第二話
「だ、誰?」
急いで室内灯を点けると、ぼくは、身体を揺すってきたその人の全身を、上から下まで手早く見やった。
茶色っぽいボブカットの髪。
おおきな目、小ぶりな鼻、ぷっくりした唇。
どこかの女子高生らしい、ちょっと着崩した制服姿の、女の子だった。
見るからに"陽キャ""クラスの一軍"といった感じ。……苦手なタイプだ。
「誰って、お前こそ誰だよ」
その子は、腕組みしながらそう言った。そして、キョロキョロと部屋の中を見渡し、
「てか、ここどこだよ」
と、唇を尖らせた。
「どこって、ぼくの部屋だけど」
ぼくがそう答えると、
「だから」
その子は露骨に苛立った表情で、
「そのぼくは誰なんだよ」
と、訊いてきた。
「ええと……」
なにがなんだかわからないけど、
「ゆうきです。福島祐樹」
ぼくは、とりあえず名乗った。
「ゆうき?」
その言葉を聞いた女の子が、目をまん丸にした。
「え、おんなじ名前じゃん」
「おんなじ?」
「おんなじ」
女の子は、自分の顔を指さして、
「私もゆうきって言うんだ。松本有紀」
と、笑ってみせた。人懐っこい、あどけない笑顔で、ぼくはなんだか照れ臭くなった。
「で」
気を取り直して、ぼくは彼女に訊ねた。
「その……ゆうきさんは、どこから入ってきたの? 」
「入ってきた?」
彼女は、また、不機嫌な貌になった。表情がくるくると変わる子だ。
「人を泥棒みたいに言うな。目が覚めたら、ここにいたんだよ」
「目が覚めたら?」
その、素っ頓狂な発言に、ぼくはつい
「あの……なんか、お酒とか変な薬とか飲んだんですか?」
と、訊いてしまった。
「飲むか、そんなもん」
間髪入れずに、彼女はそう返した。
「……私だってわかんないよ。とにかく、目が覚めたら、ここにいたんだよ」
そうか細い声で答えると、彼女は、下を向いて黙りこくった。
「と、とにかく起きますから」
ぼくは、彼女にそう声を掛けた。
「えっと、そこの椅子ににでも座っておいてくださいよ」
ぼくはそう言って、とりあえず、トイレに行くため起き上がった。