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【第三章:ドアを開けた】
四日目の朝、少女はいなかった。
荷物もそのまま。音もなかった。
ノノはすぐに気づいた。
音が“消えた”という事実が、それを物語っていた。
ハルは外に出た。
靴跡、風の流れ、土のずれ。
それを辿って、一つの建物にたどり着いた。
崩れた鉄骨の奥に、一つだけドアが残っていた。
ハルは手を伸ばし、ドアを開けた。
鉄の軋む音。
湿った空気。
その奥に、少女はいた。
ナイフを握ったまま、首に深い傷を刻んで。
傍らに、震えた文字で書かれた紙があった。
「ありがとう」
それだけだった。
二人は黙って少女の体を布で包み、火を焚いた。
仲間の死体には、生きているかを確認するだけだった。
けれど、少女だけは弔った。
ノノは手を合わせた。
ハルは、それを見ていただけだった。
何も言わなかった。