第52話 ルナという女
「コード島、グロース島、クラシオス島、つまりレオくん達が案内していた入口は、ニセモノの基地にしか辿り着けない入口だった」
「ニセモノの基地?」
「うん。ニセモノの基地、すなわちDM基地。口ぶりから、ディシーブ、ミスリードの頭文字でも取ってるんだと思う。どちらにしても騙すという意味の単語だよ。どうやら、DM基地の連中の目的は、バツサイの核、G基地への撹乱が目的だと思う。現にボクは手のひらで一年も踊らされていた訳だけど。」
ゴールドは肩を落とすが俺はゴールドの情報収集能力に驚愕していた。
「あの短時間でよくここまで情報を集めれたもんだな。」
「うん。運良く幹部の一人がG基地に入るところに遭遇したんだ。」
………
……
…
ボクは磁力で体を浮かせ、空を飛んでいた。
そろそろディコベリー島かな。
やっぱりサンくんどこから泳いできたんだろう。
泳げる距離に島はないと思うんだけど……
ボクは辺り一面を見渡す。
やっぱり、サンくんにはシリウスくんみたいなカリスマ性を感じる。
純粋によくあそこからこの短期間で立ち直ったと思う。
「最近の若者は末恐ろしいよ。」
ディコベリー島へ到着したボクは周囲に神経を張り巡らせた。
えっと。向こうから気配がする。
ディコベリー島は無人島なはず。
ボクは磁力を遮断し、地に足を付けて歩く。
誰か居る。
気配を辿ると、メガネをかけた青髪の女と、茶髪の女が生い茂る草をかき分けて進んでいた。
「ルナ様〜、あっし疲れた〜。G基地、まだ〜?」
ルナ。
確か、占いの才を持つボスの側近。
「今日から幹部の席に就いたのですから、しっかりしなさい。」
「ユーリ様って本当に死んだの〜?ウケる。会ったことないけど。」
ルナは答えずに、黙々と歩き続ける。
しかし一瞬、ルナはボクの方へ視線を向けた。
あ。バレちゃったかな。
しかし、ルナは何事も無かったかのように歩き始めた。
「ルナ様〜、G基地って本当に幹部しか入れないの〜?」
「ええ。」
「もし、幹部以外が入ったらどうなんの〜」
「その時点で、DM基地、G基地の全基地が爆破するわ。」
「ルナ様ってば怖ーい。あっしを怖がらせようとしてるんだー。いけない子っ!」
暫くして、二人は行き止まりの壁に突き当たり、立ち止まった。
「ここよ。ただ入るには幾つか入る方法があるわ。まずは幹部なら体に埋め込まれた石が反応してそのまま通り抜ける事が出来るわ。もし、埋め込まれた部分が敵によって奪われた場合は、ここに隠してあるキーを使って入りなさい。」
ルナは壁の一部をなぞると、鍵が出てきた。
「奪われる?どうやって〜?」
「例えば……そうね。ユーリは埋め込んだ部分の左足をシルバーに切り落とされてたわね。だからいつもこのキーで出入りしていたわ。」
ルナの言葉に、もう一人の女は大袈裟に驚いていた。
あのキーを使えばボクたちでも入れるのか。
「ほら、先に入りなさい。」
「えー、もし入って、今、敵来たら、あっしと基地は、お陀仏ってこと?」
「ボスがG基地に居る限り、爆破されないわ。分かったなら早く入りなさい。」
ルナは茶髪の女の背中を押し出した。
そうか。G基地へ入るならボスが居る時が狙い目だね。
一人になったルナもう一度こちらを振り向く。
えっと。目が合ったような気がしてるんだけど。
「ルナ様〜行かないの?」
茶髪の女がひょっこりと壁の向こうから顔を覗かせる。
「行くわ。」
そのまま、ルナは壁をすり抜けて行った。
………
……
…
「という感じだけど……」
「バレてんじゃねえか。」
「うん、バレてるな。」
俺とレオの順で報告に突っ込むと、ゴールドが肩を落とした。
「やっぱり、そう思う……?」
ゴールドは紙とペンを取り出したその時、気絶していた男が突然口を開く。
「そんなところまで、掴んでいらっしゃるとは……。しかし、何故私を殺さないのです。」
「君、だれ。僕たち殺戮愛好家な訳じゃないんだけど。」
「言っただろ?聞いてなかったのか?ユーリ大好きマンだよ。ユーリ大好きマン。わりぃけど、お前、洗脳に掛かってるぞ。」
男は心当たりがあるようで、少し間を置いて頷く。
「やはりでしたか……貴方が私の肩に触れた時に若干ではありますが、頭がクリアになっていくのが分かりました。」
触らなくとも、俺の才は影響するのか?
