第49話 『呪縛』と『解放』
「まず、バツサイの……本拠地を見つけ出す、任務を、なぜボクが任命されているか、に、ついては……」
「なあ。」
俺はゴールドに一つの違和感を抱いた。
「何で、お前ってそんなに自信が無さそうなんだ?」
「ボク……気付いたら、日に日に上手く話せなくなっていってるんだ……ごめんね、聞きづらいよ、ね。」
違う。そうじゃない。
「なあ、こっちに来て、頭ん中、見せてくれ。」
「頭……の、中……!?」
ゴールドが警戒しながら近づき、俺の前で屈んだ。
「ッ!」
ゴールドの短剣が俺の周囲を取り囲む。
わーお、さすが幹部。
抜け目ねえな。
俺が、ゴールドの頭に手を置き、神経を手に集中させる。
うん、やっぱりだ。
「お前さ、いつからその喋り方なんだ?」
「えっと……元々、口が達者な訳じゃ、無かったけど、1年前とか、かな。変に、言葉が出ない時、が……増えた、気がする。」
ふーん。
俺は手のひらに全神経を研ぎ澄ます。
「俺、今からもしかしたらぶっ倒れるかもしんねえ。その時は頼んだ。」
「え?、どういう……」
「解放」
ゴールドに絡み付くように蔓延っていた鎖が、一斉に砕け散った。
「え?何が起きたの?」
よし、成功だ。
少し目眩はするけど、ユアンの時みたいにぶっ倒れることはない。
「お前、なんか才の影響受けてたぞ。心当たりねえのか。」
俺の問いに、ゴールドは少し間を空けて口を開いた。
「……え?……ハッ。確かに、言葉がすんなり出せる。凄い!!サンくん凄いね!!」
ゴールドが興奮しているのが分かる。
「でも、精神干渉系ってこと?ん〜と、催眠とポジティブしか見た事ないし……ハッ!もしかして……ボス?」
ゴールドは、突然浮上してきたギルティーノへの疑念に不安そうに俺を見てくる。
「違う。ギルティーノの才は、ほわわんで、ゴールドが受けてたやつはギギギギって感じだ。」
「ほわわん……?ギギギギ……?」
ゴールドは俺の言葉を理解出来ずに困惑していた。
「いや、それは俺の感覚だからどうでもいいんだけどよ。」
「あ。また、報告しなくちゃ。今日はイレギュラーが多くて大変。」
ゴールドはまた紙とペンを取り出し、急いで報告書を飛ばした。
「これで良し。さて、話の続き。ボクの才は、知ってると思うけど、磁気を操る才。ボクの磁気が付与されている指輪を付けてるツクヨミ隊員の位置関係を把握出来る。だから、ボクの才を使えば、本拠地を割り出せる……って理屈なんだけど、3年これっぽっちもダメなんだよね。」
ゴールドは、一切言葉に詰まることなく、難なく状況を説明出来ている。
何だ?
今まで何の才の影響を受けてたんだ?
