第60話 溢れ出る憎悪
剣を構えていると、俺は大事なことを忘れていたのに気づいた。
「あ。待ってくれ。俺は、一週間で才の使い方を習得して会いに行かなきゃならねえ奴がいる。」
俺の言葉に翠は剣を鞘へ収めた。
「何じゃ、締まらんのぅ。才の使い方に関しては、私は、からっきしじゃ。なんせ才持ちじゃないからのぉ。」
翠は才持ちじゃねえのか。
って!そしたら俺、何しにグロース島来たんだ?!
剣は確かに、大事。
だけど……今はリンとの約束がある。
リンの命がかかってる。
「じゃ、わりぃけど、俺は、一週間後ここに戻ってくるから!そん時稽古つけてくれ。じゃあな。」
俺は、翠に手を振り、立ち去った。
ここなら才の付与の仕方の特訓出来ると思ったんだけどなあ。
ゴールドもギルティーノも適当言いやがって。
しばらく歩いていると、大きな物音が聞こえてきた。
ガチャンッ、ジュー。ガチャンッ、ジュー。ガチャンッ、ジュー。
一定の速さで聞こえてくる物音の正体が気になり、音を頼りに歩き進める。
少し歩くと、いくつもの大きな建物に一番から八番の番号がふってあり、煙突から煙を出してる建物もある。
お?なんだここ。
ガチャン、ジュー。ガチャンッ、ジュー。ガチャンッ、ジュー。
どうやら、音の出処は、この一番の建物からのようだ。
窓にしがみつき、覗いてみると、大きな機械とそれを操縦する大人たちが何やら作業していた。
「今日、出荷分の5000本は荷車へ積み終えました。」
「Aラインで異常あり。直ちに点検を。」
「C班、D班。ミーティングが始まります。会議室へお急ぎ下さい。」
なんだ?ここ。
「B班、E班、只今より45分休憩入ります。」
無理矢理働かされてる。……訳ではなさそうだ。
すると、一番の建物から、何人もの大人たちがぞろぞろと出てきた。
「はあ〜今日のノルマ達成だな!」
「最近、果物の供給安定してんなー!」
「新しく就任した、工場長のおかげだろ。」
俺は建物から飛び降り、話し掛けた。
「なあ。ここは何をしてるところだ?」
俺の声と姿に幽霊を見たかのように、皆、驚いた様子でこの場を去って行った。
「あれ、笑顔足りてなかったかな?……なあ。怖がらせるつもりなかったんだけど……」
立ち去る大人の中で一人だけ、この場を立ち去らずに居る。
「ううん!だって、ボクは、まだ子供じゃないか!こんな所に居たら危ないよ!ここは工場地帯だからね。」
赤ん坊に話しかけるように、男は俺を子供扱いしてくる。
「工場地帯……?」
「あれ、ボクは、外から来たのかな?ここはグロース島の工場が沢山あるところで食品から日用品まで色々な物を作っているんだ!」
男は顔を覗かせて微笑んでくる。
「……気になるな。」
俺は地面を蹴り、その場を離れる。
「あれ?ボク〜?え、消えた?!」
「おい、お前達。ずっと見てっけど、あの男に用があんのか?」
茂みに隠れていた男女四人組に話し掛けると、何やら掌に隠し持っているようだ。
「うわあ!いつの間に。……お前も才持ちか。自覚はしてんのか?……これもお前の為だ。才を奪る。」
何を勝手に話進めてんだ?
一人の男を合図に、四人が一斉に俺に飛びかかる。
剣。は、止めとくか。
挟み撃ちしてくる男二人の首根っこを掴むと、そのまま引き寄せると、二人の男はお互いに頭がぶつかり合い、その場に倒れ込んだ。
「クハッ……」
「くそ……意識が……」
あと二人。
……後ろか。
一人の男が背後から殴りかかるが、俺は回転しながら方向を変えた。
男の行き先を失った拳をつかみ、地面に叩き付ける。
さて、残りは後ろに隠れている女だけ。
「さて、お姉さん?どうしますか?」
女は肩を震わせ、茂みの方へ逃げ込むが、足がもつれたようで派手に転倒し、動けなくなったようだ。
一人で何、やってんだ?
女は、足を引きずりながらゆっくりと立ち上がり、俺から殺されるとでも思っているのか、捨て身で突進してくる。
「なんなのよ!あんた!!」
俺は女に足を引っ掛け、体勢を崩した。
「それはこっちのセリフだ。急に、襲いかかって来ておいて、被害者ズラか?」
俺の言葉に、女は涙を流し始めた。
嘘だろ?そんな強く言ったか?
