第46話 彼はツクヨミのサン
それにしても、これ、どこに向かってんだ?
ギルティーノは、とりあえずこのレバーはずっと倒したまま、触らなくても自動で止まるとかなんとか言ってたけど。
ビーッビーッビーッ。
ん?何の音だ?
《燃料切れ、燃料切れ、直ちに緊急脱出を。》
は?燃料切れ?
ビーッビーッビーッ。
《燃料切れ、燃料切れ、直ちに緊急脱出を。》
「やりやがったな、ギルティーノ〜!!!」
俺の声は沈みゆく潜水艦のアナウンスによって虚しくかき消された。
だからだな、緊急脱出の仕方をしつこいくらい繰り返し教えてきたのは!
俺は急いでリュックに必要最低限の荷物を詰め込む。
その頃、プラチナはギルティーノはのんびりティータイムを楽しんでいた。
「サンくんに言ってた事って本当なの〜?」
「何の話だ。」
「え?ほら、自動で止まるってやつだよ〜!俺、全然知らなかったよ。」
「ああ。その事か。サンの潜水艦にはちょうどグロース島の近くまでに行く分の燃料しか積んでないからな。燃料切れたら自動で止まるだろ?」
ギルティーノは報告書に目を通しながら優雅に紅茶を楽しんでいる。
「潜水艦も安くねえんだぞ〜……はあ。科学研究のやつらになんて言うんだよ〜。」
「それはお前に任せる。」
「またかよ〜。でも、この苦労もあと少し。本部の警備当番もあと半年で終わり〜!そういえば、今年はシルバー軍らしいね。もう交代準備期間に入ってるのになかなか来ないな〜。」
「何を言ってる。プラチナ軍が続投だ。」
「へ?……まてまて、嘘だろ。」
プラチナ軍が警備当番になり、早1年と半年。
尚、更に1年半年の続投が確定した。
プラチナは相当苦労しているのか、膝から崩れ落ちる。
《燃料切れ、燃料切れ、システムが停止します。3秒後に海水が入り、その後ドアが開きます。》
海水が流れ込んでくる。
あっという間に海水で部屋が満たされ、緊急脱出口が開いた。
沈む潜水艦から急いで飛び出し、ひたすら上へ上へと泳いだ。
すると、大きな魚……いや、大きな体の白髪のおじいさんが目の前を悠々と泳いで行った。
驚きのあまり、大事に溜めていた空気を吐き戻す。
俺は急いで気泡を追いかけるように海面へ顔を出した。
「プハーッ!!死ぬかと思った!!」
潜水艦乗り捨てちまったけど……まっ、いいか。
だってギルティーノのせいだもんな。
周りを見渡すと遠くに島が見える。
……あそこまで泳ぐのか。
いや、これも強くなる為の訓練だ。
俺ひたすら泳ぎ続けるが、日はどんどん落ちていき、気が付けば辺りは真っ暗になった。
うわ!!見えねえ!どっちが真っ直ぐだ?!
こっちか?こっちか?
常に変動する水の動きに苦戦しながらも、俺はひたすらに泳ぎ続けた。
ん?足に何かが触れたぞ。魚かな?
水中を凝らして見てみると、俺の体よりもデカい魚が口を大きく開け、今まさに俺はこいつに食べられようとしていた。
方向なんてどっちでもいい!!泳げえええ!
あああああああー!!!
なんでこーなるんだよ!!!!
「覚えてろ、ギルティーノォ〜!!!!」
一方ギルティーノは、仕事が一段落着いたところで、外の空気を吸っていた。
「ツクヨミのサン……か。いい響きだな。」
ザパーーンッ……!
「はあ、はあ、はあ。つ、着いたぞ。」
沈んだ日はすっかり昇っていた。
見た事のない魚に追っかけられたり、仕掛け網にも引っかかったりと散々だったが、ようやく足が地面に着いた。
目の前に立ちはだかる絶壁を上ると、そこには沢山の人間と市場で活気に満ちていた。
店を構えて商売している者も居れば、路上に売り物を広げ、客を待つ者も居る。
ユアン王国で見た煌びやかさは無いが、一人一人が活気に満ち溢れている。
あれ、でも俺が目指してた島とは違うな。
何処だ?ここ。
俺が歩き出すと、海水をたっぷりと吸い込んだ服からボタボタと水が滴り落ちる。
あー……。フィルに申し訳ねえな。
俺はその場で横になり、空を眺めた。
まあ、急ぐ旅でもねえし、服が乾くまで一眠りするか。
何しろ、丸々一日泳ぎ続けたんだからな。
………
……
…
「サン坊、才の覚醒凄かったぞ〜!」
「そうだな。俺も、うかうかしてられないな。」
「サル真似が得意なだけだろ。」
…
……
………
ハッ!!
夢か……
俺が目を覚ますと、昇っていた日はすっかり落ちており、目の前には夜空が広がる。
一際、オレンジ色に輝く星と青色に輝く星に、シンバとギルの姿を重ねる。
俺は連れ出された足じゃなくて、自分から歩き出す足で世界を見て周るよ。
見ててくれ。俺の道を。
「さて、行くか!」
俺は起き上がり、ベルトを巻き直す。
「いらっしゃーい!!兄ちゃん!このブドウ食べてみて〜!ウチのはここらで一番よ!」
「何言ってんだい!ウチの方がいいの揃ってるさ!!」
夜になっても、人々は活気に溢れていた。
うぅ……人に酔いそうだ……。
《サンはまだ知らぬ仲間の元へ、自らの力で歩き始めた。》




