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灰の先へ  作者: ユイ
3/6

【第二章:ありがとう】

少女はほとんど言葉を話さなかった。

だがある晩、ハルが自分の分の食料を差し出したとき、少女はかすかに声を漏らした。


「……ありがとう」


ノノの耳には、確かに届いた。

ハルはその声を聞き取れなかったが、唇の動きでそれを読み取った。


無言で、少女の頭を撫でる。

少女は、目を伏せたまま、ほんの少しだけ笑った。


それが、この戦争で見た最初の笑顔だった。



私は、体が弱かった。

昔から、よく熱を出していた。

だから、逃げ遅れた。

みんなが避難する中で、私は歩けなかった。


兵士に見つかった。

子どもだったからか、撃たれなかった。

代わりに、連れていかれた。


連れて行かれた先には、10人くらいの兵士がいた。

その場所がどこかも分からないまま、私は隅に座らされた。


しばらくして、銃撃戦が始まった。

外からか、中からか、もう思い出せない。

ただ、ひとり、またひとりと倒れていった。


最後には、数人が逃げ出した。

その場を捨てて、音もなく走っていった。


私はそのまま取り残された。

誰も戻ってこなかった。

一夜が明けても、建物の中は静まり返っていた。


逃げようと思っても、力が入らなかった。

立つこともできなかった。

ただ、ゆっくりと、死を待つしかなかった。


そのとき、足音が聞こえた。

外から、ふたつ。


近づいてくる。

遠くから、確かにこちらへ向かってくる音。


誰かが来る。

でも、もう怖くもなかった。


二人の兵士が、目の前まで来た。

小声で、何かを話している。


そのうちのひとり、女性の声がした。


「立てる?」


私は、何も言わなかった。

けれど、ゆっくりと立ち上がった。


それが、答えだった。



私は久しぶりに食べ物を口にした。

美味しくはなかった。

お腹も膨れなかった。


でも、嬉しかった。

私はその夜、火の明かりの隅で、声を出さずに泣いた。

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