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第89話 狂宴

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆異形神の信奉者を探す。

◆第六層を攻略し先遣隊を見つける。

「謀反だ、謀反人だおぼぼぼあぁ!」


 口から黒い汚泥を噴き出しながらマクベタスが呻く。その様を見てさっきまで食べてた料理が逆流しそうになる。


「謀反だ!」

「反逆者を捕えよ!」

「反逆、反逆ぅぅぅぅ!」


 マクベタスに呼応して周囲がようやく動き出した。近衛騎士が剣を抜く。給仕が走る。侍従が転げる。悲鳴と嬌声を混ぜながら騒ぐ彼らは誰も正気でない。


「やはり戦いになるか」


 ジェイコブはマクベタスに迫ると剣を一閃、その首を飛ばすと見届けもせず向き直る。


「……っ」


 あのマクベタスは明らかに人間じゃないけど躊躇なくやった。ジェイコブという男の鋭利な一面を見た気がする。


「さあ来るぞ」

「結局こうなるのかよ」

「ウィル君とアイリーンはこっちに!」


 近衛騎士と衛兵が迫りすでに乱戦へ。俺たちは自然と各パーティーごとに集まって迎撃する。


 ガロが近衛騎士の一人と相対した。鋭い剣はガロの盾に防がれ、反撃の斧と剣が激しく打ち合う。


「ヘッ、この剣筋マジで近衛の剣だな!」


 やはり、腕前はギルバートと遜色ないか。パワーがあるだけこいつらの方が強いかもしれない。


「ガロ、下がれ!」


 その言葉でガロが飛び退くと、すかさずホセが魔法を連発。だが近衛騎士は石でも弾くように剣で魔法を捌いてしまった。


「相変わらず厄介な剣だ」

「スリャアァァァ!」


 そこに割って入ったのはティタン。あのごっついパワードアームで近衛騎士を掴むと、天井へ向け投げ飛ばした。


「すげっ……!」


 近衛騎士が宙を舞い大広間の高い天井に突き刺さる。


「どうした終わりか!」

「下りてこねえな」


 さすがドワーフ自慢の技術か。他にも矢を複数発射する連弩や回転する刃など、変わった武器で敵兵をなぎ倒していく。


「うぷっ……!」


 そんな勢いが急に止まった。ティタンたちドワーフが苦しそうにうずくまる。


「どうした?」

「腹が……」

「食べ過ぎだバカめが」

「ガホッ!」


 ――ティタンの口から大量の血が吹き出した。


「ティタン!?」

「ゴホッ、エリアル、お前らは何ともない、のか?」

「何も起きていないぞ。まさかあの料理に……」


 振り返ったエリアルが俺たちを見る。……こっちは何ともないんだけど。耐性の高いアイリーンはともかく、俺やガロは無事、セレナさんは食べてない。


「賢者ホセ、毒はないと言ったではないか?」

「間違いなく毒性のある物質は検知されなかった。だとすれば……」

「考えている場合か!」

「エリアル」


 俺の方からエリアルを宥める。ホセは必ず答えを出すはずだ、ここは考えさせよう。


「ホセを信じて今は味方を守ろう」

「……ちぃっ」

「アイリーン治療を頼む!」


 アイリーンがティタンたちの治療に当たる間、俺たちで円陣を組んで敵を防ぐ。主にガロやセレナさんたちが防ぐので、俺は援護しつつ“潜行”して周囲を観察しよう。


 ――意識を飛ばしてこの大広間を俯瞰した。周囲に湧く兵士たち、蠢く侍従たち。その間で戦う仲間たち。……転がってるマクベタスの頭部。

 マクベタスの顔をもう一度確認してみるが、やはり俺の養父とそっくりだった。俺がエレア王子とそっくりで今度は養父まで。ここまでくると偶然で済む話じゃないぞ。


「――!?」


 マクベタスの目が開いた。それだけじゃない、体の方が動いて頭を拾い、接着。


「皇帝が――」


 立ち上がっている。未だ体から汚泥を垂れ流しながらマクベタスが俺たちを睨んでいる。


