第43話 兄弟の再会
次第にギルの瞳には光が戻ってきた。
「ギル……大丈夫か。」
「ああ。サンか。一人にしてすまなかった。」
俺は涙を必死に堪え、首を横に振る。
「言っただろ?サン坊の才はあまりにもサン坊にピッタリだって〜。」
シンバのいつも通り、明るく笑う姿に俺はシンバが手が届かない、遠くに行きそうな儚さを感じた。
「シンバ……俺、記憶、無いみたいでさ。でも何回も呼ばれてるんだ。アルクって。なあ……アルクって俺の事なのか……?」
アルクは俺に不安気な表情を見せる。
その姿。そうか、指輪を外したんだな……。
ゴールドの才が発動していないのはゴールドの懸念していた事が起きてしまったということか。
「そうだ。お前はアルク。俺のたった一人の自慢の弟だ。大きくなったな。」
俺がアルクへ微笑むと、ギルはまだ状況が掴めていないなりに、俺の意思を精一杯汲み取ろうとしている。
「シンバと俺は兄弟なのか……?俺……思い出せないんだ。」
「仕方ないさ。」
俺はアルクの前で指輪を外した。
金色だった髪は銀色の髪へ戻る。
背が縮んだアルクとは反対に俺の背は伸びた。
アルクは俺の姿を目にした瞬間、涙を流した。
「あ、あの時のッ!」
俺はゆっくりと頷いた。
「は、早くッ!そいつ等を殺しなさいよ!」
ミエーダの鳴き声……いや、豚の鳴き声が聞こえる。
俺は瞬きもしない間にミエーダの背後に立ち、剣でミエーダの心臓を貫く。
「ガハッ。」
「おい、強欲なブタ。自意識過剰は良い死に方しねえぞ。」
直ぐにミエーダの心臓の鼓動は止まり、呆気なく死んだ。
「良かったのか。止めなくて。」
俺はユーリの様子を窺うが、ユーリは慌てるどころか、ミエーダの死に興味すら無さそうだ。
「ああ。サルが居たから我々は、取り合っていただけだ。サルがユアン王国に居ない今、コイツは邪魔でしかない。殺害命令が出ていた。」
「だとよ。サン坊、バツサイとの繋がりの心当たりは?」
突然シンバから話を振られたが、バツサイとの繋がり?心当たり?ある訳がない。
「ずっと一人で生きてきたし、それにバツサイと面識があるのは今ここに居るユーリ、ジョイン、コリンの3人だけだ。」
「そーだよね〜。どうすっか〜俺多分もう死ぬしな〜。」
は?何言ってんだよ。
シンバの体をよく見ると、ユーリに受けた傷が開き大量の血が流れていた。
「後はサン坊に託すとしようかな〜。」
シンバはいつもみたいに笑顔を作る。
それがとてつもなく胸が苦しくなる。
「いやだ……。いやだよ!!!自分の道は自分でしか歩けねえ!!!……シンバの道なら、シンバが自分で歩けよ!!何諦めてんだよ。約束したじゃねえか。俺強くなるからさ。だからさ……」
シンバは首を横に振る。
なんで、そうやって諦めるんだよ。
「絶対に強くなれ。俺が居なくても強くなれ。そして滅びゆく世界の真実を知れ。お前は一人じゃない。絶対に独りじゃない。孤独を感じるな。」
シンバは静かに座り込み、直ぐさまギルが駆け寄る。
「兄さん!!!死なないでよ!!やっと兄さんと会えたのに。ずっと一人にさせてごめん!これから俺と一緒に居てよ。帰ろうよ!一緒に。」
シンバはギルを見て涙を流していた。
その涙を俺はただ見ている事しか出来なかった。
「俺……めちゃくちゃ頑張ったんだぞ。最後くらい褒めてくれよ。」
「兄さんは強い。兄さんはカッコイイ。兄さんは優しい。兄さん……ありがとう。」
ギルの目からは大粒の涙がひきりなしに流れる。
「ああ。俺は今、幸せだ。」
シンバの手はギルの頭を掠めた。
二度と力の入らないシンバの手を必死にギルは揺らす。
「兄さんっ!兄さんっ!!兄さんっ、兄さん……」
ギルの嗚咽が部屋に響き渡る。
グワンッ__
俺の視界が歪み、足元がふらつく。
クソ。才の反動か?
どこが地面だ?
