第25話 太陽の帰還
「シファレンは散々言ってたんだ……。未練っていうのは行動出来なかった者が抱く感情だと。シファレンに未練など残させない。」
ギルは一連の報告書を字が読めない俺にも見せてくれた。
俺……シファレンに会ってたのか。
その時に才を取り出されていたら俺はここに居なかったのかもしれない。
俺……全く覚えてねえけど、シンバ班にシファレンが居たらもっともっと賑やかだったんだろうな。
「でも、まあ俺たちが出来ることは、シファの報告を活かす事だよね〜なら……えっと……どこから入るんだっけ??」
「あぁ。港は正面、国の玄関口にしかないようだ。正面から行ってはリスクが大きい。シファレンの報告書通りに汚染エリアからの潜入がいいだろう。」
ふとシンバへ視線を移すと、シンバの手が僅かに震えていた。
俺はシンバの耳元まで近づき、声を掛けた。
「シンバ。」
俺の顔を見るなりシンバは笑顔を作った。
「なんだ〜?新人が、班長様の心配なんて生意気だぞ〜」
明るく振る舞う姿に俺は釈然としない。
暫く時間が経つと、俺達が乗った潜水艦は、ユアン王国、汚染エリア付近へ浮上していた。
ギルが大きく息を吸う。
「ユアン王国。皆!!死なずに…」
「やめよう。」
俺はギルの言葉に急いで被せた。
「ん?サル、怖いのか?」
いつものピーマンの煽りにも俺は動じない。
「多分、上手くいかない。俺の勘だ。」
俺の言葉に一切の迷いは無い。
「悪いが、サルの勘で俺たちの作戦が左右される訳にはいかない。何よりこれは任務だ。」
ピーマンも珍しく少しも引かない。
それでも俺は自分の“勘”を見過ごすわけにはいかない。
そんな気がするんだ。
「それが俺の才かもしれねえって言ってもかっ!?」
「任務が上手くいかない気がするのでやめます。そんな馬鹿な話はないと言っているんだ。」
俺は理解してもらえない悔しさと自分の勘を言葉で表せない俺自身への怒りで、周りが見えなくなった。
俺はピーマンの胸ぐらに掴みかかる。
「何だ?俺が間違ってるのか?」
間違っては無いんだろうけど……くそ。言葉が出ねえ。
言葉に詰まっている俺を見兼ねたシンバが俺とピーマンの間に入った。
「まあまあ2人とも〜。サン坊、俺たちは何も無謀な事をしようとしている訳じゃない。」
ピーマンを後ろに下がらせ、シンバは俺の方へ振り返った。
俺の視線を逸らさずに真っ直ぐ伝えてくる。
「ギルティーノからの任務は、1.『バツサイとユアン国の黒い繋がりの証拠を持ち帰る』2.『国王の真相を確かめる』。そりゃあ、ずっとこのままって訳にもいかないから、いつかは革命を起こすけど、別にシファみたいに色々飛び越えて革命を起こそうって訳じゃない。何かあったらすぐに撤退〜どう?サン坊。」
シンバは俺が理解出来るように冷静かつ明確に伝えてくれた。
「……分かったよ。」
俺は得体の知れない違和感を抱えたまま、汚染エリアへ上陸した。
「うわーーなんつー変わり映えしねえ景色。そこら中に転がる死体。今まで住んでて気づかなかった若干の臭い。此処に16年……」
俺は約16年間過ごしているであろう汚染エリアの現実に肩を落としていた。
「若干じゃねえだろこれ。」
ん?今の声……ギルか?変な声だな。
なんだあれ。
ギルへ視線を向けるとギルは自分の鼻を摘んでいた。
「大袈裟だよな?ピーマン?あれ、ピーマン?」
「………」
ピーマンは俺の問い掛けに全く反応しない。
なんだよ。まだ怒ってんのか。
「ピーマン。」
「……今は話し掛けるな。息を止めている。」
なんだよ、皆して俺の故郷にさ〜。
「サン坊も苦労してたんだな〜。頭なでなで、してやろうか〜?」
シンバは両手を広げてアピールするように俺を待っているようだが 、俺はシンバを避けて歩き出す。
シンバは行き場を失った腕で、シンバ自身を強く抱きしめた。
「何してんだ?」
「可哀想なシンバくんへシンバくんからのアツい慰め。」
何だよ。皆ここに来たらおかしくなる病気にでも罹ってんのか。
暫く歩き続け、塀の下まで近づいてきた。
「よし、今居るのは『汚染エリア』。国の末端に位置し、普通の者はここへ来る事無し、近寄る事も無しだ。普通は汚染エリアからは出れない。もし、汚染エリアの者が汚染エリア以外で見つかれば即刻アウト。あの世行きだ。」
ギルは任務開始前に地図を広げ情報を整理する。
任務において情報の共有とは極めて重要な事だそうだ。
「汚染エリアから少し中心に入っていくとソウソウ街、セイル街、2つの街がある。そこでは、商売、生産を主軸に生活している一般国民の住居、労働エリアと言ったところだ。一部王都での暮らしが苦しくなり、街へ移る者も少ないが居るみたいだ。皆『都落ち』と呼んでいる。更に内側に」
「あーー腹減ったな。」
俺の集中力が続くはずも無く、無性に林檎が食べたい。
「更に内側に」
「ぐううう〜……」
ギルは俺の腹の音にも構わず話を続ける。
