駱駝の背中に揺られています。

 もちろん運動音痴な私が駱駝の手綱など握れるはずもありません。

 手綱を握っているのは、パープルの髪を持つ旧友、パー子です。


「もう少しで『ソトなる図書館』につける筈だよ。そうしたら情報を集めよう」

「そうですね。しかし、夢での移動ってもっとアッという間というか、こういう途中経過って端折って良いんじゃないかと思うんですけどね」


 そろそろ、駱駝が飽きてきた上、夢だというのにお尻が痛くなってきました。

 すぐ着けるならば一刻も早く町について、地に足を着けたいところです。


「仕方ないよ、ここ幻夢境は、あらゆる夢がつながる場所。夢とは言え自分勝手に切り替えることが出来ない場所なんだよ」


 ふと見ると、地面にキーボードが落ちています。

 世界で一番売れているOSで使われているソフトウェアキーボードのようです。

 誰かのコンピュータでのガーベージコレクションで幻夢境に流れ着いたのでしょう。


 せっかくなのでパー子にお願いして拾ってもらいます。

 物好きだなとか言いながらもパー子は拾ってくれます。

 キーボードを受け取る際に、ふとパー子の右腕が目に留まります。


「まだそんな包帯してるんですか? もう少し可愛いリボンとかに替えましょうよ」

「ダメだよ、これは可愛いかった頃の のどかちゃんから貰った大切なバースデープレゼントなんだから。リボンは...そうだな、髪を結ぶやつなら頂戴」


 あれは子供心に『大怪我には包帯』と思って巻いただけの様な気がします。

 それに誕生日でもなかった気がします。


「ほらっ、次の町が見えてきたよ」


 遠くに町が見え始めましたが到着にはもう少し時間がかかる様です。

 それまでに、私たちが如何してこのような場所にいるかの説明を済ませましょう。



 深夜まで仕事をして、お茶でも飲んでから寝ようと、台所にやってくると、珍しくアカが私に相談を持ちかけてきました。


「のどかちゃん。なんか熱くて硬いものが私の中にあるんだけど...」


 ...幻聴が聞こえた気がしました。


「...はいっ?」

「だから、熱くて....」


 幻聴では無かったです。


「わーーーーっ、なっ、何いってるの!」

「何って、沖縄から帰ってきて、気づいたらこの辺りに何かあるんだよ」


 胸の辺りを押さえながら続ける。

 あぁ、体の不調ですか。


 私、てっきり...こほん。


「うーん。特にそこに加熱するような部品は入っていないんですけどねぇ」

「熱いってのは比喩で、どっちかって言うと燃えあがるって感じなんだけどね」


 なんでしょう?

 ちょっと気になります。

 確かに胸の部分には、感情を司るモジュールが入っています。


「ちょっと調べてみたいんで、デバッカー挿していいですか?」


 何時もポケットに忍ばせているドールチェッカーを取り出し早速アカに挿し込もうとする。


「何でそんなのを持ち歩いているのさ、いいよ...いや、肯定の『いい』じゃないから。止・め・て・く・だ・さ・い!」


 あいまいな返答を肯定と捉えてデバッカーを挿そうとした、私の行動パターンが先読みされてしまいました。

 ちぇっ。


「そういえば、アオちゃんやかなたちゃんも『力場が安定しなくて、なんかすーすーするんです』とか『知らない間にあちこち濡れている』とか言っていました。貴方たちはニコラテスラ並に強力な力場を持っていますからその影響で無いですか?」


 力場というのは、AIのもつ能力でデータへの干渉能力のことです。

 通常ならAIやコンピュータに対する能力なのですが、AIが成長すると物理現象にまで干渉が可能になります。

 まるで魔法の様な能力ですね。


「力場?そういえば、ルルイエの一件からこっち、力場を出していないからね」


 同時に手の中に、炎の力場が出現します。

 しかし、以前のように明るい感じがなく、どちらかというと暗く重い炎がポツリと浮かんでいます。


「あれっ、調子悪いのかな...これでどうだ」


 いきなり拡大した炎の力場がリビングに広がります。


「ちょっと、アカ!火事になったらどうするんですか!直ぐに止めなさい」


 アカは、慌てた顔でこちらを向きます。


「のどかちゃん、どうしよう...とまらないよぉ」

「ちっょと見せなさい」


 問答無用でドールデバッカーを差し込んで原因を探します。

 アカが言っていた胸の当たりの熱くて硬い何かが気になります。

 そのあたりのセンサーやアクチュエータを調べます。


「1.0E+26ジュールって、なんなんですかこれは?」


 そこに示された数値は、太陽のエネルギーにも等しい数値です。

 ダメです、こんなエネルギーをこのまま加えられ続けたら持ちません。

 入力をすぐにカットしないと...

 次第に、髪にドライヤーを当てすぎた時のような臭いがし始めてきました。


「のどかちゃん、もういいよ。このままじゃのどかちゃんも危ないから!」

「集中できないから黙ってなさい!」


 この原因について私には心当たりがあります。


 夢の中でパー子から受けた警告について、大半は忘却してしまいました。

 それでも大事な所だけは覚えていました。

 そして対抗策もあります。


 ドールデバッカに仕込んであった主要回路の緊急停止スクリプトを実行します。

 全機能を強制的に停止されたアカが、膝から崩れ落ちるところを抱きとめます。

 エネルギー流入もカットできたらしく熱は感じません。


 しかし、アカに流入しようとしていたものは、これで終わりにしてくれる気は無いようです。

 リビングの中心に細かい点の様な火点が発生し、そこから発生した火炎が私を包み込もうと押し寄せてきます。

 こんなのに触れたら身体どころか骨まで蒸発させられるでしょう。


 その火炎を私の体からにじみ出した虹色の光が防ぎます。

 その光には見覚えがあります。


『見た目はこんなんだけど、必ずのどかちゃんを守ってくれるものだから』


 パー子にもらった虹色の不定形体です。

 虹色の光は、その言葉通りの効果でエネルギーの奔流を支えきり、その間に私はアカを抱き上げ後ろへ下がります。

 ポータブルサーバーにいる心強い味方を呼び出します。


「では、ニコラテスラ。手はず通りにお願いします」

「判ったが、この貸しは高くつくぞ」


 立体フォログラフィに浮かび上がった初老の老人が落ち着き払った声で答えました。

 立体フォログラフィで登場した初老の紳士は、ニコラテスラは、この世界を支える万能給電タワー「テスラタワー」の管理人で、この世界ナンバーワンのAIです。

 ニコラテスラの唱える呪文が朗々と響き渡ります。

「『エイボンの書』、及び、『銀の鍵』の力を糧として、我、汝を元の世界に帰す」


次回「ドリームマシーン海賊版 第2話 人の造りし神」

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