俺にとってシンバは特別だった。
だけど、シンバにとってギルの存在は別格だと思い知った。
そしてそれを俺は、何故か悔しいと思ってしまった。
ああ……感情って面倒臭いな……
倒れ込む俺を誰かが支えた。
目を開くとギルの姿があった。
「ギル……か。」
「うん。サン。奪り返してくれてありがとう。」
「帰ろう。俺が本部までギル引っ張っとくよ。」
「そうだね。」
俺が指輪を外そうとしたその時、突如大きな気配に気づいた。
その方向を振り返ると、ユーリの横に突如としてハット帽を被った男が現れた。
「おい、何してる。ユーリ。銀髪の男が生きてるじゃないか。殺せ。」
ハット帽の男がユーリへ話しかける。
しかし、ユーリは動かない。
「ユーリ。何をしているの。動いて。」
コリンはユーリの行動に困惑している様子だ。
「やはりな。儂の洗脳がサンと居ることによって少しずつ解けていたようだな。」
洗脳……?
いや今はどうでも良い。指輪を。
「ギル、行くぞ。」
「生死不定。」
突然ギルが力無く倒れ込んだ。
俺も支えが無くなり、体勢が崩れる。
何が起きた。分からない。分かりたくない。
「ギル……行こう。……ギル?」
ギルから心臓の鼓動を感じない。
あれ、可笑しいな。
心臓ってどうやって動いてたっけ。
「ギル。おい……。おい。」
やっと、俺の理解が追いついた。
死んだ。ギルが。
やっと記憶を奪り戻せた、ギルが。
やっとシンバに会えたギルが。
今、目の前で死んだ。
ああ……この世界はクソだな。
全て俺から大事なもんを取り上げる。
「あああああああああ!!!!」
俺の中の感情の糸がプツンと切れたような気がした。
俺は無意識の中で、シンバの剣を拾い上げ、ハット帽の男に斬りかかっていた。
「憎悪。」
「誰でもいい。盾になれ。」
ハット帽の男の言葉にコリンが動いた。
呆気なくコリンの首が空を舞った。玩具が壊れる時のように呆気なく。
俺は人を殺したことは無い。
だが、死んだコリンを見ても俺は酷く冷静で、正直、何だ。こんなもんか。そう思った。
「憎悪。」
「盾。」
またか。
今度はハット帽の男にジョインが反応した。
ジョインは俺の攻撃を受け、壁に打ち付けられる。
「グハッ!……成長スピード、バケモンだな……」
ジョインはそのまま気絶している。
「ボス。撤退を。」
突然、ハット帽の横に居るメガネ女が口を開く。
撤退……?
させる訳ねえだろ。
「憎悪ッ」
「酔生夢死。」
ハット帽は俺のみぞおちを杖で突いた。
「カハッ」
俺は地面に這いつくばる。
ハット帽の男が近づき、杖で俺の顎を上げる。
「お前は儂の宝物だ。まだ温めてやるぞ。その時が来るまで。」
そう言い残して、振り返って去って行く。
待てよ。
「ユーリ。洗脳が解けたお前はもう要らぬ。儂が要らぬというのだから、お前はどうするべきだ?」
「直ちに自死すべきです。」
「分かっているなら直ぐにやれ。」
ユーリは何やら小瓶を取り出し、飲み込んだ。
途端にユーリの体中から血が吹き出した。
その血は直ぐさま、刃物のように鋭く固まり、まるでユーリの体から花が咲いているようだった。
俺はゆっくり立ち上がり、ユーリの元へと足を引きずりながら近付く。
すると、ユーリは紙のような物を取り出した。
チッ……何をする気だ。
ユーリは取り出した紙のような物を自分の体に貼り付けた。
すると、ユーリの姿は俺知ってるいつもの黒い長髪の姿へと戻っていった。
「サ……ル。最期に……俺の、洗脳を……解いてくれてありがとう。」
やめろ。
「最初は……混乱していたが……このままお前達と居たいと、思うようになっていった……。」
やめろやめろやめろ。
「だが……それは、最初、から叶わぬと、分かっていたん、だ。なあ……サ……ル……俺を、殺してくれ……」
やめてくれ。
「サル、俺はピーマンが、好きだ。」
「憎悪ッ!!」
首元寸前で、俺の剣は止まる。
これ以上は力が上手く入らない。
ユーリは、斬る事は出来ない俺をおいて、笑顔のまま冷たくなっていった。
なんだよ。なんだよ。
なんなんだよ。
なんでこうなった?
シンバ。ギル。
横たわる二人の姿に俺の涙が溢れる。
だから、言ったじゃねえか。
やめようって。
みんな俺だけ残して。
俺も、この道は歩き出せそうにねえよ。
俺はその場に倒れ込んだ。
なあ……誰か俺を殺してくれよ。




