第42話 伝説の目覚め
「ユーリは今のお前じゃ倒せねえ。」
シンバを殺したんだ。強いのは分かってる。
だからって諦めるなんて、そんな脇道なんて生憎、俺の道に用意してねえんだよ。
俺は目の前に居るミエーダが気色悪くて仕方ねえ。
目が眩みそうな程の宝石を輝かせ、光沢のある紫色のドレスで着飾っている。
こんな奴にシファレンは殺られたのか。
俺の視線に気づいたのか、ミエーダは俺に話し掛ける。
「お前の名前は?」
「知ってるか?豚が着飾った所で人間にはなれねえって。まあ、人間も豚にはなれねえけどな?」
俺の返答にミエーダは目を丸くしている。
「お前私が嫌いではないのか?」
「嫌い?ああ、嫌いだ。それがどうかしたか?」
ミエーダは何か腑に落ちていないようだ。
見兼ねたジョインがミエーダへ耳打ちをしている。
ジョインはアイツに何を言ってるんだ?
ミエーダはニヤリと笑い標的を俺からギルへ変えた。
「そこの銀髪。私が嫌いか?」
「ああ。今すぐ殺したいくらいだ。」
ミエーダはニヤリと笑い、ギルにゆっくり近付く。
「お前の名前は?」
「……ッ。ギ……ル。」
ギル?
どうしたんだ?!
ギルは自分の口を噛み、血を流している。
「ギル。どうしたんだ?」
俺の言葉はギルには届かない。
ギルは何かに抗っているようだった。
これじゃあ、まるでシファレンと同じじゃないか!
不味い。状況がどんどん悪い方へ進んで行く。
ハッ……指輪。ギルの指輪を外すんだ。
そしたら本部まで磁力で引っ張られるはず。
俺は急いでギルの元へ駆け寄り、ギルの指輪を外す。
すると、ギルの身長は縮み出し、いつもの鋭い顔つきの面影が消えていく。
「へ?」
ギルなのか?!磁力は?!
これって本部に引き寄せる指輪じゃねえのか?
今、俺達に何が起きてる。
「ギル?こちらへ来なさい?」
「!?」
ギルはミエーダの元へ歩き出した。
俺の声は届かなかったのに。
ミエーダの言う事は聞いている。
考えろ。何が。待て。何だこの既視感。
そうだ。
ギルの顔、ピーマンの魅了に掛かった時のジョインとそっくりだ。
ふとピーマンの言葉を思い出す。
__『才を掛けた者の生命力によって持続時間は変わる』__
何の才かは分からなくても、才が原因ならあいつを殺せばいい。
簡単だ。
俺は地面を蹴り、ミエーダの心臓目掛けて手を突き出す。
しかし、突然背後からギルの殺気を感じた、その瞬間、衝撃で地面に打ち付けられる。
「グハッ!」
顔をあげると、目の前に立っていたのはギルだった。
ギル。何でだよ。
何で俺の敵になろうとするんだよ。
今の絶望的な状況に俺は目の前が真っ暗になっていく。
何で……俺だけシンバ死んだの分かってて。
でも悲しんでてもシンバは帰ってこねえから。
俺はやっと取り戻した感情に蓋をして。
ギル。俺と二人でミエーダをブッ倒して、ピーマン助けに行くんだろ?
でもギルは今、俺の敵となってミエーダの為に戦っている。
どこから間違えた。やっぱあの時意地でも止めりゃあ良かったな。
でももう……全部どうでもいいや。
俺は起き上がる気力も湧かない。
すると俺の頬に水が落ちてきた。
見上げると、ギルの目から涙が溢れていた。
その姿に俺は怒りが込み上げてきた。
「おい、ギル。そんな泣くほど悔しかったらな。さっさ戻って来いよ。何、新人に丸投げしてるんだよ。お前何のために強くなったんだよ。ミエーダの犬になる為か?!!」
俺が肩をガッシリと掴むとギルの目に光が戻ってきた。
「俺は情けないな。」
俺は流れる涙を見せないようにギルへ背中を見せる。
しかしミエーダは諦めていなかった。
「ギル。ダメよ。アナタは私のモノでしょ?」
諦めの悪いやつだな。
ギルは元に戻って……
ギルは俺を横切ってミエーダの元へと歩いていった。
バシンッ___
ミエーダは持っていた扇子でギルの左頬を叩いた。
「ダメじゃない。主人の言う事聞かないと。」
は?ギルを叩いた?
