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第66話 迫撃

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆第五層を攻略する。

「答えろ、デュラハンはまだ生きているのか?」


 <ライブラ>のステファニーが眉をしかめる。本陣に待機していた<ユリシーズ>の様子がおかしいのだ。


「……逃げろ」

「ハーキュリーか、何があった!?」

「番人には……まだ奥の手があった……奴らは合体する……」

「合体だと?」


 番人に奥の手が? 本陣にいたパーティーは敗北したということか?


「話は本当だ、本陣は壊滅してしまった!」

「博士!?」


 ここでホスルスウェイト博士が会話に割って入る。


「博士は無事なのだな?」

「小屋の中までは襲ってこなかった。だが<ユリシーズ>はじめ多くの冒険者が倒された、こちらは怪我人だらけだ」

「奴は、デュラハンはまだそこにいるのか!?」

「いや、見当たらん。どこかで鉢合わせするかもしれん、気を付けろ!」


 鉢合わせって――。


「あ」


 霧の晴れた森の中、あからさまな霧の塊が接近してくる。マジかよ。


「迎撃!」


 とっさの号令と同時にステファニーが魔法を放つ。杖の束から雨霰(あめあられ)と魔弾が飛ぶものの、霧となったデュラハンは自在に変形、縦横無尽に駆け巡る。


「ぐあっ!」


 魔術師の一人が襲われた。霧が通り抜けた瞬間に剣筋がいくつか見えただけ。後は魔術師が血を吹いて倒れる。


「合体ってそういうことかよ!?」


 単純に攻撃力は五倍、その状態で一人ずつ狩っていく気か。


「怯むな、まとめて消してやればよい!」


 あくまで堂々としたステファニー……巨大な爆炎を作り出して霧に投じようとする。


「森が丸焼けになるぞ!?」

「奴を倒せれば構わぬ、エクスプロージョン!」


 マジでやりやがった! 怪我人とか延焼とか色々マズいだろうに!


「伏せろ!」

「ガロ!?」


 ガロが俺たちを両腕にまとめ地面に突っ伏す。


 そんな中、俺の目は爆炎の向かう先、デュラハンの方を向いていた。

 そして見た。霧の塊が五人のデュラハンに戻ると一斉に剣を構え炎に立ち向かった。


 直後、森に熱風が吹き荒れる。


「ぐぅっ……!」


 ……長いさざめきが過ぎ静寂が戻った。


「ガロ大丈夫?」

「ああ、このくらい」

「でも……」


 炎が作る輪の中、デュラハンが五人健在なまま立っている。


「あの魔法を防いだんだ」

「防いだって、どうやって?」

「剣で……」


 剣で巻き起こした風圧によって炎を削り取ったんだ。撃った当人のステファニーも瞠目したまま動けない。これが奴らの力なのか、近衛の剣術が為せる業なのか。


「は、放てぇ!」


 他の魔術師たちが引きつった声で呪文を詠唱する。だがデュラハン、今度は五人バラバラに動くと瞬時に間合いを詰める。


 一閃、誰かの腕が切り飛ばされた。


「奴ら魔術師から狙ってるぞ!」

「あたしが!」


 アイリーンが杖に魔力を集中、ホーリーライトの魔法だ。


「うおっ、まぶしっ!」


 強烈な光に慌てて目を伏せるが同時に“潜行”――意識を広げて戦況を把握する。


 ……デュラハンの姿が消えている。聖光で浄化されたのか、それにしては違和感がある、周囲をもっと探れ……。


「上だ!」


 俺が叫ぶと同時に何か降ってきた。デュラハン、その刃がステファニーを貫く。


「なっ……」


 奴ら瞬間的に飛び上がって枝葉の中に隠れたんだ。ホーリーライトは光でしかないから隠れられれば効果は薄い。


 ステファニーが倒れたことで<ライブラ>はほぼ壊滅した。遠目にも重症と分かる出血。即死した人もいるかもしれない。その凶刃が今度は俺たちに向く。

 この切迫感は二度目だ。共にジョンを探したアインたちもこうして死んでいった。


 それでも戦うのか? <ユリシーズ>と<ライブラ>二大巨頭が倒れた今、この合同作戦は失敗したようなものではないか。


 では逃げるのか? 多くの怪我人を放置して?


 わずかな思考すら待ってはくれずデュラハンはもう間合いだ。


「シールド!」


 アイリーンが前面に防御壁を張った。デュラハンが弾かれ足が止まる。


「後退するぞ!」


 ガロが皆を促すが俺の目は別のものを見た。デュラハンが再び霧に変わると沈み込んでいく。


「今度は下だ!」


 咄嗟にアイリーンを引っ張った。それと入れ違いに地面からデュラハンの腕が、鋭い剣が突き上げる。


「うわ!?」

「何でもありかよ!?」


 防御壁が消える。デュラハンが迫る。次々と凶刃が振り下ろされる。


 ――“潜行”。剣を抜いて皆を守れ。


 一つ目の刃がアイリーンを襲う。感覚が研ぎ澄まされた俺にはスローだ、これを剣で思い切り弾いた。


 二つ目の刃、これも見えている。敵より早く動いて防ぐ。一撃が重いが体中の力を入れて凌ぐ。


 対応できる。ギルバートやクロエとの訓練が活きてる。三つ目四つ目の刃もハッキリ見える、これを何とか防いで五つ目の刃。


 ……マズイ。今度のは俺を押し切るための力強い一撃だ。まともに受ければ崩される。


 衝撃――体ごとぶつかるような斬撃で地面に投げ出され、同時に“潜行”も解けてしまった。

 剣は。ない、どこかに転がったか。


「ウィル!」


 後方から刃が吹き抜ける。ガロとセレナさん、突出して俺を守ってくれた。だがデュラハンを傷つけることはできない。霧になった奴らは魔法でしか倒せないのか。


「エルフ……」


 ――デュラハンたちの様子が変わった。足を止めその切っ先をセレナさんに向ける。そうだ、前に戦った時もセレナさんに特別反応していたっけ。


「今度こそ……!」


 後方でアイリーンが再び魔法を唱えようとする。だが更に後ろ、デュラハンの一人が回り込んでいるのを見つけた。


「アイリーン!」


 もう短剣しかない、ドリームズ・エンドで剣を受けに行く。刃と刃が触れた瞬間、脳裏を何かが駆け抜けた。

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