第64話 不注意の結果
翠とDM基地内を走っていると、その場に居るバツサイの連中は、あくまでも闇市として振る舞う。
リンが、上手くやってくれてんだな。
「なあ、翠とギルティーノはツクヨミで知り合ったのか?」
「そうじゃな……懐かしいのぉ。私にとって、ギルは初恋の相手じゃ。」
「えぇ?!どこが、どうで、アレを好きに……?ってか……」
語ってくれているところわりぃけど、年下好きにも程があるだろ。
情報量の多さに俺の頭は久々にパンク寸前だ。
「四十年って……ギルティーノはそん時生まれてんのか?」
翠は俺の言葉にポカンと口を開けたまま、一瞬間が空いた。
「……ん?何を言うておるんじゃ。私とギルティーノの年は同じじゃよ。」
まーじで。
どっから見ても、爺さんと孫だぜ。
「あ。そういや、どうやってココの入口知ったんだ?」
少し考えて、翠は思い出すように答えた。
「確か……黒髪の青年が教えてくれたのぉ。」
黒髪の青年……か。
「レオか?」
「ん〜知らぬ名じゃのぉ。」
レオじゃねえのか……誰だ?
あっ!確か……
俺はレオとゴールドの会話を思い出していた。
___『コード島か。グロース島が父だから……それは恐らく一年前亡くなった祖父だな。』___
グロース島は、父!つまり、レオの父ちゃんか!
ん?待てよ?
「そいつから変な札とか貰わなかったか?」
「この歳になると、もう思い出せるもんも思い出せなんだ。」
まあ、呪いがかかってる感じもしねえし、いいんだけどよ。
「さて、この調子で歩いていてはクラシオス島には十日はかかるじゃろうな。ちと、走るかい?」
「ああ。走ろうか。」
俺と翠は地面を蹴り、走り出した。
私は後方を確認するがサンの姿はない。
サンのやつめ、たかがこれしきのスピードについて来れぬか。
しかし、どこ行ったんじゃ?気配が、全くな……
「なあ、疲れたのか?スピード落ちてっけど!休憩すっか?」
サンは顔色一つ変えず、私と併走している。
ほ〜。足音一つしないとはのぉ。
末恐ろしい小僧じゃ。
そういう意味ではシリウス以上の素質じゃな。
「いや、お主は気配がないもんでな。ついて来れておらなんだと思うてな。どこで身につけたその技術。」
「いつからだろうな。特に意識もしてねえんだけどな。もう体に染み付いてんだろうな。」
俺の答えに、翠は鼻で笑うと、走るスピードを上げた。
ここまで来ると、見覚えあんな。
周りを見渡すと、クラシオス島から入ったゴールドが店を構えていたDM基地まで来ていた。
事情知ってると、ゴールドが店構えてたの、滑稽に感じるな。
すると、項垂れている男が目に入り、足を止める。
「リン!良かった!俺たちについてこいよ!」
項垂れているリンは俺の声に勢い良く顔を上げ、明らかに顔色が良くなっていく。
俺はそのままリンの首に腕を回し走り出す。
「はい!お待ちしておりました……ッ!?お前たち、〜報告に行ってくるから頼みましたよ〜!うわあ、早い早い。」
リンがバツサイの連中に指示を残し、必死に俺にしがみつく。
「もう!本当にここ数日は生きた心地がしなかったんですからね!!」
「ハハ!わりぃわりぃ!」
壁を抜けると、見慣れた風景が広がる。
「よし、到着!ありがとうな、翠ッ!」
「私の無理なお願いを聞いてくれるんじゃ。このくらいお易い御用じゃ。クラシオス島久々じゃからのぉ。ちょっと市場でも見てくるかのぉ。」
翠は久々のクラシオス島に心踊らせているようだ。
「ああ!俺もすぐ行くよ」
俺は翠を見送り、振り返ると、リンの鼻息で吹き飛びそうな程、前のめりで待機していた。
「お、おい、リン?大丈夫か?」
