第1話 俺の名前はサン
俺は生まれた時から一人。だと思う。
はっきりしてないのは、記憶がないから。
小さい頃は、親というものは死んで、俺はここで生まれたんだろう。
そんな感じで思ってた。
今思えば、ここで産んでなくても、捨てられてここに居る可能性が大きい。
でも正直そんなことはどうだっていい。
俺は今日も生きてる。
それだけでいい。
「あーーー腹減ったなー、よし、奪ってこよーーー」
汚染エリアと街を隔てるように建てられた塀は大の大人が何人集まろうと登れる物ではないらしい。
塀の近くには塀を越えられず朽ちてゆく死体が多い。
それを尻目に俺は呼吸ひとつ乱さず登り、塀の向こうの街へ降り立った。
俺以外でこの塀を越えているのは今までで見た事はない。
俺だって別に登りたくて毎日毎日登っている訳じゃない。ここで生きるために塀を毎日登ることを仕方なく!選択しているだけだ。
「あら、林檎がまた一つ無くなってるわ…またサンだね」
「俺んとこもねえ!サンの野郎!毎日毎日懲りずによお!ちったあゆっくり面でも見せてみろってんだ!!」
俺は汚染エリアを越えて直ぐに横並びに並ぶ八百屋と万事屋で林檎と水を奪ると、汚染エリアへ引き返す。
俺は汚染エリアから越えて八百屋と万事屋までしか行ったことがねえ。
どうやら汚染エリアの者が汚染エリア以外の場所に居ると、見つかり次第処刑されちまうらしい。
八百屋の叔母さんと万事屋のおっちゃんが教えてくれた。
だから俺は汚染エリアを出る時は八百屋と万事屋より中心の方へ行ったことがねえし、この国の事もよく知らねえ。
「今日のりんごは甘えな」
俺は林檎を口いっぱいに頬張り、汚染エリアへ帰る途中、前方に大きく手を振る男の姿に気付いた。
「おーい、盗人様ー」
この男は『ジョイン』。なんでも『バツサイ』という組織のメンバーらしく、1年前くらいから姿を見掛けるようになった。
黒色の短い髪に、左耳にはピアスをつけている。
銀色の鷲が紋様の『バツサイ』のエンブレムが着いた如何にも高そうな紺色の生地のセットアップを着用した、ちょっと鼻につく野郎だ。
「サン、いい加減仕事して飯食えよ」
ジョインは呆れた様子で俺へ語り掛けるが俺は歩みを止めない。
「ここで仕事は出来ねえだろ。」
この場を去ろうとする俺にニヤッとジョインが笑う。
「ここではな!!」
「?」
俺は理解出来ずに振り返る。首を傾げ、林檎を飲み込んだ。
「まさかお前、世界はここだけとか思ってねえか??外には色んな人間が色んな仕事しながら生きてる、そしてこの俺様もそうだ。」
ジョインは勢い良く立ち上がり鼻高々に語り出す。
「あーーそういえば、外では有名だって言ってたやつか。いいんだよ。俺はここから出る理由がねえ。元気に生きてられてっからな」
俺は興味の無い話を聞き続けるのは苦手だ。
俺の態度にジョインは深く溜息を吐く。
「はあ〜頑固は誰に似たんだかな……それじゃあ俺はそろそろ行くぜ。最後に国1番のヤンチャ坊主を導きに来たんだがな〜。」
「へいへい。元気でな〜」
俺は振り向きもせずジョインへ手を振る。
「ったく、お前には可能性があるぞ〜!俺には見つける『才』がある…」
離れていく俺を引き留めるように声を掛けるジョインを背に俺は構わず塀を登り始める。
「…俺達友達…だよな。」
塀の上に着くとジョインの声が聞こえたような気がしたが…俺は気にせず汚染エリアへ飛び降りる。
暫くして汚染エリアで昼寝をしていると、街の方が騒がしくしている。俺は汚染エリアの塀を越え、街へ向かう。
気配を消し人混みの中を縫うように歩く。
誰も俺には気付いていない。
あぁ、ジョインが出ていく日か。
ジョインは、この国出身唯一の『バツサイ』らしい。
彼の出立を盛り上げようと国を挙げて盛大に見送る。
どうやらジョインは中央から離れたこんな所まで最後に皆へ顔を出しているのか。
「ジョイン様、悪いやつらをまた締め上げに行くんだろ?連れてけー!!」
「僕も貴方みたいなバツサイになれますか!!!」
やっぱジョインの事、みんな知ってんだな〜。俺が感心しているとジョインは拳を前に突き出し民衆の声に応える。
「才と根性があればな!」
ジョインは最後に言葉を残し、この国を去った。
おーおー眩しいな。
「才」ねえ。最後まで訳分かんねえ奴だったな。
俺が汚染エリアへ戻ってくると、不審な男が3人何やら話し込んでいるのに気付いた。
ん?見ない顔だな?何処から入ってきたんだ?
ジョインの仲間か?
「おい、ジョインなら国を出たぞ」
林檎の芯を吐き捨て、遠くの方から俺は声を掛けた。
「ジョインのこと知ってんのか〜、おい坊主、お前ジョインの所まで案内してくれ〜よっ!」
金色の髪の毛の男が、気怠そうに立ち上がりサンへ近づいてくる。
「ん?いや知らねえ……よ」
コイツと目が合った瞬間…背筋が凍るような感覚になった。
奇妙だな、ここの連中の奴らと何かが違う。
目が合っただけの気迫に押され俺は無意識のうちに後退りしていた。
こういう時は逃げるべし!ってな。
パシッ__
銀色の髪をした高身長の男が、俺の手を掴んで離さない。
「こいつ、才持ちか?早いな。」
嘘だろ。俺が捕まったのか?ここの連中なら俺が動いた事すら気づかないはずだ。それなのにあっさり捕まっちまうなんて。こいつら何者だ?
「いや、面倒だな〜才だけ取って殺そう。」
男達は腫れ物を見るかのような目で俺を見ている。
いやいや、待てよ。殺すな殺すな。物騒だな。折角食べた林檎が勿体無いねえ。食べた林檎の分もひと暴れするか。
俺は拳に力を込めれるだけ込めた。
「喧嘩はあんまり好みじゃなくてだなあっ!!」
俺は銀髪の男の懐に飛び込み拳を叩き込んだ。
「っ!?」
しかし、悲痛にも俺の拳は届かない。
拳を止められた?確かに、喧嘩に自信があったわけじゃねえが、ここの連中なら俺との力の差を理解してるし、俺も理解してる。
だから、皆んな俺から奪ろうしない。
「なんだ、こいつ。力も強い。連れて帰るか。」
銀髪の男が新しい新種でも見つけたかのような目で俺を見る。
「へ?」
俺の名前はサン。
今から人生終了しそうなやつの名前だ。




