あずきんちゃん(15歳・山賊)と、なんだかんだ面倒見の良いオオカミさん〜命を狙われているはずなのに、なぜか説教と差し入れが止まりません!〜
第一章:深緑の森の惨劇
「おい、頭目! 獲物だ! 街道の向こうから、でっけぇオオカミが歩いてくるぞ!」
「よっしゃあ! 今日の夕飯はオオカミの丸焼きだぁぁッ!」
深緑の森を拠点にする最凶の山賊団「赤ずきん」。その頭目であるあずき(15歳)は、身の丈ほどもある巨大な両手斧をブンブンと振り回しながら、鼻息荒く叫んだ。
あずきが羽織っているのは、自作の真っ赤なフード付きケープ。本人は「恐怖の象徴」として着ているつもりだが、首元で大きなリボン結びをしているため、どう見ても「ちょっとイカつい赤ずきんちゃん」にしか見えない。
「へへっ、逃がさねえぞ……! この森の通行料は高いんだからね!」
あずきは樹上から豪快に飛び降り、街道の真ん中に着地した。バァン! とド派手に土煙が上がる。
「止まれッ! 我ら山賊『赤ずきん』! 命が惜しくば持っている身ぐるみ全部剥いで……って、あれ?」
土煙が晴れた先いたのは、体長二メートルを超える巨大な灰色のオオカミ——グレイであった。
鋭い爪、引き締まった筋肉、そして背中には……可愛らしい花柄の風呂敷包みを背負っていた。
グレイは前脚を止め、心底面倒くさそうな顔であずきを見下ろした。
「……あ? なんだ小娘。邪魔だ、そこ退け」
「こ、小娘ぇ!? なによその口の利き方は! あたしは山賊の頭目・あずき様よ! その背中の風呂敷包みを置いていきなさい! 中身は肉!? それともお宝!?」
あずきが威勢よく斧を突きつけると、グレイは深々と溜息をついた。その吐息で、あずきの赤いフードがフワリとめくれる。
「はぁー……お宝なわけねえだろ。中身はこれだ」
グレイが器用に鼻先で風呂敷を突くと、中から出てきたのは……焼きたてのアップルパイと、手編みの毛布、そしてカスタードプリンの入った瓶だった。
「……プリン?」
「そうだ。森の奥に住んでるマルタのおばあちゃんが風邪引いたって言うから、見舞いに持っていくところなんだよ。冷めるからどいてくれ」
「お、お見舞いぃぃ!?? オオカミがおばあちゃんにお見舞い行くの!?? 逆でしょ! 童話ならアンタがおばあちゃんを食べに行く側でしょ!?」
「知るかよ、俺はベジタリアン寄り(※たまに魚も食べる)のオオカミだ。だいたいな、お前……」
グレイはじーっとあずきの足元を見た。
「その斧の持ち方、なんだ? 腰が入ってねえから、そんな重いもん振ったら一発でギックリ腰になるぞ。あと、そのフードのリボン。結び目が解けかけて結び目が泥についてるだろ。だらしないな」
「〜〜〜っっ!? 説教すんな!! あたしは山賊だぞ! 凶悪な山賊なんだぞ!!」
あずきは顔を真っ赤にして叫び、勢いよく斧を振り下ろした。
「死ねぇぇぇッ!」
ガキィィン!!
「甘い」
グレイは背中の風呂敷を傷つけないよう、鋭い爪一本で斧の刃を受け止めた。
「なっ……爪一本で!?」
「刃の手入れもなってないな。油塗ってねえだろ。サビが出てきてるぞ。道具を大切にしない奴は、山賊以前に一人前とは言えん」
「うるさいウルサイうーるーさーい! 喰らえっ!」
あずきは必死に斧をぶん回すが、グレイはひょいひょいと軽快にかわしていく。まるで遊ばれている子供だ。
「ハァ、ハァ……くそっ、なんで当たらないのよ……!」
「体力もねえな。朝飯喰ったか?」
「喰ってないわよ! 山賊なんだから獲物が獲れるまで絶食に決まってるでしょ!」
「バカかお前は」
グレイは呆れたように首を振ると、風呂敷包みからコソコソと何かを取り出した。
「ほらよ」
ポイッと投げられたのは、ラップに包まれた自家製の干し肉だった。
「……え? これ、なに?」
「いいから喰え。空腹じゃ力も入らんだろ。俺は急ぐから行くぞ」
「あ、待ちなさいよ! 誰が敵の差し入れなんか……モグ……んっ!? う、うまぁぁぁい! 塩加減が絶妙! スモークの香りが最高!!」
あずきが干し肉の旨さに感動している間に、グレイはさっさと森の奥へと走り去ってしまった。
「あ……逃げられた! っていうか、なんであたし餌付けされてんのよー!?」
こうして、山賊の赤ずきんと、おかん系オオカミの不毛な戦いが幕を開けたのである。
第二章:おばあちゃんの家にて
「くやしい……くやしいぃぃ……!」
あずきは子分のジャック(30歳・ひげ面)たちを引き連れ、グレイの足跡を追っておばあちゃんの家にやってきた。
崖の上に建つ、小さくて可愛らしい木こりの家。
あずきはドアを蹴り飛ばそうとしたが、先ほどの「道具を大切に」というグレイの説教が頭をよぎり、思わず普通にノックしてしまった。
