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第84話 集結

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

 エドウィン皇太子が迷宮へ向かう。伴うのは親衛隊の兵士たち、後に続くのは色とりどりの軍隊と冒険者、戦士たち。


 かつてない大部隊による迷宮攻略である。今回も前の合同作戦のように転移魔法が用意されたが、食料など必要な物資も膨大な量になる。そのため転移陣は物資輸送に専念し、冒険者たちが軍隊を先導して下層を目指すこととなった。皇太子自身は先に五層へ飛び、そこに拠点を築いて大探索の指揮を執るらしい。


「よいか貴様ら、必ずや皇太子殿下をお守りし迷宮を攻略せよ! 最深部には貴様ら帝国の勇士たちが先んじて到達するのだ、よいな!」


 宰相のセルディックが兵士たちを叱咤する。その言いぶりに号令を挙げて応える者もいれば眉をひそめる者もいた。


「オレたちには関係ねえがな」


 ガロがぼやきが聞こえたか、セルディックがこっちに剣幕を向ける。


「お主らもオーウェン侯爵家の戦士であろう、殿下に尽くすのだぞ」

「へいへい。まあ皇太子は悪い感じじゃねえから手伝うけどよ」

「セレナさんも元々皇太子の側にいたしね」

「ん、まあそうだね」


 皇太子の親征は確かに士気を高めたと思うけど、その一方で何やら憶測も生んでいた。曰く、「皇太子は帝都地下の秘密を他人に知られないように自ら赴く」とか「もっとも重要な宝が隠されている」とか。


 帝都の群衆がただならぬ雰囲気で行軍を見守る。その兵士たちはけして数多くない。迷宮という空間に雑兵が溢れても逆効果だ、潜るのは選りすぐった精鋭のみ。その面構えはいずれも歴戦の風格を漂わせていた。


 それとは逆なのが冒険者たち。もちろん気合の入った連中が多いけど、これが稼ぎ時と有象無象の冒険者やモグラたちが後に付いて行く。ある種のお祭り騒ぎみたいだな。


「二層のチンピラたちは鳴りを潜めてるらしいぜ」


 迷宮二層は脛にキズのある者たちがたむろしてたからな。そこに各国の軍隊が来るもんだから多くが退散したそうだ。


「あれは例の<ユリシーズ>のメンバーだな」


 <冒険者ギルド>の有名どころはほとんど参加しているし、私設ギルドも精鋭ぞろい。<魔術協会>の<ライブラ>、<クラブアーマー>、道中の工事に備えて<迷宮ビルダーズ>等。やる気のなかった<出会いの旅団>も全員じゃないが参戦するらしい。


 各国の軍隊もかなりの威容を誇る。獣人の突撃戦士部隊、エルフの精霊魔法隊、ドワーフの機工戦士団。


 そこに俺たち<ナイトシーカー>の名も加わるわけだ。


「おう、お前たちは会議にいた奴らか」


 不意にドワーフの戦士が声をかけてきた、あの時ゴッツを連れ帰った女だ。


「どうもお嬢さん。君は確かゴッツ陛下のお孫さんでティタンだね」

「あーもって回った言い方はいいよ。あんたユースフだかホセだかいう人でしょ?」

「ほう、我々のことは聞かされているようだね、話が早い」


 ティタンという女、なんだか装備がすごいな……。武骨でいて堂々としたドワーフ製の鎧、目を引くのは片腕だけ巨人の如く巨大なことだ。


「コイツが気になるか? うちらの技師が造った『ギガントアーム』さ」

「それはドワーフの機械仕掛けだね」

「そう言った方が分かりやすいか。手を入れると自在に動くんだぜ」


 四層のドワーフ要塞で戦ったガーディアンを思い出すなあ。そういえばアイツは破壊できなかったから、今もあの深部で扉を守っているのだろうか。


「こいつで迷宮の魔物なんざぶん殴ってやるさ」

「ハハ、頼もしいなあ」

「そういうお前たちはどうだ、五層を攻略したんだろ?」


 ティタンの鉱石のようなクリっとした目が見上げる。俺としては集まった精鋭たちに期待したい所なんだけど。


「安心して、このウィル君がスパっと解決しちゃうから」

「ちょ、セレナさん」

「こいつかぁ、まあ実戦で証明してくれよな」


 訝しんでるけど嫌味のない人だ、一緒に戦い抜けたらいいな。


 ……と思っていた所に別の一団が通りかかる。エルフの魔術師たちだ。ドワーフたちと同じ精霊種に分類されるがその雰囲気はまるで別物。

 特に目立つ一人のエルフ、その目がこちらを鋭く睨んだ気がした。


「な、何さあいつ感じ悪い」

「エリアルだな、ファリエド様の甥だよ」

「ティタンは知り合い?」

「幼馴染って奴さ。目付きが悪いのは昔からなんで気にするな」


 ……そうは言うけど、あの目はジロリとセレナさんを見てたような気がする。ハーフエルフのセレナさんを。


 ドワーフとエルフの軍勢を見送った俺たち。そろそろ見物も十分かと思った頃、すぐそばで驚きの声が上がった。


「まさか奴らが」


 セルディックが顔を強張らせる。視線の先には白を基調にした装いの一団。


「何者でしょうか?」

「……大聖堂の聖騎士、中でも最強硬派で知られる<白の部隊>だ」

「強硬派……」


 その<白の部隊>、身なりも綺麗で整然としているが、周囲の反応は歓迎的とは言えない。


「通称“邪教狩り部隊”。大聖堂が絡むと厄介なことになる」

「呼んだのではないんですか?」

「勝手に来たのだ」


 大聖堂……アイリーンの修行していた所だ。横目で彼女を見るも表情は伺えない。


「誰か来るぞ」


 白装束の一人がこちらへ歩み寄ってくる。指揮官クラスか、一際荘厳な装いだが顔にある生々しい傷跡が目を引く。


「宰相のセルディック殿であらせられるな。自分は大聖堂より派遣されたジェイコブという者です」

「この件で大聖堂に話を伺った覚えはないが」

「それはもう、お声掛かりがないため自発的に参りました。何しろ国家の危機ですので」


 このジェイコブという男、優しい笑みを浮かべているが油断ならない。そんな気配が漂っていた。


「我々はすでに重要な情報を掴んでいます」

「情報とは?」

「しばらく前に邪教徒を捕えました、異形の神々の信奉者です」

「異形の……」

「近年、奴らの活動は水面下で活発化しています。その隠れた拠点を見つけ信者共を拷問した所、奴らの危険な計画が明らかになりました」


 計画、この重要なタイミングでか。


「奴らはこの大探索に仲間を紛れ込ませました」

「何だと?」

「その狙いまでは分かりませんが、そ奴らを摘発するために迷宮へ同行させていただきましょう」


 ……何てことだ、この大部隊の中に敵が、異形神の信奉者が紛れているだと?


「さて、久しぶりだなアイリーン。帝都で何をしているかと思えば冒険者の真似事か」

「ドーモー」

「だが丁度良い、この大探索は重大な作戦となりそうだ。聖女の名に恥じぬ働きを期待する」

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