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神様が見てる

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「ライア、聖女のブローチがよく似合ってるぞ」

「まぁ嬉しい!高貴な紫はやはり貴族が身に着けないと」

「あぁ、シエラには過ぎた代物だ。教会の奴らを言いくるめるのも簡単だったな」

まるで恋人のように身を寄せ合う二人。ライアの胸元には透き通ったアメジストのブローチが付いている。

「大切なのは聖女の力などというあやふやな物ではなく権威だ。力があろうが、平民ごときが聖女などおこがましい」

「その通りですわ!国の象徴は貴族でなくては!偶然神託に当てはまっただけの平民に務まるものではありませんもの!」

「…しかし、地下室に行けないのは残念だな。アイツの惨めな姿を拝みたかったものだ」

「地下だなんて、私達が足を踏み入れるような場所ではありませんわ。それに、あと一月もたたないうちに処刑される姿を見られるではありませんか!」 

醜く笑い合う二人を背に、中庭を飛び去る。


地下室と言った。そこに、シエラがいる。




リリスは小鳥と感覚を繋げていた魔法を切り、ゆっくり立ち上がる。

「…ふふ、ふふふ」

シエラは聖女を騙ってなどいなかったのだ。全て第一王子と新聖女…ライアが仕組んだ事。言いくるめられた愚かな神官共とすっかり騙された哀れな国民によって、シエラは偽聖女と裁かれ、処刑されようとしている。

フードを被り直して立ち上がり、薬を飲み干すと教会の正門に煙幕を投げつけた。







「侵入者だ!」

「騎士は何をしている!?早く…」

煙幕をばらまきながら教会を駆け抜けていく。鳩に探させているので、構造的に地下が無さそうな場所はスルーだ。

使っている煙幕は強濃度の眠り薬。吸い込めばすぐにでも眠りに落ち、煙幕の持続性も高い。つまり、正門は現在入れないようになっている。入ろうとすればたちまち眠りに落ちるだろう。逆に、正門から出ようとした者も眠りに落ちるわけだ。今ごろ、眠りに落ちた神官どもが山積みになっているだろう。

これは私が配合した物だ。麻酔が足りなくなった時に、液体の物を町医者に卸していた事もある。事前に解毒薬さえ飲んでおけば効果はない。入る直前に飲んだのはそれだ。

しかし、数はそう多くはない。全員眠らせるのが穏便に済むが、そろそろ別の薬を使うことにする。

「なっ、何をしている!早くそいつを捕らえろ!」

騎士達の向こうにでっぷりと太った神官服が見える。2種類目の煙幕を投げると、間を潜って神官に近付いた。

「おい!?お前達、何を…ひっ!」

ドサドサと倒れ込む騎士達の前に呆気にとられた神官の首元にナイフを突きつける。

「地下室はどこだ」

「な、地下…!?貴様、あの女の手先か!?」

「さっさと言え。でないと…」

刃を首に当てると、慌てた神官が叫ぶ。

「ま、待て!分かった、言う!言うから!」








案内されたのは聖堂だった。

聖堂には聖女と神官のみが立ち入りを許されている。他の何人たりとも足を踏み入れることは許されない、神聖な場所。なるほど、第一王子が許されなかった理由も分かる。そういう決まりなのだろう。まぁ、私は今立ち入っているわけだけど。

神官が祭壇に近付く。

「こ、ここだ!この下に地下室が…」

「そこまでだ、侵入者!」

聖堂に駆け込んで来たのは第一王子とライアだった。

「お、おお殿下!助けに来てくださったのですか!」

「あぁ神官長、下がっていろ!こいつは俺が叩き斬ってくれる!」

「エディ様、なんて頼もしいのかしら…!」

こいつは神官長だったのか。

巨体を転がすように第一王子の後ろに駆け寄っている神官長を見る。第一王子は剣を抜き、こちらに向けていた。

「侮るなよ?俺は騎士団長も認める腕だ」

知ってる。王都新聞で何度も見たから。


さぁ、どうしようか。痺れ薬にしようか。眠り薬も残りは少ないがまだある。だけど…


グッと拳を握ると、王子に向かって駆け出す。

「ふん、血迷ったか。死ねぇっ!!」

剣を振り上げた瞬間、ブワッと灰色の煙が広がる。

「ゲホッ、なんだこれは…!」

思わず動きを止めた王子の眼前に煙を裂くようにしてフードが現れる。涙で滲む王子の視界に、リリスは容赦無く肘を撃ち込んだ。

「ぐあぁぁっ!」

助走をつけた肘鉄に、王子は聖堂の外に吹っ飛ばされる。

「エディ様!?…ぐぶっ!?」

続いて勢いに任せライアの頬に拳をめり込ませる。王子同様、聖堂の外に飛んでいった。

「ひっ…ひぃぃぃぃ!!」

神官長は一目散に逃げて行った。増援を呼んでくるだろうか、まぁ良い。

聖堂の向こうを見る。王子とライアは倒れ込んで気絶しているようだ。整っていた顔面は血まみれで腫れ上がっている。かわいそうに、誰が二人にこんな事を。


振り向いて祭壇に近付く。一体いくら使われているのか分からないほど高価そうな祭壇。この下に、いる。

本当ならもっと下準備を積んでおくつもりだった。確実に、穏便に救い出せるように。もっとちゃんと構造も人員も把握して、侵入だって人気がない夜にするつもりだった。

だけど駄目だった。シエラが無実だと知ったから。権威に執着する汚い蛆虫共に陥れられたと知ってしまったから。一秒でも早くシエラを暗い地下から救い出したい、その気持ちを抑えられなかった。抑えようとも思わなかった。


祭壇は大きく重そうだ。人ひとりでは動かせないだろう。恐らく何かしらの仕掛けがあるのだろうが、探す暇が惜しい。ならばどうするか。

光が差し込んでくる。女神の描かれたステンドグラスが、日光に照らされて色とりどりに輝いている。シエラもここで祈りを捧げていたんだろうか。この祭壇の前に跪いて、いずれ自分を裏切る国のために、そうとも知らず祈りを。

ステンドグラスを見上げる。女神がこちらを見下ろすように描かれている。女神様が、見ている。


ゆっくり後ろに下がると、火炎瓶を投げつける。瓶が割れ炎が上がるが、木製ではない祭壇に火はつかない。

防御魔法を展開してから、炎に火薬を投げ入れた。

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