表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/164

第68話 セレナ

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆第五層を攻略する。

 息を潜め気配を殺す。何度も繰り返してきた所作で周囲に溶け込む。


 樹上から辺りを見回した。振り切ったデュラハンたちは見えない。いくらかは時間を稼げるがそれも長くはないだろう。この間に味方を立て直してくれることを祈る。


 ……ウィル君には無事でいてほしい。「セレナさん」と呼んでくれる弟のような少年。私が勝手にそう思っているだけだけど、この短い間にすっかり情が湧いてしまった。あの未熟なりに懸命に努める少年が好きだった。


 彼の能力を当てにしている面は確かにある。彼には他の人にない不思議な力がある、それはきっと多くの人の助けになる資質だ。そして彼自身も幸福になってもらいたい。


 ……来た。デュラハンたちは音もなく接近してきた。頭のない彼らが何を見て聞いているのか謎だけど、理屈を超えた方法でこちらを探しているのだろう。

 それでも簡単に死ぬ気はない。できるだけ時間を稼ぎ味方を一人でも多く救えれば。


 味方か、ハーフエルフの私に味方はほとんどいなかった。エルフからは同族とみなされず、人間種からは憎まれた。母と二人ひっそり隠れ暮らす日々。


 そんな中で自然と裏街道の人々と接触を持つようになった。そこで私は剣術とイケナイ技のイロハを教わり、ちょっと口にしにくい悪さにも手を染めてしまった。


 それが今は気の良い仲間に出会えた。ここで失敗したらもう会えないかもしれないけど、せめて奴らに一太刀浴びせてやりたい。


 魔法銀の剣に炎の魔法を込めると赤く熱を帯びる。相手が霧に化けようとこの刃なら傷つけられるはず。


 木の上で体勢を入れ替える。真下では五人のデュラハンがこちらを探している。息を殺し襲撃の時を待つ。……今だ。


 一人離れた位置にいるデュラハン、その頭上から飛び降り剣を突き刺した。手応えあり、デュラハンの体が煙を上げつつ崩れ落ちる。


 一体撃破、いや簡単には死なないのかな。ともかく他のデュラハンたちが気付いた。

 たちまち詰め寄り剣で襲い来る。でも落ち着いて、バックステップで回避した後さらに宙返り、頭上の枝を蹴って着地、そして素早く距離を取る。


 剣を交える必要はない掻きまわせ。帰還の巻物は私の懐にもある、ギリギリまで奴らを引き回してやろう。


「うっ――」


 心臓が止まるかと思った。逃げた先にデュラハン、目の前にいる。あれ、お腹が熱い。いや痛い。デュラハンの剣が私を貫いている。

 やられた? でも後ろに五人、すでに倒した数が二人で合計七人。まさか八人目のデュラハン?


 ――違う、このデュラハンには焼かれた跡がある。それもステファニーの魔法で縛るように焼かれた筋が残っている。


 咄嗟に振り返ると五人のデュラハンがいた。そのうち一人は私が刺した奴。まさか、最悪の考えが頭に浮かぶ。こいつらに死とか消滅という概念はないんじゃないの?


 ダメだ、戦っても勝てない。時間稼ぎも限界だ、巻物を使おう。

 剣を振り払ってどうにか逃れると、懐から巻物を出して急ぎ紐解く。帰還――。


「あっ」


 逃げた先にもう一人いた。これで七人、目の前に剣。

 一瞬で身体を投げ出し逃れる。でも激痛、手から巻物がこぼれる。これで逃げる手段はなくなった。


 お腹からはジワジワと血が流れてる。奴らそれでも、いやだからこそ無慈悲に迫ってくる。追撃、剣で弾く。治療している時間はない、防ぎ、逃れ、距離を稼ぐ。


 ……そろそろ終わりかな、格好つけたのにこの様か。ウィル君、皆、悲しんでくれるかな。ゴメン私はここまで。


 ――ッ。


 光が突き抜けた。いくつもの光の弾が飛んでデュラハンを撃つ。これは魔法? まさかアイリーン?