トントン。
「はいはーい、どなたかしら?」
ガチャリとドアが開くと、そこにはベッドで横になっている……はずのマルタおばあちゃんが、エプロン姿で元気に立っていた。
「あ、あら? 可愛らしい赤ずきんちゃん。何の用かしら?」
「えっ……風邪で寝込んでいるんじゃ……?」
「ああ、グレイちゃんが持ってきてくれたプリンとアップルパイを食べたら、すっかり元気になっちゃってねぇ! 今、グレイちゃんがお茶を点ててくれているのよ。入っていきなさいな」
「え、あ、はい……」
あずきは毒気を抜かれ、素直に靴を揃えて家に入ってしまった。後ろのジャックたちも「お邪魔しまーす」と律儀に入ってくる。
リビングのキッチンでは、二メートル超の巨大オオカミ・グレイが、小さなエプロンを首から下げて、手際よくハーブティーを淹れていた。
「あ」
「あ」
あずきとグレイの目が合った。
「……お前、なんで家に入ってきてくつろいでんだ?」
「おばあちゃんが入れって言ったのよ! っていうか何よそのエプロン! 似合わなさすぎて怖いんだけど!」
「うるさい、毛が落ちたら不衛生だろ。おい、そこの髭面の部下。お前も靴並べ直せ。乱れてるぞ」
「あ、すんません……」
ジャックは慌てて玄関に戻り、靴を揃え直した。
「ジャック! なんでオオカミの言うこと聞いてんのよ! あたしたちは山賊よ!? 今すぐこの家を占拠して、お宝を……」
「はいはい、あずきちゃん。騒ぐとお茶が冷めちゃうわよ。はい、どうぞ」
マルタおばあちゃんから、焼きたてのアップルパイとハーブティーが差し出された。
「……っ! だからあたしは騙されないわよ! こんな美味しい匂いのするアップルパイに……サクサクの生地に……甘酸っぱいリンゴの組み合わせに……モグッ」
「喰うんかい」とグレイが突っ込む。
「んまぁぁぁい!! なにこれ!? パイ生地が何層にも重なってて、シナモンの香りが絶品!!」
「だろ? 俺がリンゴのコンポートから作ったんだ」とグレイが誇らしげに胸を張る。
「アンタが作ったの!?? 料理スキル高すぎでしょ!!」
あずきは大号泣しながらアップルパイを貪り食った。山賊生活でまともな温かい料理など食べたことがなかったのだ。
「お前なぁ……そんな勢いで喰うと喉詰まらせるぞ。ほら、お茶飲め」
「んぐっ、んぐっ……プハッ! ハーブティーも美味しすぎる……!」
「グレイちゃんは手先が器用だからねぇ。私の肩も揉んでくれるのよ」
「爪が刺さらないように加減するのが大変なんだよ」
和気藹々とするリビング。
山賊団「赤ずきん」の面々は、完全に毒気を抜かれ、おばあちゃんの家で平和なティータイムを満喫していた。
「……って、ちがーーーう!!」
あずきはバンッとテーブルを叩いた(ハーブティーがこぼれないよう、手で押さえながら)。
「あたしたちは! オオカミを狩りに来たの! 山賊の面目丸潰れじゃない!」
「面目も何も、最初から負けてただろ」
「キーッ! 勝負よ! 今度こそアンタを倒して、その毛皮で最高に暖かいコートを作ってやるわ!」
「断る。毛皮脱いだら寒いだろ」
「そういう問題じゃない!!」
第三章:山賊団の危機と、オオカミの出張指導
それからというもの、あずきは毎日毎日、グレイに勝負を挑み続けた。
しかし——
「あずき、斧の構え! 脇が開いてる!」
「は、はいっ!」
「ジャック! 薪割りのスピードが遅い! それじゃ冬を越せないぞ!」
「すみません先生!」
「他の子分ども! 掃除が行き届いてない! 埃で喘息になったらどうするんだ!」
「「「申し訳ありませんっ!!」」」
なぜか、山賊団「赤ずきん」のアジトは、グレイの定期訪問によって「超絶ホワイトで清潔な山賊経営」へと改善されていった。
グレイによる厳しい指導のおかげで、子分たちの生活リズムは整い、山賊アジトには自家菜園が作られ、毎日美味しい味噌汁と米が食卓に並ぶようになった。
「……ねえ、ジャック」
アジトのエンガワで、お茶をすすりながらあずきが呟いた。
「なに、頭目?」
「あたしたち……山賊だよね?」
「さあ……最近は近所の村人から『いつも道路の掃除ありがとねー』って野菜もらうようになりましたけど」
「襲ってないじゃない!! 貰っちゃってるじゃない!!」
あずきは頭を抱えた。
これでは山賊ではなく、ただの「ちょっと治安維持に貢献しているボランティア集団」である。
その時、アジトの入口からグレイが大きな竹籠を背負って現れた。
「おい、あずき。今日の夕飯は筍ご飯にするぞ。山で採ってきた」
「だからなんでアンタが一番馴染んでんのよ!!」
あずきはツッコミを入れつつも、筍ご飯の誘惑には勝てず、ウキウキで下ごしらえを手伝うのだった。
第四章:本当の「悪者」がやってきた!
