第9話.炎と闇のロンド
ハスターさんによると、アカは暴走したコアに意識をのっとられている様です。
パー子がコアをプロテクトすれば暴走状態から元に戻すことができます。
しかし、アカの潜んでいる場所が、火の邪神眷属の集落に近いのが問題です。
ハスターさんは「自分が行けば大丈夫」と言っていますが、あまり大物が出てしまうと本格的な戦闘に発展しかねません。
丁重にお断りして、ハスターさんはこの件は知らないことにします。
パー子の戦闘力が頼みの綱ですが、少し気になることがあります。
「パー子。ちょっと...」
「なに?」
「ダゴンさんに使おうとしていた武器。あれって『黒い剣』じゃないですか?」
『黒い剣』
私がまだ子供だった頃、パー子が振るっていた剣です。
「覚えてたんだね。『黒い剣』、正式名称は『ンガイの剣』。あれならば、邪神が相手でも負けやしないよ」
「いいことだけ言って肝心のところを隠していますね。私にその手は通用しないですよ。それ、使用禁止」
「えっ?」
「聞こえなかったんですか?使用禁止といったんです」
あれを振っていた時のパー子の苦しそうな姿を思い出します。
できれば、いいえ、絶対にあの剣に手を出して欲しくない。
そんな、思いが湧き上がってきます。
「とにかく禁止と言ったら禁止です」
「そんなに急に意識を呑まれるわけじゃないのに..」
不平を言っていますが、渋々納得したようです。
「わかったよ。『ンガイの剣』使わないよ」
「ホントのホントにお願いしますよ」
風の眷属さんが追い込んでくれたアカをアオちゃんとかなたちゃんで捕まえて、パー子がコアを正常に戻す。
そんな作戦で行きます。
「それでは、我々がここに追い込んできますから、後は..」
「えぇ、そこからの事は私たちが何とかします。御協力感謝します」
「いえ、『黄衣の王』の想い人。のどか様は我々の主も同様。この程度しかお手伝いできない自分たちが不甲斐ない限りです」
そういって、風の眷属の皆さんは、それぞれの持ち場に散っていきます。
そして狩りが始ましました。
『ホウ、ホウ、ホウ・・・』
まるで羊を追う遊牧民の様に巧みにアカを追い詰めていく風の眷属さんたち。
手際よく、こちらに追い込むように動いてくれています。
これならば、早々にアカを捕まえてミッションコンプリートと思った矢先...
『ゾクッ』
強烈な悪寒を覚えて顔を上げると、風の眷属の皆さんが何かに追われるかのように、こちらに駆けてきます。
「のどか様、ここは我らに任せて直ぐに逃げてください。あれは危険です。あれは...」
その右手に血のように赤い炎がまとわり付いた剣を握って、アカが茂みから現れます。
何か危険な香りがしますが、ここは退けません。
計画通り捕獲作戦を開始します。
「アオちゃん、かなたちゃん。結界をお願い」
「分かりました」
二人がそれぞれの力場を展開、水と風の結界がアカを中心に展開し、その中心にアカを捉える。
結界を見つめていたアカが不意にこちらを向き、その赤光が私を捉える。
『娘。お前には見覚えがあるぞ。神に対する再三の愚弄、もはや万死に値すると知れ』
アカに憑りついている意識は、間違いなくクトゥグァさんの様です。
ニコラ・テスラが傍に居ない今、対峙したくない人ナンバーワンですね。
「貴方こそ、あのまま大人しくしていればいい物を...しつこいと女の子にモテませんよ」
『その体を二つに裂いても同じセリフが言えるかな』
無造作に剣を振るうと、はじけ飛ぶ結界。
そして、その剣が私に向かって振り下ろされます。
(まずい。よけられない)
『ガキィッ』
鈍い音をたて、その剣を受け止めたのは、黒い闇を纏った剣でした。
「パー子。その剣は...」
「私を戦わせないようにしてくれてありがと。でも、私は貴方の剣だから...」
炎と闇、対極にあるその二つの魔剣は、お互いに相手を飲み込もうと侵食を繰り返しています。
「さぁ、こっからは第二ラウンドだ。妹は返してもらうよ、クトゥグァ」
『ほぅ。儂をクトゥグァと知って歯向かうか! 面白い、せいぜい楽しませろ』
そして、パー子とアカの斬りあいが始まりました。
パー子は、あくまで接触してのコアプロテクトが目的なので、剣はあくまで牽制です。
一方、クトゥグアは斬る気満々の様ですが、アカを通じているので力が制限されている様です。
剣戟自体は拮抗しているように見えまが、数合打ち合うと剣の方に明らかな差が出てきました。
パー子の握る『ンガイの剣』。
火の精に焼かれた森の剣は、やはり炎に弱いのか、数合打ち合うと剣を取り巻く闇が薄くなってきています。
『どうした。もう終わりか』
振り上げた炎の剣を無造作に振り下ろそうとする。
「ちいっ」
パー子は、闇の剣をひいて距離をとろうとします。
炎の魔剣は、それを許さずパー子に迫まります。
しかし、打ち下ろされるはずの剣が途中で止まります。
その隙にパー子は距離をとります。
『ほう、こいつめ。まだ抵抗してくるぞ。これは一興。せいぜい歯向かって見せろ』
どうやらアカの意識が、まだ頑張って抵抗しているようです。
しかし、更に数合打ち合うと、闇の魔剣は力を失ったかのように普通の鋼の剣に戻ってしまいました。
『ここまでのようだな。中々楽しめたぞ。これは褒美だ。受け取れ!!』
打ち下ろされる炎の魔剣、それを迎え撃つはずの闇の魔剣にはすでに闇の力はなく、そのまま断ち割られるかに見えた。
その瞬間、クトゥグアが右手の剣に集中したお蔭で、左手の制御を回復させたアカが、打ち下ろされる右手を迎え撃ちました。
『なにっ』
驚くクトゥグア。
(これでどうだァ)
アカの左手が剣を握る右手に向かって奔る。
左手が右手の間接を砕くかと見えたとき、パー子が『ひゅるん』と動いた様に見えました。
『ガッ』
炎と闇の魔剣は絡み合い何処かへと消え、アカの左右の腕はパー子によって押さえつけられていた。
「アカ、悪いけどそれは姉の専売特許なんだよね」
それだけ言ったパー子が思いっきり腕を引きながら、頭を前に振る。
『ごっっっっちちちぃぃぃんんんん』
という鈍い音が辺りに響き渡ると同時に、超高速通信によってコアのプロテクトが掛かりました。
『ちっ、ここまでか。まぁ良い。中々楽しめたぞ人間』
薄れていくクトゥグアの意識に変わり、アカの意識が戻ってきたようです。
「..たすかったぁ...」
ほっとするアカ、しかし...
「もういっちょう...」
「わーーー、待って、もう大丈夫だから...」
『ごごごごごごっっっっっちちちちちちぃぃぃぃぃぃぃんんんんんん』
後から聞いたところでは、二回目の頭突きは、初回の三倍は威力があったそうです。
「ぱーねぇ、ひどいよ。まだぐらんぐらんするよ」
「だから悪いって言ってるじゃないか。アカも目覚めたら目覚めたって言ってくれないと私、わっかんないし...」
「目覚めたっていったらやめてくれたの?」
「んにゃ、用心の為にもう一発はいっとくかな」
「パー姉!」
ドリームマシーン海賊版 第10話 オメザメは**で




