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第83話 伝説の三人

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

「こちらにエレア王子をお連れした。ご挨拶を」

「え、エレアです」

「っ……」


 皇太子の肩が震えるのが見えた。いいのかよマジで。


「エレア王子か、大きくなったものだ」


 エルフの王ファリエドが立ち上がり歩み寄ってきた。聞いた話じゃ四百歳前後、その外見は人間で言えば初老といった風情か。

 ホセの評によれば、エルフの中でも抜きん出た才の魔術師。魔王と帝国の時代を生きた伝説そのものだ。


 そのファリエドが間近である。俺の目には人と言うより、絵画の中から出てきたような非現実的存在に見える。神秘的と言われるエルフの中でも別格じゃないだろうか、俺の見てきたエルフが主にセレナさんだけど。


「前に会ったのを覚えているかな?」

「は、はぁ」

「人間の成長とは速いものだ、たった数年でもう大人ではないか」

「ッック」


 ホセの奴、小さく笑ったな。


「顔をよく見せてくれ。……なるほど、勇者エレアの血が流れている」

「あの、もう、その」

「クックク、プククククフフ……」


 堪えきれなかったか、ハイ終了。


「俺はエレアではないのです」

「なに、違う?」

「ハァハァ……王子と似ているが別人さ。ウィルという冒険者だ」

「な、え、あん?」


 神秘的な老紳士のファリエドが申し訳ないほど真顔になっている。そして……。


「ユースフ、貴様……」


 ひぃぃぃ怖い。今にも破壊魔法ぶっぱなしそうな顔になった。


「彼が第五層の番人を討伐した英雄なのだ」

「こんな少年が?」

「本当なのか?」


 皆信じられないのも無理はない、そもそも俺一人で倒した訳じゃないし。 


「そしてこちらが本物のエレア王子」

「皆様よろしくお願いします!」


 王子も来ていたか。エドウィンが立ち上がると王子の肩に手を置いた。


「この場の皆に話しておきたい。私、エドウィンはこの大探索の陣頭指揮を取らせていただく」

「陣頭指揮、ということはまさか」

「迷宮に入る」

「皇太子自身が!?」


 これには誰もが驚いた様子だ。俺も初耳だよ。


「ついては、もし私が生きて帰らなかった場合はこのエレアを皇帝とする。皆の者、帝国との関係にはそれぞれ思う所があるだろうが、我が子と廷臣たちが責任を持って応じるであろう」



***



 会議は終わった。俺の登場に意味があったのか分からないが、一応話はまとまったようだ。


 お歴々の方々はそれぞれの野営地に帰った。今は俺たちの他、皇太子と王子、そしてファリエドとゴッツが残っている。


「自ら迷宮へ赴くか、思い切ったカードを出されたものだ」

「ファリエド殿には蛮勇と思われるやもしれぬが」


 危険だがエドウィンも熟慮の上だろう。自ら死地に赴くことで覚悟を示し行動を促す。同時に迷宮内では皇太子という立場から主導権を握り、また不意な状況にも直接判断を下せる。