「本当に強い人って苦手ッ!弱い者の気持ちなんて分かんないんでしょ!あの時も、班長が止めてくれたら。私でも一緒に居れたら、救えたかもしれないのに。本当に自分の弱さが嫌になる。」
女は突然自分語りを始めた。
「どいつが班長か知んねえけど、殺してねえよ。あとお前の身の上話には興味は無い。ずっと気配が動かねえから来てみただけだ。用はないから行くな。んじゃ。」
俺が立ち去ろうとすると、気絶していた男が、体を引きずりながら追ってくる。
勘弁してくれ。
本当に、気になって見に来ただけなんだって。
「これでも!くらええ!!」
男は隠し持っていた物を俺に投げつけるが、俺はあっさりと避ける。
「ん?メモリー?なんでお前らが?」
「……ッ!メモリーを知っているのか?お前何者だ!ツクヨミ隊員であれば、スズ様を知らないわけがない!!」
えっと?スズ様?状況が全く分かりません。
「まずはお前らが名乗れよ。」
「何を生意気なッ!」
俺の言葉に食ってかかる男を先ほどまでひたすら肩を震わせ涙を流すだけだった女が制止させた。
「私はゴールド軍隊員のスズよ。」
お?ゴールド軍か!!一緒じゃねえか。
しかし、スズという女は知らねえな。
「誰だ?」
「やっぱり!こいつは部外者です!あのシンバ班だったスズ様を知らぬ者とは。」
俺の様子に見兼ねた男が横槍をいれる。
「俺が知ってるシンバは一人だけだ。それがお前が言う、あのシンバ班なら、俺もシンバ班の一人だったぞ。みんな死んじまったけど。」
俺の言葉に、男たちは慌てて俺との距離を取った。
「お、名前を。聞いてもよろしくて?」
スズが遠くから尋ねる。
「サンだ。」
皆、目を丸くて俺を見る。
何だよ。
すると、スズが、勢い良く立ち上がり、俺の胸ぐらを掴んだ。
「貴方のせいで、班長が死んだ!!貴方じゃなくて、私が居れば、もしかしたら、もしかしたら!!」
慣れている。こうやってシリウスを慕ってた奴から言われる事は。
一緒に居たのが、俺では無く、俺だったら、私だったら。
俺の初任務がユアンじゃなくて、別の任務だったら。とか。
でもよ。
それっていつまで言われんだ?
「離せ。」
「嫌よ。私は貴方を殺したい。」
そう、この目。
俺が何をした。
ユーリみたいに皆を裏切っていたのか?
違う。
ギルみたいに魅了に掛かっちまったか?
違う。
シンバみたいに戦えなかったんだよ。
俺が弱いから。
弱いのは一番の罪だ。
誰よりも俺が一番、あの日のことを悔やんでる。
少しでも気を抜くと、まだシンバとギルとキーマンはどこかで生きてんじゃねえか。と淡い幻想を抱いちまう。
でも……
立ち直ったフリしときゃ、忘れられるって。
前に進んだフリしときゃ、ギルとシンバも報われるって。
でも、ダメだな。
あの時、封じたつもりのドス黒い感情が蘇ってくる。
「離せ、じゃねえと俺は本気でお前を殺しそうだ。」
俺と目が合うと、スズは咄嗟に手を離し、後ろへ下がった。
見兼ねた隊員たちがスズを連れ出し、この場を立ち去ろうと走り出した。
必死に俺の中の衝動的な思いを沈める。
「何よっ!貴方が、居なければ、班長は!」
「黙れ」
やめろ。
「生きてたかもしれないのにッ!」
「黙れ」
やめろよ。
俺は手で顔面を覆う。
「貴方が居なければッ!!班長とギルは今も一緒に笑って居られたかもしれないのにッ!」
「黙れって言ってんだろ。」
ガチャン___
俺の中で抑えてた感情が一気に崩れ去り、目の前が真っ暗になった。
俺は地面を思いっきり蹴った途端に、地面に亀裂が入る。
どこまでも続きそうな絶望感のなか、俺は剣を振りかざす。
「憎悪」
俺は、一切の躊躇なく、斬りかかる。
あぁ。シンバ、俺、もう、止まれない。




