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第77話 乱入者

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

「ちっ」


 舌打ちの音。振り返るとクロエだよ、怖い。


「おうおう、楽しそうにやってるじゃないか」


 侯爵家の屋敷にドカドカと入ってくる男、見るからに貴族のようだが態度がでかい。その後ろには使用人らしき男たちが荷物を抱えながら付いて来る。


「クロエ、あれは何?」

「ベオルン。帝国宰相の息子です」

「宰相……」


 皇太子の側にいた男を思い出す。なるほど名門の御曹司か。


「ようクロエか。さすがに今日はめかし込んでるな、似合ってるじゃないか」

「ありがとうございます。ですがベオルン様は招待されていないはず」

「マリアンを呼んでくれ、俺が来ているとな」


 会場がざわつく。気配を察してかベッシやケヴィンがいそいそと駆けつけた。


「ベオルン、皆が驚いているじゃないか。まず落ち着きなさい」

「ケヴィン殿、こう見えて冷静ですとも。ですが言いたいことはあります」


 ベオルンの目がチラリと光る。なるほど不満を抑えていますという目だな。


「ベオルン!」


 そこで奥からマリアンが出てきた。


「よおマリアン、遅れちまった。冷たいお前のために、わざわざプレゼントを選んで来たのだぞ」

「……招待状を送らなかったことが不快でしたら謝罪します。ですが今日は身内だけ集めた小さなパーティーなのです」

「俺が身内じゃないってのか? 婚約者なのに?」


 婚約。婚約。それは結婚することが決まってるってこと?


「彼が勝手に言っているだけです」

「どういう状況なのクロエ?」

「彼の父、セルディック宰相から当家に申し入れがあったのです。マリアン様を彼の妻にもらいたいと。ですが家中が立て込んでいたこともあって、お嬢様が成人するまで返事を保留していました」


 立て込んでいた、というのは当主の病気や息子たちのことなど色々だろう。


「そうしているうちにジョン様も亡くなられて状況が変わりました」

「……侯爵令嬢だったマリアンが女当主になると」

「そうです」


 貴族同士の結婚……よくある話だろうけど、マリアンが他家に嫁げばオーウェン侯爵家はどうなってしまうのか。


「……そういえばケヴィンさんに子供は」

「ご息女が一人、今は他家に嫁いでおられます」

「他に候補はなしか……」

「一応、家同士の交流は長いのですが。それもあってか、ああやって婚約者面するのです」


 そしてマリアンも成人、そのパーティーに招かれず内心不満を溜めながら押しかけてきたわけだ。


「しかし何だアレは?」


 ベオルンの目がこっちに向く。いや、俺よりもっと後ろの方か。


「俺を呼ばなかったくせに犬や耳長を屋敷に入れているのか」


 ガロとセレナさんのことか、面倒なことになってきたぞ。


「彼らは私が立ち上げたギルドのメンバーです」

「ああ、帝都で何かやってるんだったな。だがもうお前は忙しい身だ、遊びは程々にしておけ」

「遊び」

「それより両家の架け橋について語ろう。お前は俺のものになれ、侯爵家は別に方法を考えよう」


 一人で話を進めるベオルン。その一方でガロとセレナさんが玄関に向かう。


「お嬢さん、楽しいパーティーだったぜ。この辺で失礼」


 ガロは見た目に冷静だけどセレナさんはガンつけてる。酔った勢いで暴れそう、それを抑えるようにガロが腕を引く。


「待ってくださいガロさん」

「いやいや気にせず、皆さん楽しんで」

「ガロ、そう急ぐんじゃない」


 マリアンとベッシが引き止めるも、ガロの顔は「慣れてるよ」と言いたげだった。怒りというより諦め。人種間の壁、昔より薄くなったとはいえ両者を隔てる。そんな世界だから私は。


 だがベオルンの嘲るような声が追い打ちをかける。


「行かせてしまえ。今度は来る場所をわきまえるんだな野良犬」

「――っ」


 ニヤリ、と笑ったベオルンの顔が弾け飛ぶ。同時に鳴り響いたのは人を打つ音。目が点になる。それがマリアンの平手打ちだと理解するのに時間を要した。


「私の仲間を侮辱しないで!」


 会場に響く怒声。マリアンが身を震わせ怒っている。彼女のあんな姿は初めてだ、きっとこの場にいる全員が。


「はいはいそこまで。二人とも酒が入ってますね」


 硬直した場を割ったのはメイド長のキャサリンだった。堂々たる巨躯と落ち着いた態度でベオルンを下がらせる。


「ベオルン様、素晴らしいプレゼントは謹んでお受け取りいたします。お嬢様が落ち着かれましたら今夜のことも含めお詫びいたしますので、この場はどうかお引き取りを」

「ま、待て、俺は殴られたんだぞ!」

「キャサリン、こんな物受け取りません」

「お嬢様、プレゼントはプレゼントでございます。そしてベオルン様、当家が服喪中であることお忘れではありますまい。どうかご理解のほどをお願いいたします」


 言いながらベオルンをぐいぐい玄関に押しやっていく。強い。


 扉の閉まる音が事態の終わりを告げた。未だ静まり返った会場、そこにケヴィンが腹から声を響かせる。


「お騒がせしました皆様。パーティーはまだ半ば、酒も料理も十分にございます。今宵は姪マリアンの成人と新たな一歩を共に祝い、そして亡くなった親族たちを偲びましょう。ですが飲み過ぎにはお気を付けください」


 楽団がいそいそと準備をする。今度はダンス用のものと違い場を和ませる穏やかな曲。皆も気を取り直して食事と談笑を再開した。

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