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技術系研究員 由比川のどかの冒険  作者: 錬金術師まさ
フレシット弾 邪神編
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第1話.由比川のどかのお目覚め

 我が家に居ついた『銀の鍵』さんは、寝ている私のまぶたの上がお気に入りです。

 はじめは、目覚めたら虹色の光が広がっていたのでびっくりしました。

 今となっては、アイマスクとしては愛用させてもらっています。

 この状況にも慣れてしまった私のSAN値って本当に大丈夫なんでしょうか?


 自分の正気度にちょっとした不安を抱えながら、まぶたの上から『銀の鍵』さんを掴んで退けようとします。

 しかし、いつもとは違うずっしりとした重量感が腕に伝わります。


「うわっ」


 目に入ったのは、ベッドから溢れんばかりに膨れ上がった『銀の鍵』さんです。


「あなた、少しダイエットした方が良いのでは?」


 場違いなコメントである事はもちろん判っています。


 よく見ると、虹色の光から手が突き出ているのが見えます。

 ヴェルナーが未だ中にいるのでしょうか?

 グッと、腕を掴んで引き上げます。


「ヴェルナー、貴方よくこんな状況で寝てられますね」


 自分のことはもちろん棚の上です。

 答えが後ろから帰ってきました。


「あ、のどか起きたの?朝ごはんの用意はできてるよ...うわっ、なにこれ」


 ということは、私が掴んでいるこの腕はいったい誰のうでなんでしょう。

 どうやら引っ張って欲しそうな様子なので、力を込めて引っ張ってみます。


 んーーー。

 何かつっかえているものがジリジリと抜け出る感覚があります。


「ヴェルナー貴女も引っ張って」

「んっ、わかった」


 ヴェルナーが私の腰を捕まえて引っ張ります。

『すぽん』と栓が抜けるような音がして、何かが抜け出てきました。


「うわっと」


 勢いで後ろに倒れこみます。


『ふにゅん』×4


 ...×4?


 後頭部を衝撃から守ってくれたのは、ヴェルナーの駄肉というのは感触で判ります。

 では、正面にあるこの凶悪なものはなんでしょう?


 ちょっと触って確かめます。


『ふにゅん、ふにゅん』


 この感じは覚えがあります。

 ...って、駄肉の感触だけで持ち主が判る私って女としてどうなんでしょう。


「の、のどか殿...触るのは構わないが、二人だけの時にしてくれないだろうか?」


 覆いかぶさっていたのは、風の主神、ハスターさんでした。


「あぁ、ごめんなさい。目の前にあったんで、つい...」


 ハスターさんは、恥ずかしそうに離れるとシーツを身体に巻きつけながら、こちらに向き直った。


「ビックリさせてすまなかった。幻夢境から抜け出たのは良いが、夢と現実の間につっかえてしまって困っていたんだ」


 『銀の鍵』さんも下のサイズを取り戻し、私の足元でプルプル震えている。


「のどか。大丈夫なの?この人はいったい誰なの」


 私と一緒に倒れこんでいたヴェルナーが、私の肩越しにハスターさんを見ている。


「驚かせて申し訳ない。貴女が本妻の方か? 私はハスターというものだ」


 本妻と呼ばれたのが余程気に入ったのか、ヴェルナーの態度は明らかに軟化しました。


「私はヴェルナー・フォン・ブラウンというものです。のどかとはステディな関係ですが、未だ本妻というわけではありません。いずれそうなるつもりだが...」


 ヴェルナーは、ちらっと、こちらを見ます。

 どうでもいいですが、本妻とか妾とか当人の意向を無視して勝手に決めないで欲しいものです。

 あえて、その辺りをスルーして話を進めます。


「ハスターさん。で、用事というのは一体なんです?」


「もちろん、のどか殿の顔を見るため...と言いたいが違うのだ。これを見て欲しい」


 急に胸の谷間に手を入れ、ゴソゴソと中を探り始めたハスターさん。


「駄肉ってあんな使い方できるんだ」

「普通はできないよ」


 ヴェルナーに冷静に突っ込まれた。

 しばらく、ゴソゴソしていたハスターさんが引っ張り出しのは、ペンシルロケットを更に細くした様な形のものです。


 それを見たヴェルナーの顔つきが変わった。


「それはフレシット弾ですね」

「フレシット弾?なんですかそれ?」

「私達が作った大気圏突破用ロケット。あれと同じように推進機構を組み込んだ矢のことだよ」

「そんなことよく知っていましたね」


 いつの間に、ミリヲタに転身したんでしょう?


「言っておくがミリヲタじゃないからな。ロケット開発の時に出した特許に抵触した案件で上がってきたんだ」

「ご存知ならば話は早い。この様なものが私の眷属に使用されている。その犯人を探して、我らへの挑発行為をやめさせる。それが、私の目的だ」


 それならば、主神自ら来なくてもいいのに...と思って気がついた。


「まさか、囮になるつもりですか?」


 ハスターさんは悪戯を見つかった子供のように、バツの悪そうな顔でこちらをチラチラ見ながら答える。


「うん。まぁ、私なら、これぐらいのものは小石をぶつけられた程度だ。それに私の眷属の中にも血の気の多いものもいる。そういった者たちを抑えるには、私自らが動くことが必要なんだよ」


 ハスターさん、やっぱり邪神とは思えないほどいい人ですよね。


「ハスターさん。それでは私たちも協力しますよ」

「ありがとう、のどか殿。では、折り入って相談なんだが...」


 上目遣いで私をみる。

 綺麗な裸身にシーツを巻いてのそのまなざしは、同性の私でもかなりドッっとさせられる。

 冷静を装って頷きます。


「聞きましょう」

「この家に置いて欲しい。もちろん、ハスターの名にかけてただ飯を食うつもりは無い。もともと家事と料理は得意だしアルバイトで稼いでもいい」


 アルバイト...邪神がアルバイト...


「ぷっ、くっ...くくく...ぷはぁ、ははは...」

「わっ、笑わないで欲しい。わた、私は真剣に...」

「ごっ、ごめんなさい。ハスターさんが、あんまり可愛かったんで...つい」

「かわいい? 私が、かわいいか...」


 ハスターさんは、耳まで真っ赤になって俯いてしまいました。

 何だか私、いけない趣味に目覚めそうです。


「別にそんなに堅苦しく考えなくてもいいですよ?ようこそ、我が家へ。歓迎します、ハスターさん」


 握手を交わした私は、この後の起こっていく事件について知る由もなかったのです。

「先生?」

「ん?あぁ、すまない。いけないな、ちょっとぼおっとしていた。少し休憩しようか」

「でしたら、私がお茶を入れます」

 アオ君がお茶の準備を始める。我が眷属と同じ、風の邪神の能力を使える彼女は、目下私の庇護を100%受けており、たぶんイタクァと正面から戦っても、負けないだろう。


フレシット弾 邪神編 第2話 邪神さまは、かく語りき

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