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第63話 合同作戦

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆第五層を攻略する。

 夜が明けた。今日、第五層攻略のための合同作戦が始動する。


 集結地点となる中央広場には多くの冒険者が集い、その大波に俺たち<ナイトシーカー>も飛び込んでいった。


「よう、お前たちも来てたか」

「<クラブアーマー>の……」


 甲殻鎧が目立つカンセル、魔術結社のメイキュウガニを素材にして刺々しさを増していた。知っている人がいるのは助かるが近づくと棘が痛いのが難点だ。


「あれが二大巨頭のリーダーだぜ」


 カンセルが顎をしゃくる方に皆の視線が集まっている。

 精鋭冒険者パーティー<ユリシーズ>のリーダー、ハーキュリー。その姿は……ゴテゴテでトゲトゲした武具防具の塊といった風情だった。


「何というか、全部乗せみたいな欲張り装備だね」

「あの一つ一つが名刀、業物、曰くつきのアーティファクトって話だ」

「あれで動けるのかな……」


 迷宮内を動き回るには不便な気もするが、あれで戦果を挙げているからこその英雄か。


「あっちは<ライブラ>のリーダー、“破壊の魔女”だぜ」


 物騒な異名を持つのは<魔術協会>のステファニー、理知的な雰囲気でいかにも魔術師という気配だ。

 ……けどそれより目を引くのは肩に担ぐ魔法の杖だった。多い。十本ぐらいの杖を縄で括りまとめて担いでいる。


「あれ全部使うのか」

「そうだ。十本あれば破壊力も十倍、現代魔術師では攻撃力ナンバーワンだろうな」

「頭良さそうなのに頭悪そうな発想……」


 でも使いこなせれば確かにすごい殲滅力だ、方向性がアイリーンに近い。この二人に比べたら俺の魔道具なんて短剣一本、随分貧弱に感じてしまう。


 ここらでハーキュリーが高台に上がる。この作戦は彼が実質的なリーダーか。


「呼びかけに応じてくれて感謝する。これより我々は帝都地下迷宮、第五層の攻略にかかるわけだが」


 集結した面々を一望するハーキュリー。


「これだけの面子で第五層までぞろぞろ歩く必要もない。転移魔法を使う」


 すでに第四層に転移先となるアンカーが設置されているようだ。そこへ飛ぶための大がかりな転移陣の構築が始まる。


 作業を待つ間そわそわしながら待機していると巨大な影が側に立つ。

 ……話題のハーキュリーその人だ。6フィートを超える巨漢が禍々しい鎧をまとっているんだ、俺なんか子供のように見えるだろうな。


「お前たちが<ナイトシーカー>だな?」

「は、はい」

「人数が足りなくないか?」

「……うちの魔術師は別行動をとっています」



***



 それは作戦前のこと、賢者ホセが急に俺たちを集めた。


「考えたのだが、今回私は同行できない」

「は?」

「ホセさんどしたの?」


 その発言に俺たちは当然面食らう。


「<ライブラ>と接近することが避けられそうにない。彼らに私の正体を気付かれると追及は免れないだろう」

「ああ~それは……」


 <ライブラ>のメンバーはいずれも魔法のスペシャリスト、そのうえ神秘の探求に日夜励む連中だ。何というか鼻が利きそうである。


「君たちにも迷惑がかかる。よって私は一足先に五層へ下りている」

「別行動ね。後で合流するならいっか」

「今回は味方も多いし」


 そういう訳でホセは先に迷宮へ向かったのだった。



***



「そうか別行動か。先駆けを頼もうと思ったがやめておこう」


 ハーキュリーによれば五層の経験がある俺やセレナさんを先に行かせたかったようだが、そこまで期待されるほどのものかな。


「あの番人から生き残ったという事実は十分に汲むべきことだ」

「そ、そっすか」

