第59話 パッケージからの脱却
「お、起きた、起きた。」
ん?この顔……どっかで……。
「あー!!あの時俺の前を悠々と泳いでたガタイの良い爺さんじゃねえか!!」
「お主、その剣、どうした。」
ガタイの良い爺さんは俺の腰にある剣が気になって仕方ないようだ。
「ああ。形見だ。」
「形見……そうか。」
爺さんは黙り込んで、剣を見つめている。
「死んだんか。」
何だ??
俺が怪しんでいると、突然爺さんの気配と姿が消えた。
ん?後ろかッ!
爺さんはその辺で拾った木の棒で俺に殴りかかる。
俺は即座に剣を抜く。
「憎悪」
爺さんの木の棒を切り落とし、背後を取った。
俺は爺さんの首元に剣を突き立てる。
「なるほどのぉ。シリウスの技か。それではお手並み拝見といこうではないか。」
爺さんの肘が俺のみぞおちに入る。
くそッ!体が開いちまった。
一瞬の隙に俺の体を摺り抜け、いつの間にか爺さんは目の前に立っていた。
爺さんは剣を片手に余裕の笑みを浮かべる。
才持ちか?
それにしても何だあの剣。
「私がシリウスに剣術の基礎を教えた。じゃが、俺が使うのは太刀。日本刀という剣の一種だ。」
日本刀?転生の才で発展したパチンコの国の武器か。
それよりも、シリウスの師匠ってことか?つまりツクヨミの人間?
「水龍」
爺さんは体勢を低くし、刀を振り下ろす。爺さんの太刀筋は水のように流動的だが、殺気と威圧を纏っており、技の名の通り、龍のような姿が剣に纏わりついているように見える。
「憎悪」
俺は双剣で爺さんの剣を受け止める。
爺さんはニヤリと笑う。
「なるほどのぉ。それしか使えぬのか。」
チッ。そりゃあバレるか。
「滝水」
水?何処からだ?……いや濡れてない?!
ここにあるはずのない滝が俺を囲っているような錯覚に陥る。
このままじゃダメだ。完全に男の剣技に翻弄されている。
滝に切れ目が入り、次第に視界が開けると、爺さんがゆっくりと切れ目から歩いて来る。
「お主か?ギルが言うておる、サンっていうのは。」
ギル?ギルと知り合いか?
「それは知らねえが、確かに、俺の名前はサンだ。」
「ほう。そうか。」
男は俺を品定めでもしてるかのように下から上へ視線を動かす。
「面白い。私の名前は、翠と言う。ついて参れ。」
翠の後ろをついて行くと、茂った森の中に、ポツンと一軒、小屋が建っていた。
ボロッボロだな。
実家のような安心感。
「私の小屋……家だ。」
小屋って言ってたよな、今。
ボロボロの自覚あるんだ。
「さて、サン。お前は何故、此処に来た。」
翠からは、ギルティーノにも劣らない圧のようなものを感じる。
「強くなるために。大事なもんを守れるように。」
「そうか。なら、私の元へ来たのは正解と言えるじゃろう。先程も言ったが、シリウスの剣術の基礎を指南したのは私じゃからな。」
翠の言葉に俺の中に疑問が浮かぶ。
「でもお前と、シリウスの剣技は全くの別物だ。師匠ならお前もシリウスの技を使えんのか?」
俺の問い掛けに翠は首を横に振る。
「剣技とは、皆、基礎こそ同じだが、そこから剣を通してどう動きたいかで形は己自身のものへと変化していく。」
どういうことだ?
「まあ、言葉で言っても分かるまいが。シリウスの技を見たことあるな?」
「ない。」
「無いじゃと?じゃが、剣の指南は受けたことはあるのじゃろ?」
「ないな。だって、俺はシリウスが死んでから剣を握ったからな。」
「お主……何故、憎悪が使える。」
「それこそ何となくだ。剣技という剣技は知らねえんだ。俺にとって剣を持って戦うやつはシリウスだけだったからな。だから技が似たのかもな。」
ほう、こいつ。無意識にシリウスの筋肉の動きを意識したか。
なんという戦闘センス。
こりゃ、基礎を学べば、もっと化けるな。
「私はシリウスの師匠じゃが、シリウスの技は、使えない。そして、シリウスも私の技は使えない。そういうものじゃ。」
確かに。
翠の剣の動きは、シリウスの剣の動きほど、妖艶さはないが、水が流れるように滑らかなのに、その場を圧倒する迫力がある。
水が流れるように。
滑らかに。
「水龍」
俺は見よう見まねで、技を繰り出す。
「驚いたな。形にはなっておる。……だが、そんな付け焼刃が通じる者は、まずバツサイの幹部に居らんじゃろうて。」
そう。分かってる。
このままで良いはずがないことくらい。
「まずは、お前にしっくり来る形を身につけろ。その為の基礎じゃ。今のお前は、完成品を見て想像で作っているに過ぎない。玉ねぎは入れる?人参は?切り方は?お前は水龍と憎悪を繰り出したが、その中身は全く別物だ。無理矢理、水龍と憎悪の「パッケージ」を付けて得意げになっているに過ぎない。」
翠の言葉に、俺は胸が熱くなる。
俺、シリウスよりも強くなるよ。
じゃないと、俺だけ生き残った意味が無い。
「さあ、死ぬ気で来い。殺してやるぞ。」
翠は剣を構える。
俺も、両手に剣を取り、構えた。
「死んでも泣くなよ、爺さん。」




