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【SF 宇宙】

ある研究者の幸福な末路

作者: 小雨川蛙

 とある研究者は一つのことを疑問に思った。

 虫には感情と言われるものはあるのか?


 言うまでもなく人間には感情というものがある。

 動物にもまたそれに近しいものがある。

 しかし、虫にはそれがあるのだろうか?


 何せ、彼らはあまりにも他の生物と形が違い過ぎるのだ。

 無論、この研究には先達が居た。

 そして、彼らは一つの答えとして感情には到らずとも命の危険など原始的なもの……つまり、情動を持っている可能性が高いという結論に至っていた。


「本当だろうか?」


 そう思った研究者は生涯をこの研究に捧げた。

 数え切れないほどの虫籠を持ち、数えれきないほどの虫を捕まえて、数え切れないほどの虫が死ぬのを観察し続けた。

 段々と彼は昆虫の動きの中に感情のようなものをあると感じるようになった。

 しかし、彼はそれでも認めることが出来なかった。

 それほどに人間と昆虫には大きな見た目の隔たりがあったのだ。


 そんなことをするなら新しい料理の一つでも考えていればいいのに。

 研究者というのは自らの持つ謎をとことん究明するのが性らしい。

 人々から気狂いの類いと呼ばれようとも彼はその研究をやめることはなかった。


 そして、彼は今。

 幸福な末路を迎えようとしていた。


 数日?

 数ヵ月?

 あるいは数年?

 もしくはもっと昔?


 彼は不意に誘拐された。

 自分より遥かに大きい存在に。

 あまりにも大きくて全容すら理解出来ないほどの存在に。


 それらは研究者を攫い何もない正方形の空間に放り込んだ。

 おそらく彼らの技術で造られたと思われる奇妙な食事と水を定期的に補充する。

 研究者はただそれを食べて生きていたのだ。


 そんな生活の中、彼はふと気づいたのだ。

 これは自分が昆虫にしていたことと全く同じだと。


「つまり、私は今、観察をされているのだ」


 そう理解した時、彼はこの上なく幸福な答えに至る。


「虫にも感情があったに違いない」


 長年の研究の中になかった納得が、今、研究者の心に去来した。

 故に、彼は穏やかな心のまま死ぬことが出来た。




 死んだ研究者を大きな存在が取り出す。


「やはり、この生き物には感情などないようだ」


 あまりにも小さな存在に自分達と同じような意識は存在しない。

 そう結論付けながら、その大きな存在は遺体をゴミ箱に放った。


 遺体は答えを手にした故の満ち足りた表情をしていたが、大きな存在にそれが分かるはずもなかった。

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