これが分からないと、この任務は先に進まない気がする。
「なあ。ゴールドはどうやって闇市見つけたんだ?」
「えっと……確か、怪しい人にボクの磁力くっつけてたら、地図では行き止まりの場所に向かってったから、それについて行ったんだよ。でも、ここからも繋がってるんだね!ボク、闇市に潜入して1年くらい経つけど初めて知ったよ。」
「ここからも?ゴールドはここから入ったんじゃないのか?」
「うん、違うよ。同じウォーター大陸だけど。」
おっと?俺とゴールドの話が噛み合わなくなってきたぞ。
「ウォーター大陸?ここは、ウォーター大陸って国なのか?」
「えーと。どういうこと?」
ゴールドは、俺の質問の意図が分かっていないようで、首を傾げている。
「ここはウォーター大陸ってこの国なのかってことだよ!」
「君、地図……見たことある?どうやってここまで来たの。」
「泳いで。」
「泳いで?」
「うん」
「どこから?」
「海から。」
「え?」
「ん?」
ゴールドが何を驚いているのか分からないが、さっきから話が全く進まない。
「そもそも五つある大陸って分かる?」
「分かんないさ。」
「え?」
「ん?」
堂々とした俺の姿に、ゴールドは完全に振り回されている。
シリウスの手のひらで踊らされていた毎日を思い出した。
シリウスからしたら、俺ってこんな感じに見えていたのかな。
「まず、この世界は五つの大陸に分かれていて、ウォーター大陸、メタル大陸、ファイア大陸、ウィンド大陸、そして君が住んでいたアース大陸って訳なんだけど……」
「へ?どういうことだ。俺、アース大陸ってところに住んでんのか。」
「……」
「ゴールド?」
「……」
「ユノ〜?……」
「……」
放心状態になってるゴールドの顔の前で俺は手を振り続ける。
すると突然、本を取り出し、もの凄い速さでページを捲るが、その時の表情も一切変わらない。
そして、お目当てのページを見つけたのか、動きが止まった。
「ここ。読んで。」
そう言うと、ゴールドは開いたままの本を俺に渡してくる。
「……え、俺、最近文字読めるようになったばっかだから、時間かかる。読んでくれたら助かるんだけど……」
しかし、ゴールドは首を横に振り、何処かへ歩き出した。
「久々に喋りすぎて、これ以上は喋りたくない。水買ってくるから、君は勉強してて。」
そう言うと、ゴールドは去って行った。
えーと、なになに。
この世界は五つに分かれています?これはさっき知ったからいいや。
一番面積が広い大陸は、アース大陸。へー。どうでもいいな。
ウォーター大陸、ウォーター大陸......あった!
ウォーター大陸は四つの島(グロース島、クラシオス島、ディコベリー島、コード島)を示す大陸です?
島しかねえのに大陸?え?どういう事だ?
大陸ってそういうもん?
星歴700年前期の記録では、ウォーター大陸は、かつては氷で繋がった広大な陸地だったようだ。
しかし、星歴889年の記録では、氷で繋がった広大な陸地など確認できず、あるのは現在も海に浮かぶ四つの島だけだったと。
そして今でも地図上では『ウォーター大陸』と残り続けているという訳か。
なるほど。
ということは、俺はこのグロース島、クラシオス島、ディコベリー島、コード島の四つの島の内のどれかに、今居るって事だな!
…………
「何処だよッ!!」
「クラシオス島だよ。」
顔をあげるとゴールドが水を片手に戻ってきていた。
気配もなく、当たり前に目の前に立っているゴールドに、驚き、俺の防衛本能なのか気付けば剣に手をかけていた。
「で、何か分かったの?」
「何かって?」
「ボクがどうやって闇市を見つけたのか聞いたよね。」
あー、すっかり忘れてたな。
「いや、それよりも気になったんだけどさ、なんで本拠地分かんねえんだ?バツサイは皆にとっては正義のヒーローなんだろ?」
「うん。表向きの本部はあるよ。でも、そこには2年前くらいにボクが潜入したけど、主軸のメンバーは居なかった。だから、作戦練り直して、闇市に潜入してる訳だけど。今の所これと言って何も無いよ。」
そうか。
やはり、ゴールドの作戦が上手くいっていないのが引っかかる。
「俺の勘だけど、ゴールドに掛けられた才が鍵を握ってる気がする。」
「なんか凄そうな話してんね!」
突然、会話に割って入ってきたレオに俺たちは振り向く。
「え!!驚かないの……?びっくり!!とかないもんかね。」
「隠れてたつもりだったんだ。」
レオの疑問にゴールドは悪気なくバッサリと切り捨てる。
「俺たち、そういうのに敏感なんだ。」
「へー!凡人には何が何だか。別に俺も盗み聞きしたかった訳じゃない。これ、渡しに戻ってきたんだ。はい。」
レオは内ポケットから札のようなものを取り出した。
その瞬間、その札は俺によって真っ二つに斬られていた。
気付けば、俺の行動から状況を把握したのか、レオの周囲をゴールドの短剣が包囲していた。
「レオ。お前は俺の敵か?」