「死にぞこないが、茶番劇はここまでだ」


 ジェイコブと<白の部隊>がマクベタスに向かおうとするのを俺は止める。


「行くな!」

「指図は無用」

「あれが番人だ!」

「な――」


 そうに違いない。皇帝という立場や首を斬られても死なない特性。そして場を支配する存在感。第六層の番人はあのマクベタスだ。


「謀反人どもめ。帝国は(たお)れぬ。帝国は滅びぬ」

「滅びぬものなどない」


 エリアルが言うや否や小瓶を取り出し、蓋を開けると周囲に爽やかな風が吹き渡った。そして空中に何かの影が浮かび徐々に色を濃くしていく。


「精霊魔術よ、離れた方がいい」


 セレナさんが俺の肩を引く。確かに何かヤバそうだ。


「風の精霊よ、その力を借りて邪悪なるものを討ち果たさん」


 エルフたちの言葉に応えるように精霊が舞い、マクベタスに向け突風が吹く。テーブルや料理が散乱、そして近衛騎士たちを切断していく。


「風の刃か……!」


 魔法の中でも精霊の力を借りるものは強力で、それがエルフ族の強さの一因と聞いたことがある。そんな魔法がマクベタスを襲った。


 豪奢だった皇帝の衣服が八つ裂きに、斬り飛ばされた腕や脚が転がりマクベタスは倒れた。


「やったか?」

「まだだ、首を斬られても生きているぐらいだぞ」


 間髪入れず追撃の構えをとるエリアル。だが問題は違う所で進行していた。


「ちょっと、ドワーフたちが治らないんだけど!?」


 アイリーンの悲鳴のような叫び。そのかたわらでティタンが血を吐き続けている。


「アイリーンでも治せないの?」

「解毒が効いてないのかな、体を治してもすぐ吐いちゃう」

「ぐえぇ、何とか、ならねえのか……」


 ドワーフたちの止まらぬ出血が床を赤く染めている。


「ウィル、ガロ!」


 その時ホセが俺たちを呼ぶ。


「前に私が作った護符は持っているか!?」

「それなら懐に忍ばせて――うわっ!」


 黒くなってる。ホセ特製の護符、危険から護ってくれるとか言ってたけど。


「分かったぞ、これは呪いだ」

「それって、料理を食べた人が呪われるってこと?」

「そうだ、君たちは料理を食べたが護符が身代わりとなり、ドワーフたちだけが体を蝕まれたのだ」

「ならアイリーン、解呪の魔法だ!」

「了解ー!」


 しかしどういう仕組みというか仕掛けなんだ。……ホセの話だとマクベタス1世は急死したとか。その原因ははっきりしないが毒殺という噂は聞いたことがある。


 問題はこの迷宮が異形の神、夢幻の柱ナイメリアによるものという仮説。ならばこれは一種の夢か、料理と死がつながる悪夢なんだ。


 そう考えればそれっぽい。第五層のデュラハンは霧の中で襲い来る敵という悪夢。第四層は激しい戦争の悪夢。第三層は先の見通せない暗闇の悪夢。それより上も多分そんな感じだろう。


「そうなると、ちょいマズくなってきてるぜ」


 ガロの深刻な声。振り返ると<白の部隊>が膝をつき苦しんでいる。元々純白だった装備は黒く汚れていた。


「あの汚泥も呪いを被るみてえだ」

「いつの間にあんな汚れて……返り血か!」


 斬り伏せた衛兵や近衛騎士から血の代わりに汚泥が流れ出ている。戦うほどに呪いが降りかかるって訳だ、確かにこれはマズイ。


「……小癪な奴らめ」


 そうしている間にマクベタスが立ち上がっている。失った手足から汚泥が流れ、それがスライムのようになって体を支えている。


「殺せ!」


 マクベタスの号令に応え、兵士だけでなく給仕や侍従たちまで俺たちを囲む。


 その頭が急に膨れたと思うと弾け飛び、中からまた汚泥が飛び散る。そして大広間の入口から軋むような音が。


 扉が押し広げられ黒い濁流が流れ込んでくる。臭気と怨念を含みながら、あらゆるものを押し流して。

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