「セレナさん!」


 声が聞こえた。あの少年の声が。ああ――。



***



 うずくまったセレナさん。危険だ。それをデュラハンが取り巻いて……七人いる? なんで?


「アイリーン!」

「任して!」


 聖なる光の弾を乱れ撃ち、デュラハンを攻撃するアイリーン。それを奴らは避けたり剣で弾いたり、相変わらず小憎らしい腕だよチクショウ。


「そのまま牽制して、俺がセレナさんの所へ行く!」


 姿勢を低くして走る。アイリーンの弾幕はすさまじいけど、それでもデュラハンを抑えるので精一杯か。でもいい、俺の巻物でセレナさんを脱出させられれば。


 だがデュラハンも撃たれるだけじゃない。木々を遮蔽物にしながら位置を変え、セレナさんに、そして俺に迫る。


 一人来た。攻撃は見える。しゃがみ込んで剣を避けると短剣で一撃、足に斬りつけた。ドリームズ・エンド、奴らを生み出した夢の魔法を打ち消す。

 やはりだ。デュラハンの足が消滅して転んだ、効果がある。


 だがそれは別の結果を生んだか。デュラハンたちは狙いを変えて俺に向き直る。

 あれが来る……霧となって集結、七人分の合体。


 さっきはバラバラで相手にしたけど今度はその比じゃない、各段に危険だ。さすがに胃が縮みそうだけど……だけど……。


 ――“潜行”、全てを知覚しろ、深く強く、そして一体となるように。


「それ以上は戻れなくなるよ、お兄ちゃん」


 この声はメアか。姿は見えないが声だけ脳に響く、迷宮のどこかから語りかけているんだろう。

 言いたいことは分かる。この能力はリスクも大きい、俺の意識が迷宮と混ざるような怖さがある。


「ウィル!」


 アイリーンが魔法を飛ばした。これは身体強化魔法か、俺の体が温かさに包まれる。振り返らず背中で礼を言った。


「やるよ」


 音が消え色を失い世界に没入する。あらゆる物体の輪郭を感じ取れる。霧となったデュラハン、その姿もハッキリ見える。


 霧の中から次々と剣が飛び出してくる。その瞬間だけ実体化する凶刃、それが七本。

 横に飛んで回避。肉体が強化されているおかげで一足飛びに間合いの外へ。だがデュラハンは体重がないような軽やかさで追撃、しかも今度は時間差をつけ連続で斬りかかってくる。


 俺は剣と剣の間を縫ってすれ違う。無傷だ、完全に読み切れているし体がついてきている。世界そのものと一体になったような万能感。


 このまま引き付けてやろう。アイリーンがセレナさんを救助できるように遠くへ。


 喉元まで迫る刃を短剣で弾いた。奴らの魔法が打ち破られ剣が曲がる。続く連撃は飛び退いて回避、左右へ回り込み付かず離れず誘導。

 時には飛び上がって木の枝へ、そこから地上へふわりと着地。七人分の剣を舞うようにして凌ぎ続ける。


 そして感じた。デュラハンたちが重なった中心にある核、心臓のように大事な物。今なら何となく分かる、デュラハンとは存在であり事象、この核を軸に起こる魔法であり魔物。


 あの核を破壊できればこいつらは消滅するだろうか。この短剣ならば……欲が出るけど自惚れるな、今は仲間の安全が第一だ。


「あれ……?」


 視界が暗くなった。鼻に妙な感覚があり拭ってみるとベトリとした手触り。……鼻血が出ている。

 深く潜り過ぎたのか頭に負担が来ているらしい。“潜行”が鈍る、マズい、デュラハンが来るのに……!


 襲い来る剣をギリギリで回避。だが体が重い、地面に転がりながら逃れる。マズいマズいぞ。


 だが思わぬことが。デュラハンにとっても予想外だったらしく、深く踏み込んだ剣が空回りした形だ。

 おかげでデュラハンの核が目の前にある。やるか? 逃げるか? 短剣ドリームズ・エンドを握る手に汗がにじんでいる。


 突き刺せ! 短剣を思い切りぶち込め!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