「貴方の髪、綺麗で気に入ったのに、切ってしまうわよ。そうしたらアナタの価値は無くなるのよ。いいのかしら?」
ギルは首を横に振り、直ぐさま頭を地面に擦り付けている。
やめろ……そんなギルは見たくねえ。
「そう。分かればいいのよ。」
ミエーダはギルの頭を何度も踏み付け、嘲笑う。
「辞めろ。殺すぞ。」
気付けば俺はミエーダの背後を取っていた。
俺は怒りで上手く呼吸が出来ない。
ギル。俺はお前に勝つよ。
ギルを越える事を目標にここ数日死に物狂いで訓練したんだ。
見ててくれよ。俺がお前を助ける。
ミエーダの首を片手で締め上げる。
「お前の才はなんだ。教えてから死ねよ。」
「み……魅了よっ」
くだらねえ、同じ才はこの世に2人も居てたまるかよ。
「殺す。」
ジョインもコリンも助ける素振りは無い。
コイツら味方じゃねえのか?
「!?」
今まで全く何の反応も無かったギルは俺に向かって蹴り上げる。
俺は後方へ避け、ミエーダとの距離を離された。
「何でだよっギル!!!」
「操られてるからだろ。」
聞き覚えのある声に俺は自分でも驚く程に安堵した。
「ピーマン……!!無事だったのか……」
良かった。生きてた。
拷問でも受けていたのか。
身体中ボロボロじゃないか。
「ピーマン……シンバが……」
「死んだんだろ?」
ピーマン、知っていたのか。
しかし、なんだ……ピーマンの態度。何かが引っかかる。
「ああ。でも、今はギルだ。どうする。」
「死ぬんじゃないか?」
は?死ぬ?何を簡単に……。
もしかしてピーマンもミエーダの才に掛かってんのかもしれねえ。
「おい、ピーマン。」
ガンッ!!__
目の前に居たピーマンは突然、壁へ吹き飛んで行った。
そんな事より後ろからシンバの気配がする。
振り返るとシンバが血だらけでピーマンを蹴り飛ばしていた。
シンバから放たれる殺気に背筋が凍る。
何が起きている。なんでピーマンを助けに行ったシンバがピーマンを殺そうとしているんだ。
「なんだ。死んでねえのか。」
「!?」
その声を聞いた途端俺の心臓は強く鼓動を打つ。
その声はサムグ国で一度聞いた事がある。
__《俺が誰だか分かるか》__
ああ。そうか。お前は最初から……。
俺は全ての状況を理解した。
「お前。名前は。」
「ユーリ。」
「……ピーマンの方が似合ってたぜ。」
俺の言葉にユーリは鼻で笑う。
「なあ、シルバー。お前いつ俺に催眠を掛けた。」
「俺の胸に触れた時から。」
「じゃあ才も奪り出せてねえのか。」
「そーゆーこと。」
シンバはユーリと戦ったのか、大分血を流し過ぎている。
シンバは俺の肩にもたれ掛かる。
「サン。お前の才……俺は分かる……でもそれは本来お前が自分自身で気づかなくちゃいけないんだ……ギルの魅了を解け。それがお前には出来る。思い出せ。」
シンバの言葉に俺は何度も何度も今までの出来事を頭に巡らせる。
俺の才は何だ。
何故、俺はミエーダの才が効かないのか。
何故、俺はシンバの才も効かないのか。
あの時、シンバは多分ギルに才を掛けている。
発動条件は……あの時シンバはギルの頭に手を置いていた。
もしかして……
「あっ…頭……なのか。」
ニヤリとシンバが笑った。
「シンバ。ちょっと俺ギルを助けてくる。」
「何言ってんだ。俺も手伝うに決まってんだろ。」
俺とシンバはギルへ一気に距離を詰める。
ちょっと前の俺はシンバに追い付くのに必死だった。
今は、シンバと肩を並べて走っている。
体が軽い。
シンバはギルを後ろから拘束している。
俺はギルの頭に両手を置く。
俺は手に全神経を研ぎ澄ます。
手のひらから伝わるドス黒い鎖。
……これか。何かに縛られているような。
これを解きたい。
解きたい!!!
一瞬周りの雑音が消え、空気が変わるのを感じる。
ふと脳内にある言葉が浮かんだ。
「解放。」
俺の指先から伝わる感覚。
ギルを縛ってた鎖が粉々に砕け散っていく感覚。
分かる。これが才の発動。