「やはり仕込みもあるので<ライブラ>に任せるか」


 チラリと離れた位置にいる魔術師たちを見る。


「<ライブラ>……あれが最強と(うた)われる<魔術協会>の実働部隊ですか」


 そもそも<魔術協会>とは大陸の魔法や神秘を統括する機関だが、その成り立ちはエルフの王ファリエドの呼びかけによるものだとか。

 だけど今は大半の構成員が人間種だ。政治的な争いが増えて嫌気がさしたエルフや他種族は協会を離れていき、ホセに言わせれば「レベルが下がった」らしい。


 それでも俺のから見て別格の佇まいという印象だ。それこそ先日の地下魔術結社より一段上じゃないか、そういう気配がする。少なくとも遵法精神は高いはず、そうであってくれ。


 特にリーダーのステファニーは才色兼備、希代の魔術師と称えられる協会のエースなんだとか。


 そのステファニーがこちらに歩み寄ってきた。担いだ杖の束が人垣を割って歩く様は知力より筋力が高そうだ。


「ハーキュリー、我々が先に行かせてもらうが構わぬか?」

「おう、<魔術協会>の力を見せてもらおうか」

「フン。五層へ下りるだけなら大した障害はない。問題はその先だが……」


 ステファニーの怜悧(れいり)そうな目が俺たちを見る。


「フン、エルフか」

「どうぞお気になさらずー」

「こやつらは役に立つのか? 例の魔術結社を潰したそうだが、それほどの者たちには見えんな」


 お高くとまった言い方にカチンとくるけど、実際ホセ抜きじゃどうなったか分からないからなあ。


「だが五層の番人と戦った経験がある連中だ」

「それならハーキュリー、お主は四層の番人を討った男であろう?」


 そうそう、このハーキュリーが四層の番人、確か骸骨将軍だかを討伐した英雄なのだ。


「ステファニーよ、こと番人相手では過去の武勇伝など叙事詩にしかならんさ」

「それはもっともだ。せいぜいこの者らに期待するとしよう」


 期待ですか、俺としてはアンタ方に頼りたいところだけど。


「このおっきい人が番人を倒したんだねー」


 ここで背後からアイリーンが加わってビビった。いつものペースで物怖じせず話しかける。


「鎧カッコイイね」

「分かるか。こいつは竜鱗の鎧といって、ドラゴンを倒しその鱗で作ったという最上級品、強靭で炎を寄せ付けない。兜は魔族から奪った獣魔の兜、この角飾りが良いだろう。魔人の盾は邪教の遺跡から見つけたものだ、たまに喋るぞ。そして雷鳴の槍は神話の時代にドワーフが精霊の力を借りて鋳造したという伝説の武具だ。どれも手に入れるのにかなり苦労したのだぞ」

「へーよく分かんないけど凄そ」


 聞き上手のアイリーン。


「それでさ、番人を倒したら貴族になれるって聞いたけどホントなの?」

「事実だ、皇太子殿下からも確約を得ている」

「へ~マジなんだ、お金持ちになれるね」

「……お主ら、これが噂の聖女とやらか?」


 ステファニーの顔が……そうです、あんたたちが競ってスカウトした奇跡の聖女様です。


「だが叙爵は当分先のことだろうな」

「どーして?」

「爵位を与えることができるのは皇帝陛下ただ一人。行方知れずの皇帝が見つかるまで皇太子は帝位に就くつもりがないようだ」


 つまり皇帝の遺体なりが見つかるまでは現状維持ということかね。


「じゃあそれまで死ねないね」

「死って、アイリーン……」

「そうそう、だから他人に任せてふんぞり返っておれば良いものを」


 ステファニーがハーキュリーの兜を杖で小突く。魔法暴発したら面白そうだな。


「今も好き好んで迷宮探索を続けておる」

「おいおいステファニー、お前も本来なら象牙の塔で研究三昧の身分だろう」

「フン、知れたこと」

「より強く」

「より高みへ」


 二人同時に笑う。仲良いなあんたら。

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