話の腰を折られるのも手慣れたものだ。
「更に内側に、ミエーダが住む、王都ハリー・ボーテだ。主に国のお偉い、芸を生業にしてる者、所謂金持ちが暮らしている。高級装飾品店、高級家具店、高級レストラン、舞台などの娯楽施設、あとは、ユアン王国の名門学校「ハリー・キース」がある。」
一通り説明が終わると、ギルは3人の反応を伺う。
「ほへーーー」
とシンバ。
「………」
無言のピーマン、と俺。
俺たちの態度にギルは深い、それはそれは海底よりも深い溜息を吐いたのであった。
「ち、ちがうよ?ギル〜!別に聞いてなかった訳じゃっ……なぁ??サン坊?キーマン?」
シンバは慌てて俺たちに話を振る。
「報告書に書いてあった事だ。今更反応も」
「キーマン??そんな事が聞きたいんじゃないぞ〜?サン坊、ちゃんと分かったか〜??」
「りんご〜」
俺は走り出し、汚染エリアとソウソウ街の境界の巨大な塀の上へあっという間に到着し振り返る。
「みんなの分のりんご!奪とってくる〜、いや貰ってくる〜!!!」
ギルは呆気にとられていた。
「俺、もう嫌だ。」
弱気になるギルにシンバが励ます。
「頑張れ、班長。」
「班長はお前だ!!!!なんなんだ!この班は!!!」
ギルの声は汚染エリアに響き渡った。
「ほら、後、追うよ〜。」
シンバ達も塀の上へ軽々と到着しそのまま落下するようにストンと街へ着地する。
一方俺は頭の上で手を組んで陽気に歌を口ずさみながらソウソウ街の八百屋目掛けて歩いている。
こんなにゆっくり歩いたことねえな。
「りんご、りんご、りんご〜甘いの以外は捨てちまえ〜♪」
八百屋が見えると、俺は無意識のうちにリンゴを1個手に取り、口へ運んでいた。
「あ、習慣ってのは怖えな。」
自分で一口かじったリンゴを見て、八百屋へ引き返す。
「やっほー」
「サン……かい?」
ここを出てからちょっとしか時間は経ってねえけど、八百屋のおばさんに姿を見せたのが何年前かは昔過ぎて分からない。
「りんご、仲間の分も欲しいんだ。金はねえけど。」
「久々に顔見たもんだ。まあ……随分と……そんな事より、どこで何をしてたんだい?随分と来なかったじゃないか!仲間??良い奴かい?騙されとらんかい?」
質問攻めに合う俺は何から答えたらいいのか分からず一瞬反応が遅れる。
「……仲間は人間。良い奴1、良い奴2、良い奴3だ。くれんのか?」
俺の様子に八百屋おばさんは何故か嬉しそうにしている。
「あぁ、くれてやるさ。それより万事屋にサンが居たって伝えんとね。ちょっと待っといてよ?」
八百屋のおばさんはりんご3個袋に入れ振り返ると、
俺の姿はもちろん、おばさんが今の今まで持っていたリンゴすら消えており、おばさんは腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「っもう!サーーン!!」
俺はりんごを手にソウソウ街の調査をしていた3人と合流した。
「ほれ、りんご。」
俺はギルの口へりんごを押し当てる。
「いみゃ、しゃくしぇんたててゆんだ。あとにしを」
「なに?」
「今、作戦立ててるんだ。後にしろ。だってよ〜」
本当かよ。良く聞き取れたな。
「作戦?」
「あぁ。どうすれば王都に怪しまれずに潜入出来るのか……」
ギルは林檎を頬張りながら、頭を悩ませている。
ん〜ギルも大変だよな。
班長はシンバだからな、そういうのギルに任せっぱなしだもんな。
「変装とかは??」
俺が何気に答えると、ギルの表情は明るくなっていく。
「変装……変装か!!ソウソウ街の住民に聞いたところ、王都ハリー・ボーテには、金持ち御用達の名門「ハリー・キース」がある。そこの生徒として潜入すれば不審がられない。何でも金さえあれば、誰でも入学出来るようだ。ハハッ!そうと決まれば作戦開始だ!!!」
突然の早口にギルの興奮が伝わってくる。
良かった。俺も考えた甲斐があったな。
「いくら〜?」
シンバが尋ねた。
「45000ダースだ。お前達手持ちは?」
ピーマン、ギルの順で答える。
「俺は15000。」
「俺は5000だ。お前達は……」
そりゃあ俺とシンバは決まってるだろ?
「0だな」ま
「0かな」
シンバと俺はこういう時はよく声が揃う。
ギルの表情はたちまち暗くなった。
「金なんて俺が持ってるわけねえだろ。そもそも、ギルだって落ち込むほど持ってねえじゃねえか。ピーマンより遥かに少ねえぞ。」
俺の言葉に更にギルの表情は暗くなっていく。
おいおい。任務大丈夫かよ。
《『ツクヨミのサン』と呼ばれる少年は、運命の分岐点に立っていた。だが、引き返す事はもう出来はしない。》
シファレンが皆の分も取ってくればいいだろ?と聞かれ理解できなかったサンが皆の分の林檎を貰いに行く姿には成長を感じますね。
さて、サンたちはどのように王都へ潜入するのか!
これからの展開をお楽しみにして下さい!




