第54話 一人の学生
「じゃあ、また潜水艦で行くのか?」
「ああ。」
ギルティーノは悪びれる様子もない。
「何が、ああ。だ。今度こそ、ちゃんと燃料積めよな!俺、何回も魚に食われそうになったんだからな……行くぞレオ。」
「待て。レオと言ったか。」
ギルティーノはレオを呼び止める。
「あ、ああ……」
ギルティーノはレオを下から上へとゆっくり視線を動かす。
レオはギルティーノから放たれる威圧感に息を呑む。
「レオ。お前は学校に行け。」
「学校?」
「ああ。お前が今からやるべき事は、強者の後ろをついて行き、中途半端に経験を重ねる事ではなく、自らの力で確固たる自信を持って進む事が重要だ。」
「サンとは任務に行けないのか?」
「ああ。正直に言わせてもらうが、お前は基礎が出来ていない。ツクヨミ隊員として任務へ向かう者がそれでは困るのだ。」
レオは少し考えて、頷いた。
「……学校、行くよ。サン、ここで別れちまうけど、任務頑張れよ。連れてきてくれてありがとうな。」
「ああ!お前もな!」
レオと俺は固く握手を交わす。
「サン。ついでだ。レオを学校まで案内してやれ。」
ギルティーノの言葉に俺は少し戸惑う。
案内って言っても、俺行ったことねえしな〜……
「案内なら、俺じゃなくてシンクに頼んだほうがいいんじゃねえか?」
「サンの姿を学生にも見せてやれ。お前と同じくらいの年の奴らが多い。そいつらにとってお前は、いい刺激になる。」
ふーん。つまり、偉そうに学校へ行けってか?
そんなの考えるだけでゴメンだ。
「俺は別に……」
「あーそういえば、今はフィルが学校で特別授業中だったな。」
「行くぞ。ついてこい、レオ」
「え?あ、サン、待って。」
突然、歩き出す俺に戸惑うレオと、何故か生温かい視線を送ってくる、ギルティーノ達を置いて歩き出した。
フィルか、元気かな。
ふと、フィルの顔が頭に浮かぶ。
ドキッ___
ん?腹減ったからかな。心臓がうるせえ。
パリィン!!__
ん?パリィン……?
俯きながら歩いていた俺は、気付けば、最上階の窓を突き破っていた。
俺の体は地面へ向かって垂直に落ちていく。
ゴールドがたまらず右手を前に出すと、プラチナが止める。
「この高さくらい大丈夫だよ〜、サンくんなら。」
「そうだね。」
ゴールドは右手を収める。
俺が見上げると、狼狽えるレオの姿があった。
「レオ!落ちてこい!絶対死んでもキャッチする!」
俺の言葉に、レオは色々な表情を見せ、葛藤しているようだ。
「あー!!もう!!知らねえ!!死んだら許さねえからなッ!!」
レオは勢い良く、窓から体を投げ出す。
「うーあああああああ!!死ぬ死ぬ死ぬ!」
俺は地面に着地した瞬間、地面を蹴り、絶叫しているレオを抱き抱えた。
「死ぬ死ぬ死……死ななかったあ……」
レオは俺が降ろした途端に、座り込み、胸を撫で下ろした。
俺は周囲を見渡すと、ゴリラを見つけた。
「ゴリラ!学校まで案内してくれ。」
俺の行動に、レオは呆気にとられていた。
あ、懐かしいな。この反応。
___『悪いが、ギルをここへ呼んでくれねえか〜』
『おい…シンバ。それ…ウサギだぞ。疲れてんのか。』___
シンバとのやり取りが、今と重なって笑けてくる。
ゴリラは、俺の顔を確認すると、頷き、学校の方向へと歩き始めた。
「なあ、学校ってどんな所だ?」
「さあな。行ったことねえし。」
レオの気配が動いてないことに気付き、振り返ると、レオは立ち止まり、動こうとしない。
「どうかしたのか?」
「最初に会った時から思ってたけど、お前はどうしてそんなに強い。どうしたらそんな生き方ができる。」
レオは真剣な眼差しで俺を見る。
「ん〜、難しいな。言ったと思うけど、俺は死体しかねえ場所に多分16年、一人で過ごした。そこから連れ出してくれた三人の男たちがいた。ずっと一人だった俺の居場所を作ってくれたやつらだった。自分の命より大事なヤツらだった。でも死んだ。呆気なく死んだ。バカみてえに強かったシンバも、誰よりも優しかったギルも、そして、俺が一番……慕っていた、ピーマンも……死んで、また一人になった。」
「サン……」
俺は出てくる涙を必死に堪える。
「また一人になった俺は、全てがどうでも良くなった。死ぬなら今が良いと何度も思った。皆について行きたいって何度も思った。取り戻した感情もこんなに辛いなら要らなかった。」
「でも、シンバが、ギルが、キーマンが。俺の未来を案じてくれた。だから、決めたんだ。少し立ち直るのに時間はかかっちまったけど、俺は連れ出された足で人生の道をダラダラと歩くのではなく、自ら歩み出した足で人生の道を一歩ずつ確かめるように歩きたい。それが今俺が生きてきた道でこれからも歩み続ける道だ。答えになってるか?」
俺の問い掛けに、何故かレオが泣き出した。
「俺には、到底そんな道、歩けない。俺、何か、恥ずかしくて。挫折とか、絶望とか、知らずに、大切に育てられたんだろうな、って勝手に、妬んで……生まれ持ったもんも、多くて……」
レオは涙で上手く言葉が出ないようだ。
「レオが良い奴なのは、会った時から分かってたよ。俺は勘だけは、いい方なんだぜ?」
俺が歩き出すと、遅れてレオも歩き出した。
そこからはレオは一言も発さず後ろを着いてきた。
ゴリラが示した先には立派な白い建物がある。
「学校?これが?」
ゴリラは何度も頷く。
「ウホウホ」
ここか!すげえな、気配がいっぱい集まってる。
「レオ……そろそろ、泣き止め。」
振り返ると、声も出さずに泣いていたレオが口を開く。
「だ、だってぇ!考えれば考える程、サンが可哀想で……辛かっただろうなって……まだ16なのに。」
すると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。
「サーン!帰ってたのね!!」
振り返ると、フィルが弾けるような笑顔で窓から手を振っている。
「フィル様!そんなに窓から身を乗り出したら落ちちゃいますよ!」
「大丈夫よ!あははっ!サン!サン!」
フィルが興奮していると、サンの名前に反応した一人の青髪の少年が勢い良く、窓から飛び出る。
「サン様!!!」
サン、様……?
男は窓から飛び降りると、俺に目掛けて一直線に駆け寄ってくる。
俺の前まで来ると、青髪の少年は息を整えて話し出す。
「僕の名前は、ログです!いつかサン様と共に任務へ行き、サン様の右腕となることが夢……いや、なります!」
《彼の名前は、ログ。いよいよ、伝説のサンの右腕となる男の登場である。》