「え?なんのことでしょうか?フスーー。それよりも、フスーー。出来たから会いにきたのですよね?!ほら、対策ですよ!」
リンの瞳孔は開いていて、どこを見てるか分からないが、一点に集中している。
「お、おう。とりあえず、落ち着け」
俺が深呼吸を促すと、リンは大きく息を吐き、呼吸を整える。
「あの後、やはりG基地に呼び出しがかかり、明日でここを発ち、ディコベリー島へ向かう予定でしたよ!はあ、もうてっきり死ぬもんだと覚悟していたところです。」
リンには、大変な役割を押し付けてしまったみたいだな。
リンは、俺の姿を何度も確認し、心底安堵している様子だ。
「リン、お前のいつも身につけているものを俺に貸してくれ。」
俺の言葉に、首に掛けていたネックレスを渡す。
流す、流す、流す。
ネックレスを俺の才で満たすんだ。
「供給」
修行した成果なのか、何度も失敗を繰り返していたのが嘘かのようにアッサリと才を付与し終えた。
終わった……つもりだけど、このまま渡すんじゃ、不安っちゃ不安だな。
「よし、ちょっと待ってろよ。」
「ええ……」
「お待たせ!」
「え?ええ……待ってはおりませんが、その方は?」
俺は、串に刺さった食べ物を堪能していた翠をそのまま引っ張ってきた。
「この人は翠ってんだけど、こいつをお前の才に掛けてみてくれよ!お前それ何食ってんだ。」
翠は呑気に、食べ終えた串で食べカスを取る。
「なんじゃ、サン!今から今日のスペシャル串を頼む予定じゃったのに!」
「すぐ終わるからよ!一旦ここに立って、避けたり、反撃したり何もすんなよ。」
俺がリンの目の前まで翠を連れて行くと、リンは翠の存在感に圧倒されていた。
「なんじゃ、バツサイの小僧。」
「ひぃ。」
翠に話しかけられたリンはこれでもかというほど明らさまに萎縮している。
「よし!リン!いけ!殺す気でやってやれ!!」
俺の合図にリンは、ゆっくりと手を翠のお腹に当てると、気合いの入った声が響き渡る。
「シノンエイエッー!……発動ッ!!」
出た!ハツドウドウ!!
さあ!翠!どうだ!?……あれ?
「なんじゃ??」
どういうことだ?
リンに視線を戻すと、ため息をつく。
「そりゃそうですよ……ゴールドに掛けた時と同じです、私の生命力がこの方に遠く及ばないのですよ。」
リンは目の前の翠という強敵に肩を落とす。
「翠、どうもねえか?」
「ん〜……どうもないのぉ。」
「くそ〜!じゃあ、リン!もっかい俺に掛けてみろ!」
俺の得意気な様子にリンは気後れしてるようだった。
「はぁ…… シノンエイエッー!……発動ッ!!」
来い!ハツドウドウッ!
「うん、掛からねえな」
「分かってたでしょうが!!……フン。どうせ私は弱者の中でしか威張れない小物ですよ〜」
リンが不貞腐れていると、ふとDM基地の出入口の壁に視線がいく。
「あ、そうだ。リンが信頼できると思えるやつは居ねえのか?」
「……居ないですね。」
居ねえのかよ。
冷てえ組織だな。
さて、どうすっかなあ〜。
頭の上で腕を組み、翠にふと視線を向けると、ほんの僅かだが、リンの才を感じる。
「お、効いてんじゃん!!やったぞ、リン!!」
「え?本当ですか?!」
騒ぐ俺たちに翠は刀を抜きだした。
「「へ?」」
俺たちは抱き合い、翠の予想できない動きに困惑していた。
「サンよ……お前は、ツクヨミを裏切る者じゃったとは……人間とは難しい……さあ、剣を取れ。」
「待ってくれ!!話そう!話そう!!ちーがうんだよ!俺の才の効力を試したかったんだよ!」
翠は剣を構え、踏み込んだ。
来るッ!!
「水龍」
《一難去ってまた一難。サンが歩く道に穏やかな日を過ごせる時間が果たしてあるのだろうか……?パート二。》




