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第62話 決意

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆第五層を攻略する。

 マリアンが来た。それと何故かマイケルが足下にいる。


「二人ともいったい何をしているの!?」

「お嬢様、止めないでくださいませ」

「クロエ、ただの訓練には見えません。説明なさい」

「ウィル様のため、そしてお嬢様のためです」


 クロエは鋭い視線を俺に向けたまま逸らさない。


「ウィル様が五層で命を落とすことがあれば、お嬢様は一生後悔なさいます」

「それは……」

「俺はそう簡単に死なない」


 ここはそう言わねばならない。半ば強がりであっても。


「ジョン様は帰って来ませんでした」


 クロエの言葉がかすかに震えていた。


「クロエ、貴女は……」


 その先は言葉にならない、マリアンも辛そうだ。ジョン・オーウェンの死からまだそれほど経っていない。その悲しみは未だに皆を苦しめているのだと痛感する。


「ウィル様、年若い貴方が行かなくとも勇敢な方々が他にいます。危険な迷宮に挑むのはもうお止めください」

「……俺は」

「聞けばウィル様は天涯孤独の身だそうですが、貴方が傷ついて悲しむ人がいないとでもお思いですか?」


 この人は本気なんだな。俺に死ぬなと、マリアンたちを悲しませるなと憤っている。

 それだけ俺に力がないと見られているわけだが無理もない、連日のように転がされてる俺だから。だが多くの謎を解き明かすため立ち止まる訳にはいかないんだ。


 だから今、証明する。


「俺はクロエに勝って迷宮に行く」

「……」

「仲間のため、自分のため、そして皆のため、俺は五層を突破して戻ってくる。そうしないとマリアンもクロエも前に進めない」


 前に。明日に。大事な人が帰らなかったという過去を未来で塗り替える。そのために負ける訳にはいかない。


「行くよ」


 体の内で血が激しく流れる。思考が冴える。何もしていないのに自然と“潜行”していた。


 ダッシュ一発クロエに掴みかかる。だが軽くかわされ視界の外へ。

 振り返る――暇はない、前に転がり込んで起き上がる。案の定クロエは俺の背中に蹴りを入れようとしていた。


 クロエの動きは捉えられるが一手二手先に打たれる。ならば俺は三手先を読むしかない。

 下段の蹴り、これはバックして避ける。追撃か別の攻めか、いやこれは……。


「くぅっ!」


 クロエは蹴りの勢いそのまま回転し飛び蹴りを見舞ってきた。生の反応じゃまともに食らう所をギリギリ回避。だがこれで終わるクロエじゃない。

 予想通り二発、三発と回し蹴りの連射。俺は後退を繰り返しながら機を見る。


 誘え。餌を撒け。俺を追い込んだと見たクロエが重い一撃を見舞おうとするその時だ。


 ――前に。クロエの回し蹴り、その足下に転がり込んですれ違う。大技のせいで隙が大きい、背後を取った!


「……!」


 クロエが宙返り――サマーソルトキック、そのまま蹴り込んできた!


「くそっ……!」


 両腕を上げてギリギリガード、デカい衝撃が弾けて足まで伝わる。腕がしびれるのをこらえゴロゴロと転がりながら距離を取った。ちくしょう逃げるだけで精いっぱいかよ。


「立ってウィルさん!」


 マリアン……!?


「立って戦って!」

「お止めくださいお嬢様。ウィル様を復讐の道具にするおつもりですか?」

「違うわ。戦うことのできない私は皆の帰りを待つことしかできない。だけど戦うための環境づくりはしてきたつもり。私は皆を支えると決めた。それは私なりに一緒に戦うということよ。そう決めた、今決意した」

「お嬢様……」


 立つ。マリアンの言葉で立ち上がる。

 ここまで防戦一方だが色々見えてきた。俺よりずっと強いクロエ、その中にどうしようもなく致命的な隙がある。その一点に賭けるしかない。


「行くぞ!」


 正面から突撃。手を伸ばすがクロエは身をひるがえす。それでも俺には見えている、急旋回して後を追った。

 来る、迎撃の拳。俺はそれを逃げずに顔面で受けた。


「なっ……!」


 脳が揺さぶられる。体の芯まで響くようだ。しかしもう決まっている、やるべきことは決まっている。

 伸ばした腕がクロエの襟元を掴んだ。ついに捕えた。クロエは反射的に掴み返すがその動きが一瞬止まる。


「うおおおおああああああ!」


 それだけで十分。持てる限りの力で背負い投げ、クロエを地面に叩きつけた。




 大の字になったクロエは動こうとしない。俺も動く力がなく息が荒い。


「ゴメン」

「謝る必要などありません」

「いや、クロエの優しさに付け込んだ。俺が前に骨折した所は避けてたでしょ?」

「……」


 本当に優しい人なんだ。俺になんか投げられず、逆に投げ返すことだってできたはず。


「俺は迷宮に挑むよ」

「もうお止めはしません。お嬢様も、申し訳ありませんでした」

「クロエ……」


 マリアンがクロエを労わるように声を掛ける。主従であるが姉妹のように育ってきたであろう二人だ、今はそっとしておこう。


 それはそうと俺はマイケルを摘まみ上げる。


「にゃあ~」

「お前がマリアンを連れてきたのか?」

「にゃ。丸く収まって良かったにゃ、思ってたのと違ったけど」

「気を遣ってくれたんだな」

「この猫には美人のお嬢様の飼い猫になるという遠大な計画があるにゃあ。そのために子分は必要にゃあ」

「誰が子分だ」


 迷宮の魔物がそんなことを望むんだな。まあいい、俺はたくさんの想いを抱えて深層を目指す。そう決めた、月のきれいな夜だった。

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