そんな平和(?)な山賊アジトに、ついに危機が訪れた。
隣の森から、本物の極悪山賊団「黒ヒゲ一家」が乗り込んできたのだ。奴らは百人以上の人数を誇り、村々を焼き払う凶悪な連中だった。
「ヒャッハー! ここが噂の『赤ずきん』のアジトかぁ! ちっちゃい小娘が頭目だってなぁ!?」
アジトの敷地に、黒ヒゲ率いる大軍勢が押し寄せる。
「な、何よアンタたち! 入るときは靴の泥を落としなさいよ!」にあずきが叫ぶ。
「知るかバカめ! このアジトとお宝、それから食糧はすべていただく! 野郎ども、やっちまえ!」
「ひっ……!」
さすがに百人の大軍勢相手では、数人の「赤ずきん」山賊団では勝ち目がない。あずきは斧を構えるが、恐怖で足が震えていた。
その時——。
ズドォォォォン!!
空から巨大な灰色の影が舞い降りた。
グレイだ。手に「筍を掘るためのクワ」を持った状態で。
「おい、黒ヒゲとか言ったな」
グレイの目が、本物の魔狼のように怪しく光った。
「お前ら……今、足元を見たか?」
「は? 足元だぁ?」
「俺が丹精込めて耕した『自家菜園のトマト畑』を踏み潰したな……?」
「は、はぁ!? トマトぉ!?」
「あずきが毎日毎朝、水やりをして……ようやく小さな赤い実をつけたばかりのトマトだったんだぞぉぉぉッ!!」
グレイの怒りの咆哮が森を揺らした。
「ルゥゥゥゥオオオオオオオオン!!!」
「ひ、ひぃぃぃっ!?」
次の瞬間、暴風が吹き荒れた。
グレイはクワを振り回し、恐ろしいスピードで黒ヒゲ一家を薙ぎ倒していく!
「トマトの恨みぃぃッ!」(ドカッ!)
「靴の泥を落とせと言ったろぉぉッ!」(バカッ!)
「あずきの作った味噌汁の鍋を倒すなアァァッ!」(ドッカン!!)
わずか三分。
百人の極悪山賊団は、一匹のブチ切れオオカミによって全滅させられ、星となって空の彼方へ消えていった。
「ハァ……ハァ……」
息を荒くするグレイ。その足元には、無事に生き残った一株のトマトの苗があった。
「……良かった、これは無事だったか」
グレイはほっと胸を撫でおろし、あずきの方を振り返った。
「おい、あずき。大丈夫だったか?」
あずきは目を丸くして、グレイを見つめていた。
そして——急にポロポロと大きな涙をこぼし始めた。
「あ、あずき!? どうした、どこか怪我でも……」
「グレイのバカぁぁぁぁん!!」
あずきはグレイのモフモフの腹に飛び込み、泣きじゃくった。
「怖かったんだからぁ! トマト踏まれたのも悔しかったんだからぁ! ありがとぉぉぉぉん!!」
グレイは苦笑し、大きな前脚であずきの頭を優しく撫でた。
「よしよし、よく頑張ったな。フードのリボン、また解けかけてるぞ」
「うぐっ……あとで結び直して……」
こうして、深緑の森の平和は(トマトと共に)守られたのだった。
エピローグ:今日も今日とて
数か月後。
「おい、頭目! 獲物だ! 街道から……って、いつものグレイ先生だ!」
「よっしゃあ! 今日の夕飯は何だぁぁッ!?」
あずきは相変わらず赤いフードを被り、元気に樹上から飛び降りた。
「やあ、あずき。今日はマルタのおばあちゃん家で『たこ焼きパーティー』をするぞ。タコとホットプレート(※魔法道具)を持ってきた」
「たこ焼きぃぃ!? 絶対美味しいヤツじゃない!!」
「だが、その前に特訓だ。斧の振り方、一〇〇回!」
「えぇぇ〜〜〜!? たこ焼きおあずけ!?」
「当たり前だ、文句を言うな!」
狩る者と、狩られる者。
……のはずだった二人の関係は、今日も今日とて、美味しそうな匂いと賑やかな笑い声に包まれていたのだった。