 そんな決断もエレア王子が後に控えていればこそか。まだ幼い両肩に大きな責任を負うことになってしまったな、顔が似てるだけの俺だけど応援したくなる。


「……ゴッツじいちゃん起きないね」


 ドワーフの王様ゴッツ、結局この会議中ずっと寝てたな。そのゴッツの顔をホセがぺちぺち叩く。


「起きたまえ、ゴッツ」

「寝かせておけユースフ、ここまで来るにも大変だったのだ」


 ファリエドが側に立った。かつての勇者パーティーの生き残り三人が並び立っている。


「あのー、ユースフっていうのは」

「探求者ユースフ……この頭でっかちの本名だ。今はホセだったか」

「えっ“三賢人”ってそれは」

「全てこいつの別名だ」

「正体がバレそうになる度に増えてしまったのだよ」


 全部ホセ。


「でも私はお前ほど頭でっかちじゃないのだよファリエド」

「というかさっきのは何だユースフ、私を騙しおって。何が王子ですだ」

「皆を和ませようとした協力プレイだよ。だいたい服装を見ろ、王子がこんな冒険者みたいな服を着るかね?」

「人間種の服装に詳しくなどない」

「そういうお前、服のセンスが二百年前と変わってないのさすがエルフって感じだな」

「貴様こそ未だに悪趣味なローブを身に着けて、黒魔術師か」

「性能優先なのだよ」


 数百年生きてる奴らの会話じゃねえな。


「しかし本当に起きないなゴッツ」

「グゥ…………」

「ちんちくりんドワーフ」

「誰がちんちくりんじゃあ!?」


 起きたよ。


「……むう、ここはどこじゃ、お前は誰じゃ?」

「帝都の近くだ。そして懐かしのご対面なのだよ」

「この声、どっかで聞いた気がするのう……」


 ファリエドが覆面をむしり取ると骸骨が露わになる。


「ほね……」

「それユースフ、しっかり目を覚まさせてやれ」

「久しぶりであるなゴッツ、よく生きていたものだ」

「……おま、おまえ、グハハハハハハッ!」


 声でっか。このしわしわの老体からよくこんな笑い声が出る。


「ユースフッ、なんじゃお前その顔は死んどるじゃないか!!!」

「生きとるわ、お前の方が先に死にそうではないか!」

「長命種に生まれたかったーとか言っとったが、そんな格好になってまで往生際の悪い奴、グヒャヒャヒャゲホッゲホッ!」


 そろそろ止めよう、この爺ちゃん死んでしまう。


「ホセそのへんにしよう、体に障るから」

「おおんその顔、お前がエレア王子か?」

「それは向こうです」

「じゃあお前は皇太子の隠し子か?」

「そのネタはもういいから」


 ダメだ、この老いぼれたちじゃマトモな会話にならないぞ。


「本当にこのジジイ共で魔王を倒したのか?」

「ガロ、口の利き方!」

「いや結構」


 セレナさんが焦るけど、それをファリエドがやんわり制した。


「もう恥は十分かいた、威厳を取り繕っても仕方ない」

「そ、そうですか」

「ユースフ、いやホセ。今はこの者たちと行動を共にしているのだな」

「そうだ。彼らのおかげで五層の壁を破ることができた。そして迷宮の謎を解き明かすこともできると思っている」

「迷宮の謎、か」


 ファリエドの翡翠(ひすい)のような瞳が俺たちを見つめる。その視線が俺の目と合った気がした。


「ホセが言うなら信頼に足る者たちなのだろうな」

「陛下」


 テントに入ってくる人がいた。目付きの悪いエルフの男ともう一人はドワーフの女。


「お帰りが遅いので迎えに上がりました」

「すまぬ、少々話し込んでいた」

「ホレ爺ちゃん行くよ、立てる?」

「心配いらん歩けるわい。では皆の衆よろしくな」


 ファリエドとゴッツ、それぞれお迎えと一緒に退出していった。エルフの男は何かこっちの方を睨むように見てたけど……。


 

***



 兵士と物資が行き交う喧噪の中、ファリエドは野営地へ戻る。その足をしばし止めて振り返ると、別方向へ歩くホセたちの姿が見えた。


「――ホセ」


 ファリエドは他人に聞こえぬ念話を飛ばす。それを受信したホセが軽く目を向けた。


「何かなファリエド?」

「結局、あの若者はどういうことなのだ?」

「それはウィルのことか」

「気付いているのだろう、何故彼を連れて行く。真実を話さないのか?」


 遠くに見えるホセがやれやれと言いたげに首を振った。


「ファリエド、お前は変わらないなあ」

「お前は変わり過ぎだ」

「真実とは他人に教えてもらうより、自分でたどり着くべきものなのだよ」

「……それが例え残酷な真実であってもか?」

「いずれにせよ運命からは逃れられぬ。コインの裏表どちらが出るかは神々に託す」

「……善と悪、どちらの神が微笑むだろうな」

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