俺はゴールドに視線を向ける。
「うん。サンくんは、持ち前の身体能力は凄いけど、才の制御はまだまだだからね。常に才がダダ漏れている。悪い事じゃない、むしろダダ漏れれる才の量があること自体、凄いんだ。でも、解かなくていい才も解くのは違う。どちらにしろ才の制御は今後の君の課題だね。」
解かなくてもいい才……ギルティーノの才の事言ってんだな。
「おう。なあ、洗脳解いてやるからよ、交渉しようぜ。」
俺が男に話を持ち掛けると空かさずゴールドが制止する。
「ちょっと待って。サンくん。勝手なことされるのは困る。」
俺はゴールドに耳打ちをする。
「なるほど。いいね。よく短時間で、そこまで考えが及ぶなんて、君、案外頭脳派なんだね。」
男は俺達のやり取りに戸惑いながらも口を開く。
「ですが、私はバツサイのメンバー。そして貴方達は敵対組織であるツクヨミの幹部と、その中心メンバー。その事実は変わらない。」
「ユーリが誰に殺されたか教えてやるよ。」
「……おおよそ見当はついておりましたが……そうですか。やはりユーリ様は既に……せめて勘違いであって欲しかった。」
俺は男に近付くと、頭に手を乗せる。
「解放」
男は涙を流し始めた。
「私は今までなんて事を……正義の味方で居たかった。ただそれだけなのに。私は私は……」
俺がロープを解くと、男はゆっくりと起き上がる。
「お前のボスの洗脳は解いた。お前はどうする。」
「自死すべきかと思います。もう役に立てません故。」
やっぱそうなんのか。
「いいのか?復讐しなくて。」
「復讐?ボスにですか?いえいえいえ。考えるだけで恐ろしい事です。」
俺は男の肩に手を置く。
「そっか。それがお前の望みなら構わない。いいじゃねえか。ユーリもそうやってボスに一矢報いること無く無様に死んだ。」
「ユーリ様も?ボスに?無様……?」
「ああ。死ねって言われてそのまま死んだ。さぞ、無念だっただろうなー。」
さあ、乗ってこい。
頼む。
突然、男は勢い良く立ち上がり、顔を上げた。
「私など戦力になるでしょうか!!先程貴方に手も足も出ませんでしたが!!ユーリ様に無念などあってはならない!!」
よし、乗った!
男には先程までの絶望感はなく、その瞳は生気に満ちていた。
「お前には、スパイになってもらう。」
「スパイ?」
「ああ。作戦はこうだ。お前は皆にゴールドの死亡を伝えろ。そこからは洗脳されたままを装い、時が来るまでバツサイとして存在していてくれ。お前はそれだけでいい。最悪なのは、せっかく突き止めた基地が爆破されて、また姿をくらまされることだ。ゴールドが勘付いたと思われたくない。」
「うん。ボクの任務は探し出す所まで。それ先はボスにも考えがあると思う。」
「それくらいならお安い御用です。しかし、また洗脳を掛けられた時はどのように対処すれば……」
男の疑問に俺は腹を括る。
「不確かでごめんなんだけど、俺が何とかする。策はある。でも、まだ実現出来てない。一週間後、必ずまたここに来る。その時落ち合おう。それまで解散だ。」
「うん。ひとまず任務完了だね。まさかゴールドとずっとバレていたとは、幹部として恥ずかしいよ。」
俺たちは壁に戻っていく男を見送る。
「あ、名前は?」
俺の問い掛けに男は晴れやかな顔で笑った。
「今更ですか……?私はリンと申します。貴方には感謝してもしきれません。」
「リン!頼んだぞ!」
ああ。俺もお前に感謝する。
お前を救えて自信になった。
俺はやり遂げた。
誰一人死ぬ事無く、任務を。
ひたすら前を向いて歩いていたつもりでも、心のどこかでまた誰かが死ぬんじゃないかって漠然とした不安があった。
リンを救えたことは俺の確かな成長だ。




